2 ある物体から受ける万有引力

まず、形と質量のある物体 $V$ から、 点 $A$ に置いた質量 $m$ の小さい物体が受ける万有引力について考えてみる。

$V$ が、点 P に置かれた質量 $M$ の小さい物体である場合、 点 A はその物体から、距離の 2 乗に反比例し、それぞれの質量に比例して、 互いに引き合う力である 万有引力

\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$F$} = \frac{mMG}{\vert\overrightarrow{\mathr...
...ghtarrow{\mathrm{AP}}}{\vert\overrightarrow{\mathrm{AP}}\vert}
\end{displaymath}

を受ける ($G>0$: 万有引力定数)。 なお、 $\overrightarrow{\mathrm{AP}}/\vert\overrightarrow{\mathrm{AP}}\vert$ は A から P に向かう 単位ベクトルであることに注意する。

複数の点 $\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}$}$ に質量 $M_j$ の小さい物体がある場合は、その合力

\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$F$} = \sum_{j=1}^n \frac{mM_jG}{\vert\overri...
...vert\overrightarrow{\mathrm{A\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}$}}}\vert}
\end{displaymath}

を受けることになる。

3 次元領域 $V$ の場合は、$V$ 内の各点 P での密度を $\psi(\mathrm{P})$ とすると、 $V$ を小片 $\Delta V_j$ に分解して考えれば、 その小片の質量はほぼ $\psi(\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}$})\Delta V_j$ なので ( $\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}$}\in\Delta V_j$)、 $V$ から $A$ の物体が受ける万有引力は、

\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$F$} = \sum_{j=1}^n \frac{mG\psi(\mbox{$\math...
...vert\overrightarrow{\mathrm{A\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}$}}}\vert}
\end{displaymath}

にほぼ等しく、厳密にはその極限としての体積分 (3 重積分) で表されることになる (積分変数は $\mbox{\boldmath$x$}=\overrightarrow{\mathrm{OP}}$):
\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$F$}
= \int_V\frac{mG\psi(\mathrm{P})}{\ve...
...mbox{\boldmath$x$}-\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert^3} dxdydz\end{displaymath} (1)

この公式自体は、A が $V$ の内部にあっても変わらないが、 その場合は分母が 0 となりうるので、 厳密には (1) は広義積分となる。

さて、$V$ の重心点 Q の位置ベクトルは、

\begin{displaymath}
\frac{\displaystyle \sum_{j=1}^n\psi(\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}...
...aystyle \sum_{j=1}^n\psi(\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}$})\Delta V_j}
\end{displaymath}

の極限として得られるので、$V$ の総質量を $M_V$ とすれば、
\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OQ}} = \frac{1}{M_V}\int_V\psi(\math...
...}} dv
\hspace{1zw}\left(M_V = \int_V\psi(\mathrm{P})dv\right)
\end{displaymath}

と表される。 よって、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_V\psi(\mathrm{P})(\overrightarrow{\mathrm{OP}}-\o...
...overrightarrow{\mathrm{O}} dv - M_V\overrightarrow{\mathrm{OA}} \end{eqnarray*}


より、もし重心 Q に質量 $M_V$ が集中していると考えると、 それが A におよぼす万有引力は、
\begin{eqnarray*}\mbox{\boldmath$F$}
&=&
\frac{mM_VG}{\vert\overrightarrow{\ma...
...x{\boldmath$x$}-\overrightarrow{\mathrm{OA}}) dv
\right\vert^3}\end{eqnarray*}


となるが、 これは (1) とは明らかに異なり、 一般に両者は等しくはない。

よって、重心に質量が集中していると考えてよいのは、 特別な場合であることがわかる。

竹野茂治@新潟工科大学
2013年1月6日