3 ポアソン分布のスケール不変性

次は、ポアソン分布の裏が指数分布となることを示す際に使われる、 ポアソン分布のスケール不変性を示す。 具体的には、以下の通り。
1 時間の間にある事象が独立にいくつか起きるときに、 その事象の起きる回数 $x$ がポアソン分布 $P(\lambda)=(\mbox{\boldmath Z${}_{+}$},p_\lambda)$ に 従うとすると、 $T$ 時間 ($T>0$) にその事象が起きる回数 $y_T$ は、$P(\lambda T)$ に 従う。
実際、講義ではこれを証明なしに認めた上で、 ポアソン分布の裏が指数分布となることを簡単に紹介した。

本節では、これをいくつかの段階に分けて示していく。 まず、求めるべき $y_T$ の従う分布を $Q(T)=(\mbox{\boldmath Z${}_{+}$},q_T)$ と書くことにする。 目標は、 $Q(T)=P(\lambda T)$ を示すことである。

$T$ が正の整数 $T=m$ の場合、最初の 1 時間に起きる回数を $x_1$, 次の 1 時間に起きる回数を $x_2$, ..., 最後の 1 時間に起きる回数を $x_m$ とすれば、$m$ 時間で起きる回数は $y_m = x_1+\cdots+x_m$ となるので、 $x_1,\ldots,x_m$ の独立性と、 2 節の例 4 より

$\displaystyle y_m\sim P(\lambda)\ast\cdots\ast P(\lambda)=P(\lambda)^{(m)}=P(\lambda m)
$
となり、よって $T=m$ の場合には $Q(m)=P(\lambda m)$ が成り立つ。

次は、$T=n/m$ の有理数の場合を考える。 この場合は、逆に $Q(n/m)$$m$ 回繰り返せば $n$ 時間の回数となるので、

$\displaystyle Q\left(\frac{n}{m}\right)^{(m)} = P(\lambda n)
$
となることになる。一方、例 4 より、当然
$\displaystyle P\left(\frac{\lambda n}{m}\right)^{(m)} = P(\lambda n)
$
であるが、命題 2 より、そのような 分布は一意に決まるので、よって $Q(n/m)=P(\lambda n/m)$ が成り立つ。

最後は実数 (無理数) $T$ の場合であるが、$0<T_1<T_2$ に対しては、当然 $T_1$ 時間に起きる回数よりも $T_2$ 時間に起きる回数の方が多いので、 $T_1$ 時間に $n$ 回以上起きる確率よりも、 $T_2$ 時間に $n$ 回以上起きる確率の方が多くなる。 なお、「$T_1$ 時間に丁度 $n$ 回起きる確率よりも、 $T_2$ 時間に丁度 $n$ 回起きる確率の方が多くなる」とは言えない。 よって、$0<T_1<T_2<T_3$ と 0 以上の任意の整数 $n$ に対して

$\displaystyle \sum_{k=n}^\infty q_{T_1}(k)
\leq\sum_{k=n}^\infty q_{T_2}(k)
\leq\sum_{k=n}^\infty q_{T_3}(k)
$
となる。 ここで、$T_1$, $T_3$ を有理数 $T_1=n_1/m_1$, $T_3=n_2/m_2$ に取り、 $T_2=T$ とすると、 $q_{T_1}=p_{\lambda n_1/m_1}$, $q_{T_3}=p_{\lambda n_2/m_2}$ となるので、
$\displaystyle \sum_{k=n}^\infty p_{\lambda n_1/m_1}(k)
\leq\sum_{k=n}^\infty q_T(k)
\leq\sum_{k=n}^\infty p_{\lambda n_2/m_2}(k)
$
ここで、 $n_1/m_1\rightarrow T$, $n_2/m_2\rightarrow T$, すなわち 有理数の値を取りながら $T$ に近付けていくと、
$\displaystyle \sum_{k=n}^\infty p_{\lambda n_j/m_j}(k)
= 1-\sum_{k=0}^{n-1}\frac{(\lambda n_j/m_j)^k}{k!}e^{-\lambda n_j/m_j}
$
の有限和の形に書けるので、極限は $n_j/m_j$$T$ に置きかえたものになり、 よってはさみうちの原理により
$\displaystyle \sum_{k=n}^\infty q_T(k) = \sum_{k=n}^\infty p_{\lambda T}(k)
$
が成り立つ。これは、1 から引けば、
$\displaystyle \sum_{k=0}^{n-1} q_T(k) = \sum_{k=0}^{n-1} p_{\lambda T}(k)
$
となるから、$n=1,2,\ldots$ と順番に代入していけば、 すべての $n$ に対して $q_T(n)=p_{\lambda T}(n)$ となることがわかる。

よって、すべての正の実数 $T$ に対して、 $Q(T)=P(\lambda T)$ となる ことが言えたことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-08-25