3 地球のような星の場合

地球のような星の場合、$V$ は球で1、 さらに、その質量は中心から層状に対称に分布すると考えられるので、 地球の中心を原点 O とすれば、 $\psi(\mbox{\boldmath$x$})$ $r=\vert\mbox{\boldmath$x$}\vert$ のみの関数
\begin{displaymath}
\psi(\mbox{\boldmath$x$}) = \rho(r)
\end{displaymath}

と見ることができる2。 この条件の元で (1) を 極座標変換を用いて計算してみる。

$V$ は半径 $R$ の球であるとし、極座標を

\begin{displaymath}
\begin{array}{ll}
\mbox{\boldmath$x$} &= (r\cos\phi\cos\th...
... < 2\pi,
\hspace{0.5zw}-\pi/2\leq\theta\leq\pi/2)
\end{array}\end{displaymath} (2)

のように導入する。 ここで、 $\mbox{\boldmath$e$}_1$, $\mbox{\boldmath$e$}_2$, $\mbox{\boldmath$e$}_3$ は 互いに直交する単位ベクトルとするが、 軸方向の基本ベクトルと取る必要はないので、 計算を簡単にするため、 $\mbox{\boldmath$e$}_3$ $\overrightarrow{\mathrm{OA}}$ の方向に取り、 $\mbox{\boldmath$e$}_1$, $\mbox{\boldmath$e$}_2$ はそれに応じて取り直すこととする。 ただし、A = O の場合は後で別に考えることとし、 まずは $\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert\neq 0$ の場合を考える。 この場合は、 $\overrightarrow{\mathrm{OA}}=\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert\mbox{\boldmath$e$}_3$ となることに注意する。

まずはこの変数変換のヤコビアン $D(\mbox{\boldmath$x$})/D(r,\phi,\theta)$ であるが、 これは

\begin{eqnarray*}\frac{D(\mbox{\boldmath$x$})}{D(r,\phi,\theta)}
&=&
\left\ver...
...sin^2\phi\cos^2\theta)
\ &=&
r^2\cos\theta\hspace{1zw}(\geq 0)\end{eqnarray*}


となる。また、
\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$x$} - \overrightarrow{\mathrm{OA}}
= (r\cos...
...a-\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert)\mbox{\boldmath$e$}_3
\end{displaymath}

より、
\begin{eqnarray*}\vert\mbox{\boldmath$x$} - \overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert^2
...
...thrm{OA}}\vert\sin\theta+\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert^2\end{eqnarray*}


となるので、(1) は極座標 (2) により 以下のようになる:
$\displaystyle \mbox{\boldmath$F$}$ $\textstyle =$ $\displaystyle mG\int\!\!\int\!\!\int _W
\rho(r)\frac{(r\cos\phi\cos\theta)\mb...
...ow{\mathrm{OA}}\vert\sin\theta+\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert^2)^{3/2}}$  
    $\displaystyle \times r^2\cos\theta dr d\phi d\theta$ (3)

ここで、 $W=\{(r,\phi,\theta); 0\leq r\leq R,\hspace{0.5zw}0\leq\phi < 2\pi,
\hspace{0.5zw}-\pi/2\leq\theta\leq\pi/2\}$ であり、
\begin{displaymath}
\int_0^{2\pi}\cos\phi  d\phi = \int_0^{2\pi}\sin\phi  d\phi = 0
\end{displaymath}

なので、 $\mbox{\boldmath$F$}$ $\mbox{\boldmath$e$}_1$, $\mbox{\boldmath$e$}_2$ 方向成分は 0 となり、 よって $\mbox{\boldmath$e$}_3$ 成分のみ残ることになるが、 これは $\phi$ にはよらないので、
\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$F$}
= 2\pi mG\mbox{\boldmath$e$}_3\int_0^...
...theta+\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert^2)^{3/2}} d\theta\end{displaymath} (4)

となる。 今、$f(t)$ ($t>0$) を、
\begin{displaymath}
f(t) = \int_{-\pi/2}^{\pi/2}\frac{(t\sin\theta-1)\cos\theta}%
{(t^2-2t\sin\theta+1)^{3/2}} d\theta\end{displaymath} (5)

とすると、
\begin{displaymath}
f\left(\frac{r}{\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert}\righ...
...heta+\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert^2)^{3/2}} d\theta
\end{displaymath}

なので、(4) は $f(t)$ を用いて
\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$F$} = \frac{2\pi mG}{\vert\overrightarrow{\...
...\left(\frac{r}{\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert}\right)dr\end{displaymath} (6)

と書けることになる。

$f(t)$ を積分するために $u=t^2-2t\sin\theta+1$ と置換すると、

\begin{displaymath}
t\sin\theta-1 = \frac{t^2+1-u}{2}-1 = \frac{t^2-1-u}{2},
\hspace{1zw}\cos\theta d\theta = -\frac{1}{2t} du
\end{displaymath}

より、$t\neq 1$ のとき $f(t)$
\begin{eqnarray*}f(t)
&=&
\int_{t^2+2t+1}^{t^2-2t+1}\frac{t^2-1-u}{2u^{3/2}}
...
...ox{ のとき}),\\
-2 & (0<t<1 \mbox{ のとき})
\end{array}\right.\end{eqnarray*}


と計算される。よって、これを (6) に代入すると、結局
\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$F$}
= -\frac{4\pi mG}{\vert\overrightarrow...
...m{OA}}$}\vert}\rho(r)r^2dr
\hspace{1zw}(a\wedge b=\min\{a,b\})\end{displaymath} (7)

と書けることになる。

さらに、地球の中心から半径 $s$ ($>0$) までの部分の球の質量を $\hat{M}(s)$ と書くことにすると、

\begin{displaymath}
\hat{M}(s)
= \int_{0<r<s}\rho(r) dv
= \int_0^s dr\int_{-\pi/...
..._0^{2\pi}\rho(r)r^2\cos\theta d\phi
= 4\pi\int_0^s\rho(r)r^2dr
\end{displaymath}

となるので、これを用いれば (7) は、
\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$F$}
= -\frac{m\hat{M}(R\wedge\vert\overrig...
...vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert^2} \mbox{\boldmath$e$}_3\end{displaymath} (8)

と書くこともできる。

なお、A=O の場合は $(r^2-2r\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert\sin\theta+\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert^2)^{3/2}=r^3$ となるので、 (3) は、

\begin{eqnarray*}\mbox{\boldmath$F$}
&=&
mG\int\!\!\int\!\!\int _W
\rho(r)(\...
...\boldmath$e$}_2 + 0\mbox{\boldmath$e$}_3)
=
\mbox{\boldmath$0$}\end{eqnarray*}


となる。 しかも、この計算は、 $\mathrm{A}\in V$ の場合の広義積分が 発散せずに収束することも示していることに注意する。 $\mathrm{A}\in V$ の場合、A を中心とする小さな球 (A の近傍) の積分は、 A を中心とする極座標で積分すれば、 $\psi(\mbox{\boldmath$x$})$$\rho(r)$ ではなく $r,\phi,\theta$ に依存する関数となるので $\mbox{\boldmath$0$}$ にはならないが、 それ以外は上の計算とほぼ同じで分母の $r$ は分子の $r$ と 丁度約分されてしまうので、積分は発散せずに収束することがわかる。

竹野茂治@新潟工科大学
2013年1月6日