4 考察

本節では、公式 (8) を用いて、 最初にあげたいくつかの疑問について考察してみる。

まず、A が $V$ の外にある場合は、 $\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert>R$ なので

\begin{displaymath}
\hat{M}(R\wedge\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert) = \hat{M}(R) = M_V
\end{displaymath}

となり、よって引力は
\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$F$}
= -\frac{mM_VG}{\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert^2} \mbox{\boldmath$e$}_3
\end{displaymath}

となるが、これは原点一点に質量 $M_V$ が集中している場合の引力と等しい。 つまり、$V$ が球で、その密度分布が球対称な場合には、 それが外部におよぼす引力は、 質量が中心一点に集中していると考えてよいことになる (疑問 1 の答え)。

次に A が $V$ の内部にある場合は、 $\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert<R$ なので $\hat{M}(R\wedge\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert) = \hat{M}(\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert)$ より、

\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$F$}
= -\frac{m\hat{M}(\vert\overrightarrow{\...
...ert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert^2} \mbox{\boldmath$e$}_3
\end{displaymath}

となる。すなわちこの場合は、 A がいるところより内側の部分の球による重力と同じになるので、 A より外側の部分の引力の合力はちょうどつりあって 0 になっていることになる (図 2)。
図 2: A が地球内部の場合
\includegraphics[width=0.3\textwidth]{in1.eps}

例えば密度が $r$ によらず一定な場合を考えると、

\begin{displaymath}
\hat{M}(s) = \frac{4\pi}{3}s^3\rho_0\hspace{1zw}(\rho(r)=\rho_0)
\end{displaymath}

なので、重力は
\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$F$}
= -\frac{4\pi\rho_0 mG}{3}\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert\mbox{\boldmath$e$}_3
\end{displaymath}

となり、中心からの距離 $\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert$ に比例する。 つまり、地球の中心から地表までは重力は中心 (原点) からの距離に比例し、 地表から外は距離の 2 乗に反比例する、ということになり、 よって、地球の重力は地表が一番強く、地球から離れても、 地中に潜っても小さくなり、中心では無重力になる。

実際の地球は、中心と地表近くでは構成物質が異なるため密度は一定ではないから、 地中での重力は中心からの距離には比例はしないが、 似たような状況にはなっていて、 地中での重力は地表より強くなるわけではなく、 特に中心では重力は 0 になる (疑問 2 の答え)。

最後に地球が空洞の場合を考えてみる。 この場合、$\rho(r)$$0<r<T$ および $r>R$ で 0 とすればいい (図 3)。

図 3: 空洞の場合
\includegraphics[width=0.3\textwidth]{in2.eps}
よって、 $\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert<T$ では $\hat{M}(\vert\overrightarrow{\mathrm{OA}}\vert) = 0$ なので (8) より $\mbox{\boldmath$F$}=\mbox{\boldmath$0$}$ となり、 空洞部分では無重力となる (疑問 3 の答え)。

なお、そのような万有引力の影響がない場では、 地球の自転による遠心力が無視できなくなり、 その遠心力により自転軸の外側に「重力」を感じて、 自転軸を上にして立つことになる。

古い SF で、地底の空洞世界にも小規模の太陽のようなものが 地球の中心に浮かんでいて、それをエネルギーとして、 「地表人」とは丁度逆向きに立って (地球の中心を天として) 生活する、 といった図を見たような気がするが、 実際は、赤道では地表人と地底人は逆向きに立つことになるが、 極に近づくにつれ地底の重力方向は地面に対して斜めになっていき、 遠心力も小さくなるので重力が小さくなっていき、極では 0 になる (図 4)。

図 4: 自転による遠心力
\includegraphics[width=0.3\textwidth]{in3.eps}

もし中心に小規模の太陽があるなら、 それによる重力も無視できないかもしれないし、 もしかすると、外にある月や太陽の引力も それなりの大きさになってしまうのかもしれない。

その世界では、地上とは物理法則がだいぶ異なるので、 それをちゃんと検討すれば面白い SF ネタになるかもしれないが3、 自転の遠心力は、最大の場所 (赤道) でも 地球重力に比べて 2,3 桁位小さいので、 いずれにせよそのような空洞内は、 地上人の我々からすればほぼ無重力状態と言っていいだろう。

竹野茂治@新潟工科大学
2013年1月6日