4 平方和に関する条件

次は、(6) の条件を $a_{i,j}$ に 関する条件に書き直す。この式に (7) を代入すれば、
  $\displaystyle
S = \sum_{k=1}^n(x_k-\bar{x})^2
= \sum_{i=1}^{n-1}\left(\sum_{j=1}^n a_{i,j}x_j\right)^2$ (14)
となり、両辺とも $x_1,\ldots,x_n$ の 2 次式なので、 それが恒等式となるような係数の条件が求める条件となる。

まずは、(14) の左辺 $S$ を計算する。 展開すると、

$\displaystyle S
=\frac{1}{n^2}\sum_{k=1}^n(nx_k-x_1-\cdots-x_n)^2
=\sum_{i=1}^n d_ix_i^2 + \sum_{1\leq i<j\leq n}p_{i,j}x_ix_j
$
の形になるが、$x_i^2$ の係数 $d_i$ は、和の部分から出てくるのは、 $i$ 番目が $(n-1)^2$, それ以外の $(n-1)$ 個は 1 なので、
$\displaystyle d_i
=\frac{1}{n^2}\{(n-1)^2 + (n-1)\times 1\}
=\frac{n^2-n}{n^2}
=\frac{n-1}{n}
$
となる。$x_ix_j$ の係数 $p_{i,j}$ は、和の部分から出てくるのは、 $i$ 番目と $j$ 番目が $-2(n-1)$、それ以外の $(n-2)$ 個は 2 なので、
$\displaystyle p_{i,j}
=\frac{1}{n^2}\{-2(n-1)\times 2+(n-2)\times 2\}
= -\,\frac{2n}{n^2}
= -\,\frac{2}{n}
$
となる。よって、
$\displaystyle S
= \frac{n-1}{n}\sum_{i=1}^n x_i^2 -\,\frac{2}{n}
\sum_{1\leq i...
... -\,\frac{1}{n}\left(\sum_{i=1}^n x_i^2
+2\sum_{1\leq i<j\leq n}x_ix_j\right)
$
となる。これは、行列 $N$, 列ベクトル $\overrightarrow{x}$
  $\displaystyle
N = \left[\begin{array}{ccc}1&\cdots &1\\ \vdots && \vdots\\ 1&\...
...w}\overrightarrow{x}=\left[\begin{array}{c}x_1\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right]$ (15)
とすると、対称行列 $E-N/n$ に関する 2 次形式
  $\displaystyle
S = {}^t{\overrightarrow{x}}\left(E-\,\frac{1}{n}N\right)\overrightarrow{x}$ (16)
の形に書くことができる。

一方、(14) の右辺 ($=I$ とする) は、

$\displaystyle \left(\sum_{j=1}^n a_{i,j}x_j\right)^2
=
\left(\overrightarrow{\a...
...{\overrightarrow{\alpha}_i}\overrightarrow{\alpha}_i\right)
\overrightarrow{x}
$
と書けるので、
$\displaystyle Q
= \sum_{i=1}^{n-1}{}^t{\overrightarrow{\alpha}_i}\overrightarro...
...ightarrow{\alpha}_1\\ \vdots\\ \overrightarrow{\alpha}_{n-1}\end{array}\right]
$
とすると、
$\displaystyle I={}^t{\overrightarrow{x}}Q\overrightarrow{x}
$
となる。よって、(14) は
$\displaystyle {}^t{\overrightarrow{x}}\left(E-\,\frac{1}{n}N\right)\overrightarrow{x}
={}^t{\overrightarrow{x}}Q\overrightarrow{x}
$
となり、これが $\overrightarrow{x}$ に関して恒等的に成り立つためには、 $E-N/n=Q$ が条件となる。

一方、 ${}^t{\overrightarrow{\beta}}\overrightarrow{\beta}=N/n$ となるので、

$\displaystyle Q+\frac{1}{n}N
= \sum_{i=1}^{n-1}{}^t{\overrightarrow{\alpha}_i}...
...rrightarrow{\alpha}_{n-1}\\ \overrightarrow{\beta}\end{array}\right]
={}^t{A}A
$
となり、よって、$E-N/n=Q$$E={}^t{A}A$ と同じことになり、 そしてこれは (13) とも等しい。

すなわち、正規性と独立性の条件 (13) によって、 (14) も自動的に得られることになり、 結局 $a_{i,j}$ の満たすべき条件は $A$ が直交行列になること、となる。

これを満たす $a_{i,j}$ はたくさんある。例えば、

  $\displaystyle
\left\{\begin{array}{ll}
\overrightarrow{\alpha}_1 &= \displays...
...splaystyle
\frac{1}{\sqrt{n(n-1)}}\,(1,1,\ldots,1,-(n-1))
\end{array}\right.$ (17)
も一つの解となる。

$n=2,3$ で紹介した例 (4), (5) も ほぼこの解と同じで、$n=3$ の方は $x_2$$x_3$ を入れかえて、 $u_2$$-1$ 倍すれば上の形になる。

以上により、一般の $n$ ($\geq 2$) に対して (3) が示されたことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-08-23