5 サイクロイド

通常サイクロイド曲線は、半径 1 の車輪で作られるものをさす。 半径 1 の車輪を、$x$ 軸の上を右に転がしていくとき、 その車輪上の点の移動する軌跡がサイクロイドである (図 2)。
図 2: サイクロイドの定義 (概念図)
\includegraphics[width=0.7\textwidth]{fig-cycloid-def1.eps}
回転角を $\theta$ とすると、OQ は弧 PQ の長さに等しいので、 Q($\theta$, 0) で、よって P($x$,$y$) の座標は、$\theta$ を用いて、
\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
x = \theta-\sin\theta\\
y = 1 - \cos\theta
\end{array}\right. \hspace{1zw}(0\leq \theta\leq 2\pi)\end{displaymath} (24)

と表される。
\begin{displaymath}
\frac{dx}{d\theta} = 1-\cos\theta\geq 0
\end{displaymath}

からもわかるが、$x$$\theta$ に関して $0\leq\theta\leq 2\pi$ で 単調で、$\theta$$x$ は 1 対 1 に対応する。 そして $\theta = 0, \pi, 2\pi$ はそれぞれ $x = 0, \pi, 2\pi$ に対応する。 $x$$y$ の対応は、 $0\leq x\leq \pi$ では $y$ は 0 から 2 まで単調に増加し、 そこから対称に $\pi\leq x\leq 2\pi$ では $y$ は単調に減少して 0 になる (図 3)。 なお、このグラフは一見楕円に似ているが、 図 3 に見られるように楕円とは多少ずれが ある1
図 3: サイクロイドと楕円
\includegraphics[width=0.7\textwidth]{fig-cycloid-ellipse.eps}

この $0\leq x\leq 2\pi$ 上で (24) により 定義されるサイクロイド関数を、今後 $y=\mathrm{cyc}(x)$ と書くことにする。 この関数の導関数は、

\begin{displaymath}
\mathrm{cyc}'(x)
= \frac{dy}{dx}
= \frac{dy/d\theta}{dx...
...{\displaystyle 2\sin^2\frac{\theta}{2}}
= \cot\frac{\theta}{2}\end{displaymath} (25)

となるので、$x=0,2\pi$ ($\theta=0,2\pi$) に特異性を持ち、 $\mathrm{cyc}'(+0)=\infty$, $\mathrm{cyc}'(2\pi-0)=-\infty$ であることに注意する。

さて、4 節で (22) の積分により、 サイクロイド関数 $\mathrm{cyc}(x)$$x$, $y$ 両方向に等倍に拡大 (縮小) した 関数を上下逆さにしたもの

\begin{displaymath}
f(x) = H - h(x) = H-\alpha \mathrm{cyc}\left(\frac{x}{\alph...
...lpha=\frac{c_0}{2}>0,\hspace{0.5zw}0\leq x\leq \alpha\pi\right)\end{displaymath} (26)

が、(19) を満たす関数であることを見たが、 $\mathrm{cyc}(x/\alpha)$ 自身は $0<x<2\alpha\pi$ で滑らかな関数になっている。 まず、(26) がそこまで含めて 方程式 (20) を満たすか調べてみる。

$h=\alpha\mathrm{cyc}(x/\alpha)$

\begin{displaymath}
h=\alpha(1-\cos\theta),
\hspace{1zw}x=\alpha(\theta-\sin\theta)
\hspace{1zw}(0\leq\theta\leq 2\pi)
\end{displaymath}

で表され、よって (25) より
\begin{displaymath}
h'(x)
= \{\alpha\mathrm{cyc}(x/\alpha)\}'
= \mathrm{cyc}'(x/\alpha)
= \frac{\sin\theta}{1-\cos\theta}
\end{displaymath}

となるので、(20) の左辺に代入すると、
\begin{eqnarray*}(1+(h')^2)h
&=&
\left\{1+\left(\frac{\sin\theta}{1-\cos\thet...
...c{\alpha}{1-\cos\theta}(2-2\cos\theta)
\\ &=&
2\alpha
=
c_0\end{eqnarray*}


となり、 $0<x<2\alpha\pi$ で (20) を満たす ことがわかる。

しかし、 $\alpha\pi< x< 2\alpha\pi$ では $h'(x)<0$ なので、 この $\alpha\pi< x< 2\alpha\pi$ の部分は (21) の マイナス符号の式に対応する。 すなわち (21) から (22) を 導くところでは、 $x=0$ の近くでは $h'>0$ だからプラス符号の式を積分するが、 あるところで $h'=0$ となり、 そこから先はマイナス符号の式を積分することで、 左右対称な形で $h'<0$ でつながるということになる。

このように $h'=0$ のところで抜けおちる (20) の 解は他にもあり、(20) は $h(x)=c_0$
$(= 2\alpha)$ という特異解を持つ。 よって、$h(0)=0$ となる解としては、 上に見た $h=\alpha\mathrm{cyc}(x/\alpha)$ 以外に、 それを $x=\alpha\pi$ のところで切り離し、定数 $2\alpha$ でそれらを つないだもの (図 4)

\begin{displaymath}
h(x) =
\left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle \alpha\mat...
...(\alpha\pi + c_1 < x\leq 2 \alpha\pi + c_1)
\end{array}\right.\end{displaymath} (27)

なども解になっていて、よって微分方程式 (20) の $h(0)=0$ の初期値問題の解の一意性は成り立たない。
図 4: 定数を入れたサイクロイド解
\includegraphics[width=0.7\textwidth]{fig-cycloid-singular.eps}

なお、サイクロイド関数の 2 階微分は、

\begin{eqnarray*}\mathrm{cyc}''(x)
&=&
\frac{d}{dx} h'(x)
= \frac{\displayst...
...\cos\theta-1}{(1-\cos\theta)^3}
=
-\,\frac{1}{(1-\cos\theta)^2}\end{eqnarray*}


なので $\mathrm{cyc}''(\pi)=-1/4$ となり、 定数をサイクロイドの間に入れた (27) の形の解は、 $C^1$ 級だが $C^2$ 級ではないことがわかる。 ただし、方程式 (20) 自体は 1 階の方程式だから、 (27) は $C^2$ 級でなくても 一応正しく (20) を満たしてはいる。

竹野茂治@新潟工科大学
2016年1月8日