5.1 I-曲線

[Glimm] では、Glimm 差分近似解の評価を行うために、 $I$-曲線というものを導入し、近似解の横断的な評価を説明している。

$I$-曲線 は、左から右に伸びる折れ線で、 $a^n_m$ の右隣りの頂点は、$a^{n+1}_{m+1}$$a^{n-1}_{m+1}$ であるものを言う。 なお、$n=0$ に対しては

\begin{displaymath}
a^0_m=(0,m\Delta x)\hspace{1zw}(\mbox{$m$ は奇数})
\end{displaymath}

とする。
図 5.1: $I$-曲線
\includegraphics[height=0.2\textheight]{icurve1.eps}

なお、[Glimm], [Smoller] などでは、$I$-曲線には 特にこれ以外の制限を設けてはいないが、 しばらくは $t_{n-1}\leq t\leq t_{n+1}$ ($n=1,2,\ldots$) の $2\Delta t$ 幅に入り、左右の両方に無限に伸びるもののみを考えるが、 のちほどそれとは別の、特別な $I$-曲線も使う。

$I$-曲線には、$t$ 方向を上と見て自然な半順序関係を考えることができる。 その順序に関する最小元、すなわち $0\leq t\leq t_1$ の範囲に 一意に決まる $I$-曲線を $O$ と書くことにする。 また、1 つの頂点のみが異なる ($a^{n+1}_m$$a^{n-1}_m$) $I$-曲線の組を、 その大きい方 ($a^{n+1}_m$ を持つ方) を、 小さい方 ($a^{n-1}_m$ を持つ方) に対する直後の $I$-曲線 と呼ぶ。

図 5.2: 直後の $I$-曲線
\includegraphics[height=0.2\textheight]{icurve2.eps}
一つの $I$-曲線に対して直後の $I$-曲線はもちろん一意には決まらず、 たくさん存在する。

$I$-曲線は、近似解の波と交差しながら左から右へ伸びていくが、 その交差する波に関して、次のような汎関数を定める:

$\displaystyle L(J)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{\mbox{\scriptsize$\alpha_j$ は $J$ と交差}}\vert\alpha_j\vert %\label{eq:estimate:L}
$ (5.52)
$\displaystyle Q(J)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{\mbox{\scriptsize$\alpha_i$ と $\beta_j$ は $J$ と交差し近づく}}
\vert\alpha_i\vert \vert\beta_j\vert %\label{eq:estimate:Q}
$ (5.53)

ここで、「交差する波」であるが、 例えば $a^n_m$ が膨張波 $\alpha_j$ の中間にあり、 $I$-曲線 $J$ は実際にはその膨張波の一部としか交わっていない場合 (図 5.3)、 その交わっている部分 $\alpha_j^1$ の大きさ $\vert\alpha_j^1\vert$ のみを 和に加えることとする。

図 5.3: $J$ が膨張波の一部とのみ交わる場合
\includegraphics[height=0.2\textheight]{icurve3.eps}

また、$Q(J)$ の、$\alpha_i$$\beta_j$ が「近づく」とは、 $\alpha_i$$\beta_j$ の左にある場合は $i>j$、または $i=j$$\alpha_i$$\beta_j$ の 少なくとも一方が衝撃波である場合を言う。 この場合は、波の出発点が離れているもの、 $t$ が違うものなどもすべて考えることにする。

3 節の Glimm 差分の作り方によれば、 $I$-曲線と交わる波は高々有限個であるから $L(J)$, $Q(J)$ は有限和としてちゃんと定義できる。 また、$\vert x\vert$ の大きいところには波がなくて $U^\Delta$ は一定であるから、 そのような波のない場所でのみ異なる $I$-曲線間の $L$, $Q$ の値は それぞれ同じものになる。 その値の意味で考えれば (つまり、波と交わらない部分のみが異なる $I$-曲線を 同一視して考えれば)、どの $I$-曲線 ($2\Delta t$ 幅に入るもの) も、 $O$ から有限個の直後の $I$-曲線をたどってたどりつくことができることになる。 後で、そのような形での帰納法を用いて評価を求める。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年1月18日