2 物理的な重心の定義

重心とは、質量を持った物体 (の集まり) に対して、 その 1 次モーメントがつり合う点を指す。 ここで、点 P に質量 $m$ があるとき、 その質点の点 A に対する 1 次モーメント とは、 ベクトル $m\overrightarrow{\mathrm{AP}}$ のことであるとする。

まず、「点」(質点系) に対する重心を考える。 3 次元空間内の $n$ 個の点 $\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}$}$ ( $j=1,2,\ldots,n$) に質量 $m_j$ があるとき、その重心 G は

\begin{displaymath}
\sum_{j=1}^n m_j\overrightarrow{\mathrm{G\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}$}}} = \mbox{\boldmath$0$}\end{displaymath} (1)

が成り立つ点となる。 これら質点の総質量 $\displaystyle \sum_{j=1}^n m_j$$M$ とすると、 (1) の左辺は
\begin{displaymath}
\sum_{j=1}^n m_j(\overrightarrow{\mathrm{O\mbox{$\mathrm{P}_...
...hrm{O\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}$}}}-M\overrightarrow{\mathrm{OG}}
\end{displaymath}

となるので、重心 G の位置ベクトルは
\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OG}}=\frac{1}{M}\sum_{j=1}^n m_j\overrightarrow{\mathrm{O\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}$}}}\end{displaymath} (2)

と表すことができる。 特に、各点の質量 $m_j$ がすべて等しいときは
\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OG}}=\frac{1}{n}\sum_{j=1}^n \overrightarrow{\mathrm{O\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}$}}}\end{displaymath} (3)

の形となる。

次に、「線」に対する重心を考える。 例えば針金のように、3 次元空間内の質量を持つ曲線 $C$ を考える。 $C$ 上の点を $\mathrm{P}(t)$ ($a\leq t\leq b$) で表し、 $\mathrm{P}(t)$ での針金の線密度、 すなわち単位長さ当たりの質量を $\rho(\mathrm{P}(t))$ とする。

このとき、$t$ の範囲 $a\leq t\leq b$$n$ 等分し、 この針金を細かく分割する:

\begin{displaymath}
\Delta t=\frac{b-a}{n},
\hspace{1zw}t_j=a+j\Delta t\ (j=0,1,...
...dots,n),
\hspace{1zw}\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}$}=\mathrm{P}(t_j)
\end{displaymath}

$n$ を十分大きくとれば、 各 $j$ に対し $\mbox{$\mathrm{P}_{\!j-1}$}$ から $\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}$}$ までの弧の長さ $\Delta s_j$ は十分小さく、それぞれの重心は $\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}$}$ に近いので、 この針金の重心 G に対しては (1) より
\begin{displaymath}
\sum_{j=1}^n\rho(\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}$})\Delta s_j\,\over...
...mathrm{G\mbox{$\mathrm{P}_{\!j}$}}}\approx\mbox{\boldmath$0$}
\end{displaymath}

が成り立ち、この式で $n\rightarrow\infty$ とすれば左辺は線積分に、 両辺の誤差は 0 に収束し、 重心 G の満たす条件式
\begin{displaymath}
\int_C\rho(\mathrm{P})\,\overrightarrow{\mathrm{GP}}\,ds=\mbox{\boldmath$0$}\end{displaymath} (4)

が得られる。 ここで、針金の総質量 $\displaystyle \int_C\rho(\mathrm{P})\,ds$$M$ とすれば、 (2) と同様に G の位置ベクトルの表現式
\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OG}}=\frac{1}{M}\int_C\rho(\mathrm{P})\,\overrightarrow{\mathrm{OP}}\,ds\end{displaymath} (5)

が得られ、 $\rho(\mathrm{P})$ が一定ならば、$L$ を曲線 $C$ の長さとして
\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OG}}=\frac{1}{L}\int_C\overrightarrow{\mathrm{OP}}\,ds\end{displaymath} (6)

が得られる。

同様に、「面」としての重心は、 曲面 $S$ の点 P での面密度 (単位面積当たりの質量) を $\rho(\mathrm{P})$ とすれば、重心 G の条件は面積分により、

\begin{displaymath}
\int_S\rho(\mathrm{P})\,\overrightarrow{\mathrm{GP}}\,dS=\mbox{\boldmath$0$}\end{displaymath} (7)

と表わされ、よって総質量 $\displaystyle \int_S\rho(\mathrm{P})\,dS$$M$ とすれば $\overrightarrow{\mathrm{OG}}$
\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OG}}=\frac{1}{M}\int_S\rho(\mathrm{P})\,\overrightarrow{\mathrm{OP}}\,dS\end{displaymath} (8)

と表され、 $\rho(\mathrm{P})$ が一定ならば、$A$ を曲面 $S$ の面積として
\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OG}}=\frac{1}{A}\int_S\overrightarrow{\mathrm{OP}}\,dS\end{displaymath} (9)

が得られる。 また、「立体」としての重心は、 立体 $V$ の点 P での体積密度 (単位体積当たりの質量) を $\rho(\mathrm{P})$ とすれば、重心 G の条件は体積分により
\begin{displaymath}
\int_V\rho(\mathrm{P})\,\overrightarrow{\mathrm{GP}}\,dv=\mbox{\boldmath$0$}\end{displaymath} (10)

と表わされ、よって総質量 $\displaystyle \int_V\rho(\mathrm{P})\,dv$$M$ とすれば $\overrightarrow{\mathrm{OG}}$
\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OG}}=\frac{1}{M}\int_V\rho(\mathrm{P})\,\overrightarrow{\mathrm{OP}}\,dv\end{displaymath} (11)

と表され、 $\rho(\mathrm{P})$ が一定ならば、$X$ を曲面 $V$ の体積として
\begin{displaymath}
\overrightarrow{\mathrm{OG}}=\frac{1}{X}\int_V\overrightarrow{\mathrm{OP}}\,dv\end{displaymath} (12)

が得られる。

(1), (4), (7), (10) からわかるが、 いずれの場合も重心では、 任意の重力方向 $\mbox{\boldmath$n$}$ ( $\mbox{\boldmath$n$}$ は単位ベクトル) に対して重心への回転モーメント $\overrightarrow{\mathrm{GP}}\times(mg\mbox{\boldmath$n$})$ の和や積分が $\mbox{\boldmath$0$}$ となるので、この点で物体を支えればそれは静止する。

また、(2), (5), (8), (11) からわかるが、 任意の点 A に対するこれらの物体による 1 次モーメントは、 いずれも重心に総質量が集中していると考えた場合の 1 次モーメント $M\overrightarrow{\mathrm{AG}}$ に等しくなる。 例えば、質点系の場合は、(2) より

\begin{displaymath}
\sum_{j=1}^n m_j\overrightarrow{\mathrm{A\mbox{$\mathrm{P}_{...
...}-M\overrightarrow{\mathrm{OA}}
=M\overrightarrow{\mathrm{AG}}
\end{displaymath}

となるからである。線、面、立体の場合も同様である。

竹野茂治@新潟工科大学
2010年4月23日