6 証明その 3

次は、 $\displaystyle \frac{\infty}{\infty}$ の形の不定形である $(a+0,\infty/(-\infty),\beta)$ の 場合の証明を紹介する。 これは、4 節、5 節の証明とは かなり異なる。

まず普通に思いつくのは、 $\displaystyle \frac{\infty}{\infty}$ $\displaystyle \frac{0}{0}$ に変換することだろう。 すなわち、 $\hat{f}(x)=1/f(x)$, $\hat{g}(x)=1/g(x)$ とすれば、

\begin{displaymath}
I_0
= \displaystyle \lim_{x\rightarrow a+0}\frac{f(x)}{g(x)...
...playstyle \lim_{x\rightarrow a+0}\frac{\hat{g}(x)}{\hat{f}(x)}
\end{displaymath}

で、
\begin{displaymath}
\displaystyle \lim_{x\rightarrow a+0}\hat{f}(x)
=\displaysty...
...{g}(x)
=\displaystyle \lim_{x\rightarrow a+0}\frac{1}{g(x)}
=0
\end{displaymath}

となって、 $\displaystyle \frac{0}{0}$ の形になる。 しかし、これで $(a+0,0/0,\beta)$ の結果を利用できるかというと、 必ずしもそうではない。 それは、 $\hat{g}/\hat{f}$ に対する $I_1$ (これを $\hat{I}_1$ と書く) が、
\begin{displaymath}
\hat{I}_1
=
\displaystyle \lim_{x\rightarrow a+0}\frac{\hat{...
...ac{f(x)}{g(x)}\right)^2\frac{g'(x)}{f'(x)}
=
\frac{I_0^2}{I_1}
\end{displaymath}

となり、 $(a+0,0/0,\beta)$ の定理の仮定である 「$I_1$ の存在」だけからは、この $\hat{I}_1$ の存在が 保証できないために $(a+0,0/0,\beta)$ の定理を適用することが できないからである。

よって、このような置き換えではうまくいかないので、別の方法を考える。 今、
$(a+0,\infty/(-\infty),\beta)$ の場合の仮定は、 $f(x)$, $g(x)$$J=(a,b)$ で連続、かつ微分可能で、

\begin{displaymath}
\displaystyle \lim_{x\rightarrow a+0}f(x)=\infty,
\hspace{...
...=\displaystyle \lim_{x\rightarrow a+0}\frac{f'(x)}{g'(x)}=\beta\end{displaymath} (5)

となる。このとき、任意の $\epsilon > 0$ に対して、 $a<x<a+\delta$ なるすべての $x$ に対して
\begin{displaymath}
\left\vert\frac{f'(x)}{g'(x)}-\beta\right\vert<\epsilon\end{displaymath}

となるような $\delta>0$ が取れる。 $a<x<y<a+\delta$ となる任意の $x$, $y$ に対して、 コーシーの平均値の定理を適用すると、 ある $p$ ($x<p<y$) が存在して、
\begin{displaymath}
\left\vert\frac{f(x)-f(y)}{g(x)-g(y)}-\beta\right\vert
=\left\vert\frac{f'(p)}{g'(p)}-\beta\right\vert
<\epsilon
\end{displaymath} (6)

となることは前と同じであるが、 今回は $y$ を、$\delta$ に対して 例えば $y=a+2\delta/3$ ($=y_0$ とする) と固定する。 この $y_0$ に対し、(5) を使えば、 $a<x<a+\eta (<y_0)$ であるすべての $x$ に対して
\begin{displaymath}
\left\vert\frac{f(y_0)}{f(x)}\right\vert<\epsilon,
\hspace{0.5zw}
\left\vert\frac{g(y_0)}{g(x)}\right\vert<\epsilon\end{displaymath} (7)

となるような $\eta>0$ が取れる。 さらに、必要ならばより小さくすることで、$\epsilon<1/2$ で あると仮定してよい。

$a<x<a+\eta$ のとき、$f(x)$, $g(x)$ は、 (7) によりそれぞれ $f(y_0)$, $g(y_0)$ に 比べて絶対値は大きいので、 $(f(x)-f(y_0))/(g(x)-g(y_0))$ の値はほぼ $f(x)/g(x)$ に近い値となる。 これは、以下のように変形すればよりよくわかる:

\begin{displaymath}
\frac{f(x)-f(y_0)}{g(x)-g(y_0)}
=
\frac{f(x)}{g(x)}
\times\frac{1-f(y_0)/f(x)}{1-g(y_0)/g(x)}
\end{displaymath}

この後ろの分数の分子、分母にある分数は、 (7) によりその絶対値は少なくとも 1/2 より小さい。 (6) にこの後ろの分数の逆数をかけると、
\begin{displaymath}
\left\vert\frac{f(x)}{g(x)}
- \beta\,\frac{1-g(y_0)/g(x)}...
...silon\,\left\vert\frac{1-g(y_0)/g(x)}{1-f(y_0)/f(x)}\right\vert\end{displaymath} (8)

となるが、(7) より、
\begin{displaymath}
\left\vert 1-\frac{f(y_0)}{f(x)}\right\vert
\geq
1-\left\ver...
...rt\frac{g(y_0)}{g(x)}\right\vert
\leq
1+\epsilon < \frac{3}{2}
\end{displaymath}

となるので、(8) より
\begin{displaymath}
\left\vert\frac{f(x)}{g(x)}
- \beta\,\frac{1-g(y_0)/g(x)}{1-f(y_0)/f(x)}\right\vert
<\epsilon\,\frac{3/2}{1/2} = 3\epsilon\end{displaymath} (9)

となる。一方、(7) より、
$\displaystyle {\left\vert\beta\,\frac{1-g(y_0)/g(x)}{1-f(y_0)/f(x)} - \beta\right\vert}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle \vert\beta\vert\,\left\vert\frac{f(y_0)/f(x)-g(y_0)/g(x)}{1-f(y_0...
...eq
\vert\beta\vert\,\frac{\vert f(y_0)/f(x)\vert+\vert g(y_0)/g(x)\vert}{1/2}$  
  $\textstyle \leq$ $\displaystyle 4\vert\beta\vert\epsilon$ (10)

となるので、 結局 (9), (10) より、
\begin{displaymath}
\left\vert\frac{f(x)}{g(x)}-\beta\right\vert\leq (3+4\vert\beta\vert)\epsilon
\end{displaymath}

となることになる。$x$$a<x<a+\eta$ の任意の値、$\epsilon$ は 任意の値であったので、これは $I_0=\beta$ を意味する。 これで、 $(a+0,\infty/(-\infty),\beta)$ の場合のロピタルの定理が証明できた。

上の証明からわかる通り、これは $q=\infty/\infty$, $-\infty/\infty$, $-\infty/(-\infty)$ の場合でも全くこのまま通用するし、 また $p=a+0$$p=a-0$ に簡単に置き換えることができ、 さらに $p=\infty$, $p=-\infty$ に関する証明に変えることも、 4 節の証明を 5 節で書き換えた 方法を用いれば可能になる。

これで、$r=\beta$ の場合の、$q$$0/0$ 以外の 4 通りの場合で、 $p=a$ 以外の 4 通り、すなわち合計 16 通りの証明が終わる。

竹野茂治@新潟工科大学
2015年7月20日