5.4 解の存在定理

これまで考察してきた保存則方程式 (5.1) の単純波は、 例えば衝撃波の構造は大域的に存在の保証があるわけではなく、 局所的に (十分小さい $\vert\delta\vert$ に対して) それが示されたに過ぎず、 よって、リーマン問題 (5.2) の解も、 後で例で示すように相空間 $\Omega $ の任意の $U_l$, $U_r$ に対して 存在するわけではない。

しかし、$U_l$, $U_r$ が十分近ければ、 その解が今まで紹介した単純波で構成できることが知られている ([5])。


定理 5.2

双曲型保存則方程式 (5.1) の すべての $k$-特性方向が、 $\Omega $ 内で真性非線形であるか、または線形退化である場合、 $\Omega $ 内の各 $\bar{U}$ に対し、 $\bar{U}$ を含む十分小さい近傍 $Q$ ($\subset\Omega$) をとれば、 この $Q$ 内の任意の $U_l$, $U_r$ に対して、 リーマン問題 (5.2) の解は、 原点を出発する高々 $N$ 個の単純波 (膨張波、衝撃波、接触不連続) と、 それにはさまれる高々 $(N+1)$ 個の定数ベクトル (一番左と一番右は $U_l$, $U_r$) によって構成できる。


この定理は、後で説明するように気体の例の場合は 具体的に解を構成する手順を与えられるし、 $U_l$$U_r$ が近くない場合でも解が求められる場合もあるが、 一般の方程式 (5.1) の場合は 陰関数定理によって十分近くの $U_l$, $U_r$ に対して 解の存在が示せるにすぎず、 具体的に構成するのも難しい。 しかし少なくともそのような $U_l$, $U_r$ に対して 必ずその形で $U_l$ から $U_r$ へ単純波をつないで 解を作ることができることが保証される。

証明

$k$-特性方向が真性非線形である場合は、 命題 5.1 の証明にある $U_k(\delta)$ $U_k(\delta; U_l)$ と書くこととし ($\delta >0$ のときは膨張波の右に現われるベクトル、 $\delta <0$ のときは衝撃波の右に現われるベクトル)、 $k$-特性方向が線形退化である場合は、 $U_k(\delta; U_l)$

\begin{displaymath}
U'(\delta)=r_k(U(\delta)),\hspace{1zw}U(0)=U_l
\end{displaymath}

を満たすものであるとすれば (接触不連続の右に現われるベクトル)、 $U_k(\delta; U_0)$ は、$U_0$ と単純波を挟んで右に表われるベクトルで、 いずれも以下を満たす:

\begin{displaymath}
U_k'(0; U_0)=r_k(U_0)
\end{displaymath}

このとき、

\begin{displaymath}
V_1=U_1(\delta_1;U_0),\hspace{1zw}
V_2=U_2(\delta_2;V_1),\hspace{1zw}
\ldots,\hspace{1zw}
V_N=U_N(\delta_N;V_N)
\end{displaymath}

とすると、$V_N$$\delta_1$, $\delta_2$, ..., $\delta_N$, および $U_0$ の関数となる。 それを $T(\delta_1,\ldots,\delta_N; U_0)$ と書くことにする:

\begin{displaymath}
V_N
=T(\delta_1,\ldots,\delta_N; U_0)
=U_N(\delta_N;U_{N-1}(\delta_{N-1};\ldots U_1(\delta_1;U_0)\ldots ))
\end{displaymath}

このとき、リーマン問題の解を求めることは、方程式

\begin{displaymath}
U_r=T(\delta_1,\ldots,\delta_N;U_l)
\end{displaymath}

を満たす $\delta_1$,...,$\delta_N$ を求めることになる。

$U_k(0;V_{k-1})=V_{k-1}$ なので、

\begin{displaymath}
T(\delta_1,\ldots,\delta_j,0,\ldots,0;U_0)=V_j=U_j(\delta_j;V_{j-1}),
\hspace{1zw}T(0,\ldots,0;U_0)=U_0
\end{displaymath}

が言える。よって、

\begin{displaymath}
T(0,\ldots,0,\delta_j,0,\ldots,0;U_0)=U_j(\delta_j;U_0)
\end{displaymath}

であり、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\frac{\partial\, T}{\partial\, \delta_j}(0,\ldots,0;U_...
...\rightarrow 0}\frac{U_j(h;U_0)-U_0}{h}
=U_j'(0;U_0)
=r_j(U_0)
\end{eqnarray*}

となる。よって、

\begin{displaymath}
\left\vert\frac{\partial\, T}{\partial\, \delta_1}\,\ldots\...
...0)
=\left\vert r_1(U_0)\,\ldots\,r_N(U_0)\right\vert
\neq 0
\end{displaymath}

となる。任意の $\bar{U}\in\Omega$ に対し

\begin{displaymath}
T(0,\ldots,0;\bar{U})-\bar{U}=0
\end{displaymath}

であるから、方程式

\begin{displaymath}
T(\delta_1,\ldots,\delta_N;U_l)-U_r=0
\end{displaymath}

に陰関数定理を適用すれば、$\bar{U}$ を含む近傍 $Q$、および $Q\times Q$ から $R^N$ への関数

\begin{displaymath}
\hat{\delta}(U_l,U_r)
=(\hat{\delta}_1(U_l,U_r),\ldots,\hat{\delta}_N(U_l,U_r))
\end{displaymath}

を、 $\hat{\delta}(U_l,U_l)=(0,\ldots,0)$、および

\begin{displaymath}
(\delta_1,\ldots,\delta_N)=\hat{\delta}(U_l,U_r)
\hspace{...
...rightarrow\hspace{1zw}
T(\delta_1,\ldots,\delta_N;U_l)-U_r=0
\end{displaymath}

を満たすように取ることができる (そのようなものが存在することが保証される)。

これにより、$U_l$ から $U_r$ までを $V_j=U_j(\delta_j;V_{j-1})$ ($j=1,\ldots,N$, $V_0=U_l$, $V_N=U_r$) によって単純波と定数ベクトルで つなぐことができ、それによって リーマン問題 (5.2) の解を構成できる。


5.2 節の内容、 およびこの定理の証明は、単にリーマン問題の解の存在だけではなく、 このような形の解が一意的に決まることも示している。

竹野茂治@新潟工科大学
2018-08-01