4 証明その 1

まずは典型的な $(a+0,0/0,\beta)$ の場合の証明を紹介する。

この場合に限らず、いずれの場合も証明には基本的に 「コーシーの平均値の定理」を用いる。 それをまず説明する。

$f(a)=g(a)=0$ より、$I_0$

\begin{displaymath}
I_0
=\displaystyle \lim_{x\rightarrow a+0}\frac{f(x)}{g(x)}
=\displaystyle \lim_{x\rightarrow a+0}\frac{f(x)-f(a)}{g(x)-g(a)}
\end{displaymath}

であるが、もし $f'(a)$$g'(a)$ があって $g'(a)\neq 0$ であれば、
\begin{displaymath}
I_0
=\displaystyle \lim_{x\rightarrow a+0}\frac{\displaystyl...
...-a}}{\displaystyle \frac{g(x)-g(a)}{x-a}}
=\frac{f'(a)}{g'(a)}
\end{displaymath}

となるので、さらに $f'(x)$, $g'(x)$$a$ で連続であれば この最後の値は $I_1$ に等しいことになり、 ロピタルの定理が成立することになる。 ただし、この論法では元のロピタルの定理より強い仮定を いくつか使ってしまっている (が、シンプルな証明の一つと言えるし、 実例ではこれで十分な場合も多い)。

元の条件の下で証明するために、通常の平均値の定理を使うと、 $x>a$ に対して、

\begin{displaymath}
\frac{f(x)}{g(x)}
=\frac{f(x)-f(a)}{g(x)-g(a)}
=\frac{f'(p)(x-a)}{g'(q)(x-a)}
=\frac{f'(p)}{g'(q)}
\end{displaymath}

となるような $p$, $q$ ($\in(a,x)$) が取れる。 この式で $x$$a$ に近づけると $p$, $q$$a$ に近づくので 最後の項は $I_1$ に近づきそうだが、$p$$q$ が揃っていないので、 その極限が $I_1$ に等しいことの保証にはならない。 この $p$, $q$ を同じ値に揃えることができる、 というのがコーシーの平均値の定理である。


定理 2 (コーシーの平均値の定理)

$f(x)$, $g(x)$$[a,b]$ で連続、$(a,b)$ で微分可能で、 かつ $g'(x)\neq 0$ であるとき、

\begin{displaymath}
\frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}=\frac{f'(c)}{g'(c)}
\end{displaymath}

となる $c$$(a,b)$ 内に少なくとも一つ存在する。


この定理の証明は、

\begin{displaymath}
F(x)=f(x)-g(x)\,\frac{f(b)-f(a)}{g(b)-g(a)}
\end{displaymath}

に対して通常の平均値の定理を使えば得られる。

なお、コーシーの平均値の定理の条件にある「$g'(x)\neq 0$」は 外すことができない。例えば、$f(x)$, $g(x)$ が、

のような関数であれば、 $(f(1)-f(0))/(g(1)-g(0)) = 1$ であるが、 $0<x<1$ では、$x=1/2$ 以外では $f'(x)/g'(x)<0$ であり 1 に等しくなることはない。 $x=1/2$ では $g'(x)=0$ となるので、 これがコーシーの平均値の定理の条件を満たさない。 これが、ロピタルの定理 1 の 条件 2 に含まれる「$g'(x)\neq 0$」の由来になる。

このコーシーの平均値の定理を用いて、 $(a+0,0/0,\beta)$ の場合の ロピタルの定理の証明を、 $\epsilon-\delta$ 論法で行う。

$I_1=\beta$ より、任意の $\epsilon > 0$ に対して、 $a<x<a+\delta$ であるすべての $x$ に対して、

\begin{displaymath}
\left\vert\frac{f'(x)}{g'(x)}-\beta\right\vert<\epsilon\end{displaymath} (2)

となるような $\delta>0$ が取れる。

$a<x<a+\delta$ となる任意の $x$ に対して、 コーシーの平均値を用いると、

\begin{displaymath}
\frac{f(x)}{g(x)}
= \frac{f(x)-f(a)}{g(x)-g(a)}
= \frac{f'(p)}{g'(p)},
\end{displaymath}

$a<p<x\ (<a+\delta)$ となる $p$ が存在する。 よって、(2) より
\begin{displaymath}
\left\vert\frac{f(x)}{g(x)}-\beta\right\vert
=\left\vert\frac{f'(p)}{g'(p)}-\beta\right\vert<\epsilon
\end{displaymath}

となる。$x$$a<x<a+\delta$ の任意の $x$ で、 $\epsilon > 0$ も任意なので、 これは $I_0$ が存在して $I_0=\beta$ であることを示している。 これで、 $(a+0,0/0,\beta)$ の場合の証明が終わった。

この証明は、 $(a-0,0/0,\beta)$ の場合もほぼ同じであるし、 その 2 つを合わせれば $(a,0/0,\beta)$ の場合になるので、 これも同様に示されることになる。 これで、$q=0/0$, $r=\beta$ の場合のうち 3 通りのものの証明が終わる。

竹野茂治@新潟工科大学
2015年7月20日