2 漸近展開とは

[1] によれば、漸近展開の定義は以下のようになる。


定義 1

\begin{displaymath}
f(x)\sim\phi_0(x)+\phi_1(x)+\cdots
\end{displaymath} (1)

(右辺は有限和、あるいは無限和) が、$f(x)$漸近展開 であるとは、 各 $n (\geq 0)$ に対し、 $x\rightarrow\infty$ に関して 次の 2 つが成り立つことである。
  1. $\phi_{n+1}(x)=o(\phi_n(x))$, すなわち、
    \begin{displaymath}
\lim_{x\rightarrow\infty}\frac{\phi_{n+1}(x)}{\phi_n(x)}=0
\end{displaymath} (2)

  2. $f(x)-(\phi_0(x)+\phi_1(x)+\cdots+\phi_n(x))=O(\phi_{n+1}(x))$, すなわち、
    \begin{displaymath}
\frac{f(x)-(\phi_0(x)+\phi_1(x)+\cdots+\phi_n(x))}{\phi_{n+1}(x)}
\end{displaymath}

    $x\rightarrow\infty$ に関して有界


この (2) の $n=0$ の場合は $f(x)/\phi_0(x)$ が 有界であることを意味するが、$n=1$ の場合を考えると、 $(f(x)-\phi_0(x))/\phi_1(x)$ は有界で、 $\phi_1(x)/\phi_0(x)$ は 0 に収束するので、

\begin{displaymath}
\lim_{x\rightarrow\infty}\left\{\frac{f(x)}{\phi_0(x)}-1\rig...
...ac{f(x)-\phi_0(x)}{\phi_1(x)}
\,\frac{\phi_1(x)}{\phi_0(x)}
=0
\end{displaymath}

となり、結局
\begin{displaymath}
\lim_{x\rightarrow\infty}\frac{f(x)}{\phi_0(x)}=1\end{displaymath} (3)

となる。同様に、(1) の右辺が少なくとも $\phi_{n+1}$ まで 続いていれば、
\begin{displaymath}
\lim_{x\rightarrow\infty}
\frac{f(x)-(\phi_0(x)+\phi_1(x)+\cdots+\phi_{n-1}(x))}{\phi_n(x)}=1
\end{displaymath}

が成り立つ。

つまり、 $f(x)\sim\phi_0(x)$ は (3) の意味で $x\rightarrow\infty$ における第 1 近似、 $f(x)\sim\phi_0(x)+\phi_1(x)$ は、

\begin{displaymath}
\lim_{x\rightarrow\infty}\frac{f(x)-\phi_0(x)}{\phi_1(x)}=1
\end{displaymath}

の意味で $x\rightarrow\infty$ における第 2 近似、 といったものを表していることになる。

しかし、特に $f(x)$ $x\rightarrow\infty$ のときに 無限大に発散してしまう場合は、 テイラー展開などとは異なり、 誤差、すなわち左辺と右辺の差が $x\rightarrow\infty$ のときに小さくなる、 というわけではないことに注意する必要がある。

例えば、

\begin{displaymath}
f_1(x)=e^x\left(\frac{1}{x}+\frac{2}{x^2}\right)
\end{displaymath}

の場合、第 1 近似は $f(x)\sim e^x/x\ (=\phi_0(x))$ であるが、 これは、
\begin{displaymath}
\frac{f_1(x)}{e^x/x} = 1+\frac{2}{x}\rightarrow 1\hspace{1zw}(x\rightarrow\infty)
\end{displaymath}

を意味するのであって、
\begin{displaymath}
f_1(x)-\frac{e^x}{x}\rightarrow 0 \hspace{1zw}(x\rightarrow\infty)
\end{displaymath}

を意味するのではない。実際、この場合は、
\begin{displaymath}
f_1(x)-\frac{e^x}{x}=\frac{2e^x}{x^2}\rightarrow\infty
\hspace{1zw}(x\rightarrow\infty)
\end{displaymath}

となっているから差は小さくはない。

また、$f(x)$ $x\rightarrow\infty$ のときに有限であっても、 テイラー展開のように、

\begin{displaymath}
f(x)\sim a_0+\frac{a_1}{x}+\frac{a_2}{x^2}+\frac{a_3}{x^3}+\cdots
\end{displaymath}

のようになる、すなわち $x=1/t$ として $f(1/t)$$t=+0$ での テイラー展開を考えればよい、というわけでもないことに注意する。 例えば、
\begin{displaymath}
f_2(x)=e^{-x}(x+2x^2)
\end{displaymath}

の場合、 $x\rightarrow\infty$ のときに $f_2(x)\rightarrow 0$ であるが、
\begin{displaymath}
g(t)=f_2\left(\frac{1}{t}\right)
= e^{-1/t}\left(\frac{1}{t}+\frac{2}{t^2}\right)
\end{displaymath}

とすると、容易にわかるように $g(t)$$n$ 階微分は、 ある $(2n+2)$ 次の多項式 $h_n(T)$ を用いて、
\begin{displaymath}
g^{(n)}(t)=e^{-1/t}h_n\left(\frac{1}{t}\right)
\end{displaymath}

と書けるから、
\begin{displaymath}
g^{(n)}(+0)=\lim_{t\rightarrow +0}e^{-1/t}h_n\left(\frac{1}{t}\right) = 0
\end{displaymath}

となり、よって $g$$t=+0$ でのテイラー展開のすべての係数は 0 になってしまう。

また、漸近展開は一意的でないことにも注意する。 例えば上の $f_2(x)$ の場合、定義からすれば第 1 近似 ($\phi_0(x)$) は

\begin{displaymath}
f(x)\sim 2x^2e^{-x}
\end{displaymath}

でも
\begin{displaymath}
f(x)\sim (2x^2+1)e^{-x}
\end{displaymath}

でも構わない。もちろん、より単純な式の方を取るのが普通である。

さらに、漸近展開 (1) の右辺が無限和である場合、 それは収束する級数であるとは限らないことに注意する。 これは、3 節の最後に例を紹介する。

竹野茂治@新潟工科大学
2010年4月8日