7 対称性

$F_n$ は、A, B のどちらが上であるかを考えないゲーム差の平均値であるから、 互角のところ ($p=1/2$) で対称になっていて、 またその互角のところではゲーム差が 0 に近いことが期待されるので、 $p=1/2$ で最小値を取ることが予想される。 この節ではそれを考えてみる。 すなわち、以下の 2 つを示す。
  1. $F_n(p)$$p=1/2$ に関して対称、すなわち $F_n(r+1/2)$$r$ に関して偶関数となる
  2. $F_n(p)$ $0\leq p\leq 1/2$ では減少、 $1/2\leq p\leq 1$ では増加する。 よって $p=1/2$ で最小値を取り、 $p=0,1$ で最大値 $n$ を取る
最後の最大値 $n$ は、$A$ が必ず勝つのであれば当然ゲーム差は $n$ となるだろう。

5 節の (14) より、 これはいずれも $F_{2m}$ について考えればよいことがわかる。 ここでは (15) を用いて考えることにする。

$p=r+1/2$ とすると $q=1-p=1/2-r$ であるから、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{p^kq^{2m-k}+p^{2m-k}q^k}
\\ &=&
p^kq^k(q^{2m-2k}+p^{...
...{2}-r\right)^{2m-2k}
+\left(\frac{1}{2}+r\right)^{2m-2k}\right\}\end{eqnarray*}


となるので、これは明らかに $r$ の偶関数となる ($r$ の代わりに $-r$ を代入しても不変)。 よって (15) より $F_{2m}(r+1/2)$ は確かに $r$ の偶関数となる。

次に (15) を $p$ の式とみて $p$ で微分する。$q=1-p$ より

\begin{eqnarray*}\lefteqn{(p^kq^{2m-k}+p^{2m-k}q^k)'}
\\ &=&
k(p^{k-1}q^{2m-k}-q^{k-1}p^{2m-k})
+(2m-k)(p^{2m-k-1}q^k-p^kq^{2m-k-1})\end{eqnarray*}


となるが、今 $g(n,k)=p^{n-k}q^k-p^kq^{n-k}$ と書くことにすると、これは
\begin{displaymath}
(p^kq^{2m-k}+p^{2m-k}q^k)'
= -kg(2m-1,k-1)+(2m-k)g(2m-1,k)
\end{displaymath}

と書ける。 よって、(15) より、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\left(\frac{F_{2m}}{2m}\right)'}
\\ &=&
\sum_{k=1}^{...
...begin{array}{c} 2m-1 \\ m-2 \end{array}\right)\right\}g(2m-1,m-1)\end{eqnarray*}


と変形すると、$g(2m-1,k)$ の係数 $c_{m,k}$5 節と同様の変形により、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{c_{m,k}}
\\ &=&
-\left\{\left(\begin{array}{c} 2m-1 ...
...ht)
\\ &=&
2\left(\begin{array}{c} 2m-1 \\ k \end{array}\right)\end{eqnarray*}


と書き直せる。同様に、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{(m+1)\left\{\left(\begin{array}{c} 2m-1 \\ m-1 \end{ar...
...right)
=
2\left(\begin{array}{c} 2m-1 \\ m-1 \end{array}\right)\end{eqnarray*}


となるので、結局
\begin{displaymath}
\left(\frac{F_{2m}}{2m}\right)'
=\sum_{k=0}^{m-1}2\left(\begin{array}{c} 2m-1 \\ k \end{array}\right)g(2m-1,k)
\end{displaymath}

となる。ここで、$g(2m-1,k)$ $0\leq k\leq m-1$ に対し、
\begin{eqnarray*}g(2m-1,k)
&=&
p^{2m-k-1}q^k-p^kq^{2m-k-1}
=
p^kq^k(p^{2m-2k...
...m-2k-1})
\\ &=&
(p-q)p^kq^k\sum_{j=0}^{2m-2k-2}p^{2m-2k-2-j}q^j\end{eqnarray*}


と因数分解され、$(p-q)$ 以外の部分は $0<p<1$ では正であり、 $p-q=2p-1$$p>1/2$ で正、$p<1/2$ で負なので、 この節最初の主張の 2. の増減の部分が言えたことになる。

$F_n(1)$ の値は、例えば (6) に $p=1$, $q=0$ を代入すれば

\begin{displaymath}
F_n(1)=n\left(\begin{array}{c} n \\ n \end{array}\right)=n
\end{displaymath}

となる。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年7月27日