5.3 L,Q の評価

この節では、以下の定理 5.1 を示す。


定理 5.1

$\Delta x$ には無関係な正の定数 $\hat{\delta}_4$, $\hat{\delta}_5$, $K$ を取って、以下を満たすようにすることができる:

$\mathop{\mathrm{TV}}\nolimits _R U_0<\hat{\delta}_4$, $U_0(x)\in B_{\hat{\delta}_{5}}(\bar{U})$ であれば次が成り立つ。
  1. すべての $t>0$, $x$ に対し、 $U^\Delta(t,x)\in B_{\hat{\delta}_{3}}(\bar{U})$ となる。
  2. $Q(J)$$L(J)+KQ(J)$$J$ に関して単調減少。


この定理 5.1 を満たす $\hat{\delta}_4$, $\hat{\delta}_5$ であるが、まず、 $\hat{\delta}_5$ はとりあえず $\hat{\delta}_5\leq \hat{\delta}_3$ であるとすれば、 $0\leq t< t_1$ での Riemann 問題の解の値 $U^\Delta (t,x)$ $B_{\hat{\delta}_{1}}(\bar{U})$ に入ることになるが、 これが $B_{\hat{\delta}_{3}}(\bar{U})$ に入るように $\hat{\delta}_5$ を取る。 (2.17) より、それには

\begin{displaymath}
(1+2M_1M_2)\hat{\delta}_5\leq\hat{\delta}_3\end{displaymath} (5.60)

であるように取ればよい。

今、 $U^\Delta(t,x)\in B_{\hat{\delta}_{3}}(\bar{U})$ である範囲の $I$-曲線を $I$ を一つとり ( $\hat{\delta}_5$ の定義より $O$ は少なくともそれを満たす)、 その直後の $I$-曲線 $J$ を一つとる。 この $I$$J$ の共通部分を $I_0$、異なる部分は、 $I$, $J$ に属する部分をそれぞれ $I'$, $J'$ とする (図 5.4)。

図 5.4: $I$$J$
\includegraphics[height=0.2\textheight]{icurve4.eps}
図 5.5: $\gamma $, $\delta $, $\varepsilon $
\includegraphics[height=0.2\textheight]{icurve5.eps}
また、$I'$, $J'$ の作る四角形のうち、 $I'$ の南西線分と交わる波を $\gamma $, $I'$ の南東線分と交わる波を $\delta $, $J'$ と交わる波を $\varepsilon $ とする (図 5.5)。

このとき、$L(I)$ は、

\begin{displaymath}
L(I)
=L(I_0)+L(I')
=L(I_0)+\sum_{i}\vert\gamma_i\vert + \sum_{i}\vert\delta_i\vert\end{displaymath} (5.61)

と書くことができる。 ただし、$L(I_0)$, $L(I')$ 等はそれぞれの部分に交わる波に 関する和であるとする。

同様に $L(J)$ は、

\begin{displaymath}
L(J)
=L(I_0)+L(J')
=L(I_0)+\sum_{i}\vert\varepsilon _i\vert\end{displaymath} (5.62)

となるが、$I'$ での $U^\Delta$ $B_{\hat{\delta}_{3}}(\bar{U})$ に入っているので、 相互作用評価の定理 4.1 により、
\begin{displaymath}
\vert\varepsilon -\gamma-\delta\vert\leq M_3D(\gamma,\delta)
\end{displaymath}

が成り立つ。よって、
$\displaystyle \sum_{i}\vert\varepsilon _i\vert$ $\textstyle \leq$ $\displaystyle \sum_{i}\vert\gamma_i\vert + \sum_{i}\vert\delta_i\vert + NM_3D(\gamma,\delta)$  
  $\textstyle \leq$ $\displaystyle \sum_{i}\vert\gamma_i\vert + \sum_{i}\vert\delta_i\vert + NM_3 Q(I')$ (5.63)

となるので、(5.10), (5.11), (5.12) より、
\begin{displaymath}
L(J)\leq L(I)+NM_3Q(I')\end{displaymath} (5.64)

が成り立つ。

また、記号 $Q(I_0,I')$ で、$Q(I)$ のうち $I_0$ と交わる波と $I'$ と交わる波同士で近づくものに関する和を 表すことにすると、$Q(I)$, $Q(J)$

$\displaystyle Q(I)$ $\textstyle =$ $\displaystyle Q(I_0)+Q(I')+Q(I_0,I'),$ (5.65)
$\displaystyle Q(J)$ $\textstyle =$ $\displaystyle Q(I_0)+Q(I_0,J')$ (5.66)

と書ける。ここで、この $Q(I_0,J')$ は、
\begin{displaymath}
Q(I_0,J')
=\sum_{\mbox{\scriptsize$\alpha_j$ は $I_0$ と交...
...n _i$ と近づく}}
\vert\alpha_j\vert \vert\varepsilon _i\vert
\end{displaymath}

であり、この和の各項を場合分けして考える。

  1. $i<j$ のとき
    このときは、$\alpha_j$$J'$ より左の $I_0$ に交わらないといけないが、 その場合 $\alpha_j$$\gamma_i$, $\delta_i$ とも近づくことになり、 よって $\vert\alpha_j\vert \vert\gamma_i\vert$, $\vert\alpha_j\vert \vert\delta_i\vert$$Q(I_0,I')$ に含まれ、かつ
    \begin{displaymath}
\vert\alpha_j \vert\varepsilon _i\vert
\leq \vert\alpha_j...
...t \vert\delta_i\vert
+M_3D(\gamma,\delta)\vert\alpha_j\vert
\end{displaymath} (5.67)

    が成り立つ。
  2. $i>j$ のとき
    この場合は 1. と同様であり、 $\vert\alpha_j\vert \vert\gamma_i\vert$, $\vert\alpha_j\vert \vert\delta_i\vert$$Q(I_0,I')$ に含まれ、 (5.16) も成り立つ。
  3. $i=j$ でかつ $\alpha_j$$j$-衝撃波のとき
    この場合も $\alpha_j(=\alpha_i)$$\gamma_i$, $\delta_i$ とも近づくので 1. と同様で、 $\vert\alpha_j\vert \vert\gamma_i\vert$, $\vert\alpha_j\vert \vert\delta_i\vert$$Q(I_0,I')$ に含まれ、 (5.16) が成り立つ。
  4. $i=j$ でかつ $\alpha_j$$j$-衝撃波でない場合
    この場合は $\varepsilon _i$ が衝撃波でなければいけない。 よって、$i$-特性方向は真性非線形であり、 $\alpha_j(=\alpha_i)>0$, $\varepsilon _i<0$ となる。

    いま、もし $\gamma_i$$\delta_i$ がともに衝撃波であれば、 やはり 1. と同じであるが、 $\gamma_i$ が衝撃波で、$\delta_i$ が衝撃波でない (膨張波か 0 の) 場合は、

    \begin{displaymath}
\varepsilon _i<0,\hspace{1zw}\gamma_i<0,\hspace{1zw}\delta_i\geq 0
\end{displaymath}

    となるので、
    \begin{eqnarray*}\vert\varepsilon _i\vert
&=&
-\varepsilon _i
=
(-\varepsilo...
...vert\gamma_i\vert
\leq
M_3D(\gamma,\delta)+\vert\gamma_i\vert
\end{eqnarray*}


    が成り立ち、よってこの場合は
    \begin{displaymath}
\vert\alpha_j\vert \vert\varepsilon _i\vert
\leq \vert\al...
...ert \vert\gamma_i\vert+M_3D(\gamma,\delta)\vert\alpha_j\vert
\end{displaymath}

    となり、そしてこの $\vert\alpha_j\vert \vert\gamma_i\vert$$Q(I_0,I')$ に含まれる。

    $\gamma_i\geq 0$, $\delta_i<0$ の場合も同様で、

    \begin{displaymath}
\vert\alpha_j\vert \vert\varepsilon _i\vert
\leq \vert\al...
...ert \vert\delta_i\vert+M_3D(\gamma,\delta)\vert\alpha_j\vert
\end{displaymath}

    となり、 $\vert\alpha_j\vert \vert\delta_i\vert$$Q(I_0,I')$ に含まれる。

    最後に、 $\gamma_i\geq 0$ かつ $\delta_i\geq 0$ の場合は、

    \begin{displaymath}
\vert\varepsilon _i\vert
=
-\varepsilon _i
=
(-\varepsi...
...repsilon _i-\gamma_i-\delta_i\vert
\leq
M_3D(\gamma,\delta)
\end{displaymath}

    なので、
    \begin{displaymath}
\vert\alpha_j\vert \vert\varepsilon _i\vert
\leq M_3D(\gamma,\delta)\vert\alpha_j\vert
\end{displaymath}

    となる。
結局、以上の考察により、
$\displaystyle Q(I_0,J')$ $\textstyle \leq$ $\displaystyle Q(I_0,I')+NM_3D(\gamma,\delta)
\sum_{\mbox{\scriptsize$\alpha_j$ は $I_0$ に交わる}}\vert\alpha_j\vert$  
  $\textstyle \leq$ $\displaystyle Q(I_0,I')+NM_3Q(I')L(I_0)$ (5.68)

が得られることになる。 よって、もし
\begin{displaymath}
L(I)NM_3\leq\frac{1}{2}\end{displaymath} (5.69)

であれば、
\begin{displaymath}
L(I_0)NM_3\leq L(I)NM_3\leq\frac{1}{2}
\end{displaymath}

なので、(5.14), (5.15), (5.17) より、
\begin{displaymath}
Q(J)
\leq
Q(I_0)+Q(I_0,I')+\frac{1}{2}Q(I')
=
Q(I)-\frac{1}{2}Q(I')\end{displaymath} (5.70)

となるので、
\begin{displaymath}
Q(J)\leq Q(I)\end{displaymath} (5.71)

が従う。 さらに、$K=2NM_3$ とすれば、同じ仮定 (5.18) の下、 (5.13), (5.19) により、
\begin{eqnarray*}L(J)+KQ(J)
&\leq &
L(I)+NM_3Q(I')+2NM_3\left(Q(I)-\frac{1}{2}Q(I')\right)
 &=&
L(I)+2NM_3Q(I)\end{eqnarray*}


となり、
\begin{displaymath}
L(J)+KQ(J)\leq L(I)+KQ(I)\end{displaymath} (5.72)

が従うことになる。

5.1 節の最後に述べたように、 $U^\Delta$ が定ベクトルである部分以外では $O$ から直後の $I$-曲線を一つ一つたどって $J$ までたどりつくことが 可能であるから、 この (5.20), (5.21) は、 (5.18) が その途中の $I$-曲線すべてに成り立つという仮定の下で $O$ から $J$ まで成り立ち、

\begin{displaymath}
Q(J)\leq Q(O),\hspace{1zw}L(J)+KQ(J)\leq L(O)+KQ(O)\end{displaymath} (5.73)

が言える。

ここで、一般に

\begin{eqnarray*}Q(I)
&=&
\sum_{\mbox{\scriptsize$\alpha_i$ と $\beta_j$ は ...
...ize$\beta_j$ は $I$ と交差}}
\vert\beta_j\vert
 &=&
L(I)^2\end{eqnarray*}


となるので、
\begin{displaymath}
L(O)+KQ(O)\leq L(O)+KL(O)^2=L(O)(1+KL(O))\end{displaymath} (5.74)

となる。 よって、もし
\begin{displaymath}
L(O)\leq \frac{1}{2K}=\frac{1}{4NM_3}\end{displaymath} (5.75)

であれば、$O$ はまず (5.18) を満たし、 よって $O$ の直後の $I$-曲線 $J$ は (5.22) を満たすので、
\begin{displaymath}
L(J)
\leq L(O)(1+KL(O))
\leq \frac{1}{2K} \frac{3}{2}
\leq \frac{1}{K}\end{displaymath} (5.76)

となり、$L(J)$ は (5.22) を満たすことになる。 それにより $J$ の直後の $I$-曲線に再び (5.22) が使えることになり、これを繰り返すことができることになる。 この (5.24) が成り立つようにするには、 (5.8) より
\begin{displaymath}
\mathop{\mathrm{TV}}\nolimits _R U_0
\leq \frac{1}{\sqrt{N}M_1} \frac{1}{2K}
=\frac{1}{4N\sqrt{N}M_1M_3}\end{displaymath} (5.77)

であればよい。 これで定理 5.1 の (1) が成り立てば、定理 5.1 の (2) は成立することになる。

定理 5.1 の (1) の方は、 (5.7), (5.8), (5.9), (5.23), (5.24) より、$I$ 上の $(t,x)$ に対して、

\begin{eqnarray*}\vert U^\Delta(t,x)-\bar{U}\vert
&\leq &
\vert U^\Delta(t,x)-...
...}{2}\sqrt{N}M_1M_2\hat{\delta}_4+\frac{\hat{\delta}_3}{1+2M_1M_2}\end{eqnarray*}


であるので、
\begin{displaymath}
\frac{3}{2}\sqrt{N}M_1M_2\hat{\delta}_4
\leq
\frac{2M_1M_2}{1+2M_1M_2}\hat{\delta}_3\end{displaymath} (5.78)

であれば、 $\vert U^\Delta-\bar{U}\vert<\hat{\delta}_3$ も アプリオリに得られることになる。

結局、(5.9), (5.26), (5.27) により、 $\hat{\delta}_4$, $\hat{\delta}_5$

\begin{displaymath}
\hat{\delta}_4
\leq
\min\left\{
\frac{4\hat{\delta}_3}{3\sq...
...hspace{1zw}
\hat{\delta_5}\leq\frac{\hat{\delta}_3}{1+2M_1M_2}
\end{displaymath}

を満たせばよいことになる。 これで定理 5.1 が証明された。

この証明より、この定理 5.1 は、 (5.22) から得られる (5.25) の形の不等式が重要な役割を果たしていることがわかるが、 この式が Glimm の差分近似解のすべての評価を支えるアプリオリ評価である。

双曲型保存則の非線形相互作用により、 $L(J)$ をそのまま $L(O)$ でおさえることはできず、 相互作用も考慮した $KQ(J)$ の項がつくことでようやく単調性が導かれて、 初期値で評価できることになる。 このような相互作用項 $KQ(J)$ の必要性は、 相互作用評価の定理 4.1 から予言されるものであり、 ここが Glimm 差分の評価の重要なポイントであると言える。

なお、通常のエネルギー汎関数が時刻に関して単調減少することになぞらえて、 (5.20), (5.21) のように $I$-曲線に関する単調性を持つ汎関数 ($Q$$L+KQ$) のことを、 Glimm ポテンシャル と呼ぶことがある。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年1月18日