3.2 保存則方程式系

連立の保存則方程式系 (3.1) を、 まずベクトルを使って書き直す。

\begin{displaymath}
U={\,}^T\!(u_1,u_2,\ldots,u_N)=\left[\begin{array}{c}u_1\\ u_2\\ \vdots\\ u_N\end{array}\right]
\end{displaymath}

と書き (${\,}^T\!{\,}$ は転置)、 $f_j(u_1,\ldots,u_N)$$f_j(U)$ のように書くことにする。 また、

\begin{displaymath}
F(U)={\,}^T\!(f_1(U),f_2(U),\ldots,f_N(U))
=\left[\begin{array}{c}f_1(U)\\ f_2(U)\\ \vdots\\ f_N(U)\end{array}\right]
\end{displaymath}

とすると、(3.1) は簡単に
\begin{displaymath}
U_t+F(U)_x=0\end{displaymath} (3.21)

と書ける。 $F(U)$$U$ の適当な階数分滑らか (微分可能) な関数と考えるが、 その $U$ の定義域を $\Omega (\subset R^N)$ とする。

例えば、(2) で扱ったオイラー座標系の理想気体の 保存則方程式の場合は、

\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
U=\left[\begin{array}{c}\rho\\ m \\ E\end{...
...(\rho,m,E);\ \rho>0,\ E-\frac{m^2}{2\rho}>0\right\}
\end{array}\end{displaymath}

となっている。

$U$ の関数 $g(U)=g(u_1,\ldots,u_N)$ に対し、$U$ に関する微分演算子 $\nabla_U$

\begin{displaymath}
\nabla_U g(U) = \left(\frac{\partial\, g}{\partial\, u_1},\f...
...rtial\, u_2},\ldots,\frac{\partial\, g}{\partial\, u_N}\right)
\end{displaymath}

と定義し、$F(U)$ に対しては、

\begin{displaymath}
\nabla_U F(U) = \left[\begin{array}{c}\nabla_U f_1(U)\\ \nab...
...e \frac{\partial\, f_N}{\partial\, u_N}\\
\end{array}\right]
\end{displaymath}

のように定める。

一般に、

\begin{eqnarray*}g(U)_x
&=&
\frac{\partial\, g}{\partial\, u_1}\,\frac{\parti...
...abla_U g(U) \frac{\partial\, U}{\partial\, x} = \nabla_U g(U) U_x\end{eqnarray*}

であり、よって

\begin{displaymath}
F(U)_x = \nabla_U F(U)U_x
\end{displaymath}

であるから、$U$ が (3.2) の 滑らかな解であれば、(3.2) は、
\begin{displaymath}
U_t+ A(U)U_x =0\end{displaymath} (3.22)

の形に書ける ( $A(U)=\nabla_U F(U)$)。

$U\in\Omega$ に対して、 連立の準線形の 1 階の微分方程式 (3.3) の 係数行列 $A(U)$ の固有値がすべて異なる実数であるとき、 (3.3) は 双曲型 (hyperbolic) であると呼ぶ。 その固有値を

\begin{displaymath}
\lambda_1(U)<\lambda_2(U)<\cdots<\lambda_N(U)
\end{displaymath}

と書き、$\lambda_j(U)$ に対する $A(U)$ の右固有ベクトル (列ベクトル) を $r_j(U)$、左固有ベクトル (行ベクトル) を $l_j(U)$ と書くことにする:

\begin{displaymath}
A_j(U)r_j(U)=\lambda_j(U)r_j(U),\hspace{1zw}
l_j(U)A_j(U)=\lambda_j(U)l_j(U)
\end{displaymath}

なお、$F(U)$$U\in\Omega$ で滑らかなときに、 $\Omega $ 全体で滑らかな $\lambda_j(U)$, $r_j(U)$, $l_j(U)$ が 存在するかどうかについては、C.1 節を 参照のこと。 少なくとも局所的にはそれらが存在することは示せるので、 必要なら $\Omega $ を少し狭く考えることで、 $\Omega $ 上で滑らかな $\lambda_j(U)$, $r_j(U)$, $l_j(U)$ が 存在するとみなせる。 よって、以後はそのように考える ($\Omega $ で存在する) こととする。

竹野茂治@新潟工科大学
2018-08-01