4 三角形の重心について

3 節の最後に三角形の重心の話を書いたが、 一様な面密度の三角形 ABC の面としての重心 $\mathrm{G}_{2}$ が、 各頂点に同じ質量を持つ質点系の点としての重心 $\mathrm{G}_{0}$ に等しいことはよく知られている。 本節では、なぜそれが成り立つのかを、 面積分の計算式 (8) を用いずに説明してみる。 そして、ついでに $\triangle\mathrm{ABC}$ が、 一様な線密度の針金で作られている場合の線としての重心 $\mathrm{G}_{1}$ についても合わせて考えてみる。

まず、 $\triangle\mathrm{ABC}$ の 3 頂点が同じ質量を持つ質点系の点としての重心 $\mathrm{G}_{0}$ は、(3) より

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{O\mbox{$\mathrm{G}_{0}$}}} = \frac{...
...OA}}+\overrightarrow{\mathrm{OB}}+\overrightarrow{\mathrm{OC}})\end{displaymath} (15)

により与えられるが、良く知られているように、 これは数学でいう $\triangle\mathrm{ABC}$ の「五心」の一つとしての「重心」、 すなわち各頂点からの中線の交点に一致する。

次に、一様な面密度の $\triangle\mathrm{ABC}$ の面としての重心 $\mathrm{G}_{2}$ を、 3 節の分割・統合の原理を用いて考えてみる。

まず、 $\triangle\mathrm{ABC}$ を辺 BC に平行な線で細かく分割する (図 1)。

図 1: 三角形 ABC の辺 BC に平行な線による分割
\includegraphics[width=0.5\linewidth]{tri1.eps}
すると、それぞれの細長い部分の重心は、ほぼその中心に来るから、 それらはすべて、A から BC の中点 M への中線 AM 上にほぼ乗ることになる。

この分割をさらに細かくしていけば、 それぞれの重心はより中線 AM に近づいて行くので、その極限を考えれば、 $\triangle\mathrm{ABC}$ の重心 $\mathrm{G}_{2}$ はその中線 AM に、 A から M に向かって比例して大きくなる線密度を与えた、 線としての重心に等しくなり、 よって $\mathrm{G}_{2}$ は少なくともこの中線 AM 上にあることがわかる。

この考察を、辺 BC の代わりに辺 AC に対して行えば、 重心 $\mathrm{G}_{2}$ は B から AC の中点 N への中線 BN 上にあることになるので、 よって中線 AM と BN の交点 $\mathrm{G}_{0}$ が面としての重心 $\mathrm{G}_{2}$ に一致することになる。

しかし、これは三角形にたまたま成り立つ性質だろうと思われる。 それは、例えば一様な面密度の四角形には、このような性質は成り立たないし、 周囲が針金である線としての $\triangle\mathrm{ABC}$ の重心 $\mathrm{G}_{1}$ は、 点としての重心 $\mathrm{G}_{0}$ ($=$ $\mathrm{G}_{2}$) には一致しないからである。 これらを以下に説明しよう。

まずは四角形の方であるが、 一様な面密度の四角形 ABCD の重心を $\mathrm{G}_{3}$ とし、 各頂点が同じ質量を持つ質点系としての重心を $\mathrm{G}_{4}$ とすると、 $\mathrm{G}_{4}$ は (3) により

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{O\mbox{$\mathrm{G}_{4}$}}}=\frac{1}...
...OB}}+\overrightarrow{\mathrm{OC}}+\overrightarrow{\mathrm{OD}})\end{displaymath} (16)

を満たすが、この四角形を変形して D を段々 C に近づけていけば、 面としての重心 $\mathrm{G}_{3}$ は当然三角形 ABC の面としての重心 $\mathrm{G}_{2}$ ($=$ $\mathrm{G}_{0}$) に近づいていくことになるが、 $\mathrm{G}_{4}$ の方は (16) より、中線 AM の中点の位置ベクトルである
\begin{displaymath}
\frac{1}{4}(\overrightarrow{\mathrm{OA}}+\overrightarrow{\mathrm{OB}}+2\overrightarrow{\mathrm{OC}})
\end{displaymath}

に近づいていくので、その極限は $\mathrm{G}_{2}$ とは異なる。 よって、一般には $\mathrm{G}_{3}$ $\mathrm{G}_{4}$ が異なる点であることがわかる。

また、針金で作った $\triangle\mathrm{ABC}$ の線としての重心 $\mathrm{G}_{1}$ であるが、 これは各辺に分割して考えれば、各辺の重心はその中点であり、 それぞれの辺の質量は辺の長さに比例するので、 命題 1 により $\mathrm{G}_{1}$ の位置ベクトルは

$\displaystyle \overrightarrow{\mathrm{O\mbox{$\mathrm{G}_{1}$}}}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{\displaystyle c\,\frac{\overrightarrow{\mathrm{OA}}+\overri...
...+b\,\frac{\overrightarrow{\mathrm{OC}}+\overrightarrow{\mathrm{OA}}}{2}}{a+b+c}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{(b+c)\overrightarrow{\mathrm{OA}}+(c+a)\overrightarrow{\mathrm{OB}}+(a+b)\overrightarrow{\mathrm{OC}}}{2(a+b+c)}$ (17)
    $\displaystyle (a=BC,\hspace{1zw}b=CA,\hspace{1zw}c=AB)$  

となることがわかる。 この $\mathrm{G}_{1}$ $\mathrm{G}_{0}$ に一致するのはどのような場合かを考えてみよう。 (15), (17) において O を A として、 $\overrightarrow{\mathrm{A\mbox{$\mathrm{G}_{1}$}}}-\overrightarrow{\mathrm{A\mbox{$\mathrm{G}_{0}$}}}$ を考えると、
\begin{eqnarray*}\overrightarrow{\mathrm{A\mbox{$\mathrm{G}_{1}$}}}-\overrightar...
...rrow{\mathrm{AB}}+(a+b-2c)\overrightarrow{\mathrm{AC}}}{6(a+b+c)}\end{eqnarray*}


となり、 $\overrightarrow{\mathrm{AB}}$ $\overrightarrow{\mathrm{AC}}$ とは平行ではないので、 この差が $\mbox{\boldmath$0$}$ となるのは
\begin{displaymath}
a+c-2b=a+b-2c=0
\end{displaymath}

のときとなり、これは $a=b=c$ を意味する。 よって $\mathrm{G}_{1}$ $\mathrm{G}_{0}$ が一致するのは $\triangle\mathrm{ABC}$ が正三角形のときのみ、ということになり、 やはり一般には異なることがわかる。

竹野茂治@新潟工科大学
2010年4月23日