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2.2 絶対収束

$\alpha_n\geq 0$ のとき (このとき 正項級数 という)、 $S_n$ は単調に増加する数列となるが、 単調増加数列に関しては次のことが知られている。


定理 4

単調増加数列 $\{\beta_n\}$ は、上に有界ならばある値に収束する。 上に有界でなければ $\infty$ に発散する。


これは、実数の定義と深く関わる定理で、証明は省略する。

なお、数列 $\{\gamma_n\}$上に有界である とは、

\begin{displaymath}
\gamma_n\leq N \hspace{1zw}(\mbox{すべての $n$\ に対して})
\end{displaymath}

となるような有限の値 $N$ が存在することをいう。 例えば $\{1-1/n\}=\{0,1/2,2/3,\ldots\}$ は 上に有界であるが、$\{\log n\}$ は上に有界ではない。

よって正項級数は、上に有界で収束するか、 $\infty$ に発散するか、のいずれかとなる。

この定理 4 から、 次のこともすぐにわかる。


命題 5

$0\leq \alpha_n\leq \beta_n$ のとき、

  1. $\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \beta_n$ が収束するならば $\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \alpha_n$ も収束する
  2. $\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \alpha_n$ が発散するならば $\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \beta_n$ も発散する


この命題は、以下のようにもう少し拡張することもできる。


命題 6

$\alpha_n\geq 0$, $\beta_n\geq 0$ で、 $\alpha_n/\beta_n\rightarrow M>0$ のとき、 $\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \alpha_n$ の収束、発散と $\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \beta_n$ の収束、発散とは一致する。


証明

$\alpha_n/\beta_n\rightarrow M>0$ より、 十分大きい $N$ より先の $n$ に対しては 少なくとも $M/2<\alpha_n/\beta_n<2M$ が成り立つ2。 よって、$n\geq N$ に対しては、 $\alpha_n<2M\beta n$, および $\beta_n<(2/M)\alpha_n$ となるから、 命題 5 より $\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \alpha_n$ の収束、発散と $\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \beta_n$ の収束、発散とは一致する (収束、発散は、十分先の $n$ のみで考えればよい)。


無限級数 (1) が 絶対収束する とは、 $\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \vert\alpha_n\vert$ が有限の値に収束することを言う 3


命題 7

絶対収束する無限級数は収束する。


証明

実数 $x$ に対して、正の部分 $x^{+}$ と負の部分 $x^{-}$ を次のように 定める:

\begin{displaymath}
x^{+}=\left\{\begin{array}{ll}
x & (x>0\mbox{ のとき})\\
...
... のとき})\\
-x & (x\leq 0\mbox{ のとき})
\end{array}\right. \end{displaymath}

$x^{+}$$x^{-}$ のはどちらか一方は常に 0 で、

\begin{displaymath}
x=x^{+}-x^{-},\hspace{1zw}\vert x\vert=x^{+}+x^{-}, \hspace{1zw}0\leq x^{+},x^{-}\leq \vert x\vert
\end{displaymath}

が成り立つ。

これを用いて、

\begin{displaymath}
\sum_{k=1}^n\alpha_k=\sum_{k=1}^n(\alpha_k^{+}-\alpha_k^{-})
=\sum_{k=1}^n\alpha_k^{+}-\sum_{k=1}^n\alpha_k^{-}
\end{displaymath}

と分けると、 $0\leq\alpha_k^{+}\leq\vert\alpha_k\vert$, $0\leq\alpha_k^{-}\leq\vert\alpha_k\vert$ で、仮定より $\displaystyle \sum_{k=1}^n \vert\alpha_k\vert$ は有限の値に収束するから、 命題 5 より $\displaystyle \sum_{k=1}^n\alpha_k^{+}$, $\displaystyle \sum_{k=1}^n\alpha_k^{-}$ も有限の値に収束する。 よって、 $\displaystyle \sum_{k=1}^n\alpha_k$ も有限の値に収束する。



系 8

(1) が絶対収束するとき、

\begin{displaymath}
\left\vert\sum_{n=1}^\infty \alpha_n\right\vert\leq \sum_{n=1}^\infty \vert\alpha_n\vert
\end{displaymath}


証明

上の命題 7 の証明から

\begin{displaymath}
\sum_{n=1}^\infty\alpha_n
=\sum_{n=1}^\infty\alpha_n^{+}-\...
... =\sum_{n=1}^\infty\alpha_n^{+}+\sum_{n=1}^\infty\alpha_n^{-}
\end{displaymath}

がすぐにわかる。よって、

\begin{eqnarray*}\left\vert\sum_{n=1}^\infty \alpha_n\right\vert
&=&
\left\ver...
...=1}^\infty\alpha_n^{-}
=
\sum_{n=1}^\infty \vert\alpha_n\vert
\end{eqnarray*}


しかし、命題 7 の逆は言えない。つまり、 $\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \alpha_n$ は収束しても $\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \vert\alpha_n\vert$ が収束するとは限らない。 例えば、

\begin{displaymath}
\sum_{n=1}^\infty \frac{(-1)^{n-1}}{n}
= 1-\frac{1}{2}+\frac{1}{3}-\frac{1}{4}+\cdots\end{displaymath} (4)

$\log 2$ に収束する (3.5 節で示す) が、

\begin{displaymath}
\sum_{n=1}^\infty \left\vert\frac{(-1)^{n-1}}{n}\right\vert
= 1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\cdots =
\infty
\end{displaymath}

このように、収束はするが絶対収束しない級数を、条件収束 するという。 一般に条件収束級数の取り扱いは厄介であり、 級数に関する性質の多くは絶対収束級数に対するものである。 ここでは条件収束級数の厄介さを物語る次の命題のみを証明なしに紹介しておく。


命題 9

  1. 条件収束級数 $\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \alpha_n$ に対しては、 $\displaystyle \sum_{n=1}^\infty \alpha_n^{+}
=\sum_{n=1}^\infty \alpha_n^{-}=\infty$、 すなわち、正の部分も負の部分も無限大に発散する。
  2. 条件収束級数は、項の順序を (無限回) 前後に入れ換えることにより、 どんな実数値にでも収束させることができる。 しかし絶対収束級数の場合は、順序の入れ替えを行っても値は変わらない。


ここでいう「無限回の項の順序の入れ変え」とは 単に級数の 3 番目と 4 番目の項だけを入れかえる、 ということではなく (それでは値は変わらない)、 例えば (4) で言えば、 負の項が 2 つおきになるように後ろにずらして、

\begin{displaymath}
\hat{S}
=
1+\frac{1}{3}-\frac{1}{2}+\frac{1}{5}+\frac{1...
...1}-\frac{1}{6}
+\frac{1}{13}+\frac{1}{15}-\frac{1}{8}
+\cdots\end{displaymath} (5)

のようにすることを意味する。 この値が、実際に (4) (これを $S$ とする) とは異なることを 以下に示す。

$S$ は、命題 3 より 2 つずまとめて考えると、

\begin{displaymath}
S
=
\left(1-\frac{1}{2}\right)+\left(\frac{1}{3}-\frac{1}{4}...
...n-1}-\frac{1}{2n}\right)
=
\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{2n(2n-1)}
\end{displaymath}

と書くことができて、

\begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow\infty}\frac{1}{2n(2n-1)}\times n^2=\frac{1}{4}
\end{displaymath}

となり、後で示すように $\displaystyle \sum_{n=1}^\infty\frac{1}{n^2}$ は収束するから、 命題 6 より $S$ も収束する。

一方 $\hat{S}$ は、命題 3 より 3 つずまとめると

\begin{eqnarray*}\hat{S}
&=&
\left(1+\frac{1}{3}-\frac{1}{2}\right)
+\left(\f...
...ac{1}{2n}\right)
=
\sum_{n=1}^\infty\frac{8n-3}{2n(4n-3)(4n-1)}\end{eqnarray*}

であり、

\begin{displaymath}
\lim_{n\rightarrow\infty}\frac{8n-3}{2n(4n-3)(4n-1)}\times n^2=\frac{1}{4}
\end{displaymath}

だから $\hat{S}$ も収束する。 この $\hat{S}$$S$ の差を考えると、

\begin{eqnarray*}\hat{S}-S
&=&
\left(1+\frac{1}{3}-1\right)
+\left(\frac{1}{5...
...1}{2n-1}\right)
=
\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{(4n-3)(4n-1)(2n-1)}\end{eqnarray*}

となるが、これも上と同様に収束し、値は明らかに正の値となる。 よって、 $0<S<\hat{S}<\infty$ となる (実際に $\hat{S}$$(3/2)\log 2$ であることを 3.5 節で示す)。


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竹野茂治@新潟工科大学
2006年9月26日