4 条件を満たすデータの存在

前節で、実際のデータに対しては $X_1$, $X_2$, $Y_1$, $Y_2$, $Z$ が 不等式 (8), (9), (11) を 満たすことを見たが、 逆に $X_1$, $X_2$, $Y_1$, $Y_2$, $Z$ が これらの不等式を満たす実数であるとき、 それらが (7) のような平均値になるような データ $(x_k,y_k)$ が存在するかどうかを考えてみることにする。

まず、$X_2=0$ の場合は、(8) より $X_1=0$、 (9) より $Z=0$ となるので、 (11) の両辺も 0 であり、 よって、この場合は $n=2$ として、$x_1=x_2=0$ とすれば $X_1$, $X_2$ は OK で、$y_1$, $y_2$

\begin{displaymath}
y_1+y_2 = 2Y_1,
\hspace{1zw}y_1^2+y_2^2 = 2Y_2
\end{displaymath}

を満たさなければならないが、
\begin{displaymath}
y_1y_2
= \frac{(y_1+y_2)^2-(y_1^2+y_2^2)}{2}
= \frac{4Y_1^2-2Y_2}{2}
= 2Y_1^2-Y_2
\end{displaymath}

となるから、$y_1$, $y_2$ は 2 次方程式
\begin{displaymath}
\lambda^2-2Y_1\lambda+2Y_1^2-Y_2=0
\end{displaymath}

の 2 解として求まる。実際、この 2 次方程式の判別式 $D$ は、 (8) より
\begin{displaymath}
\frac{D}{4} = Y_1^2-(2Y_1^2-Y_2)=Y_2-Y_1^2\geq 0
\end{displaymath}

となるので実数解を持つ。

$Y_2=0$ の場合も同様なので、 以後、$X_2>0$, $Y_2>0$ の場合を考える。

今、新たに

\begin{displaymath}
\hat{X}_1 = \frac{X_1}{\sqrt{X_2}},
\hspace{1zw}\hat{Y}_1 = ...
..._1}{\sqrt{Y_2}},
\hspace{1zw}\hat{Z} = \frac{Z}{\sqrt{X_2Y_2}}
\end{displaymath}

と書くこととすると、条件 (8), (9), (11) は、
    $\displaystyle \vert\hat{X}_1\vert\leq 1,\hspace{1zw}\vert\hat{Y}_1\vert\leq 1,\hspace{1zw}\vert\hat{Z}\vert\leq 1$ (12)
    $\displaystyle (\hat{Z}-\hat{X}_1\hat{Y}_1)^2
\leq \{1-(\hat{X}_1)^2\}\{1-(\hat{Y}_1)^2\}$ (13)

となる。

(7) を満たすデータに対しても新たに記号を導入し、

\begin{displaymath}
\overrightarrow{\hat{x}} = \frac{\overrightarrow{x}}{\sqrt{n...
...\overrightarrow{\hat{n}} = \frac{\overrightarrow{n}}{\sqrt{n}}
\end{displaymath}

とすると、
\begin{eqnarray*}\overrightarrow{\hat{x}}\mathrel{・}\overrightarrow{\hat{n}}
&...
..._1+y_2+\cdots +y_n}{n\sqrt{Y_2}}
= \frac{\bar{y}}{\sqrt{Y_2}} \end{eqnarray*}


より $\bar{x}=X_1$, $\bar{y}=Y_1$
\begin{displaymath}
\overrightarrow{\hat{x}}\mathrel{・}\overrightarrow{\hat{n}...
...ghtarrow{\hat{y}}\mathrel{・}\overrightarrow{\hat{n}}=\hat{Y}_1\end{displaymath} (14)

と書き換えられる。また、
\begin{displaymath}
\vert\overrightarrow{\hat{x}}\vert^2 = \frac{\vert\overright...
...t\overrightarrow{y}\vert^2}{nY_2} = \frac{\overline{y^2}}{Y_2}
\end{displaymath}

より、 $\overline{x^2}=X_2$, $\overline{y^2}=Y_2$ は、
\begin{displaymath}
\vert\overrightarrow{\hat{x}}\vert=1,
\hspace{1zw}
\vert\overrightarrow{\hat{y}}\vert=1\end{displaymath} (15)

に置き換わる。そして、
\begin{displaymath}
\overrightarrow{\hat{x}}\mathrel{・}\overrightarrow{\hat{y}}...
...rrow{y}}{n\sqrt{X_2Y_2}}
=
\frac{\overline{xy}}{\sqrt{X_2Y_2}}
\end{displaymath}

より、 $\overline{xy}=Z$ は、
\begin{displaymath}
\overrightarrow{\hat{x}}\mathrel{・}\overrightarrow{\hat{y}}=\hat{Z}\end{displaymath} (16)

に置き換わる。

つまり、(12), (13) を満たす $\hat{X}_1$, $\hat{Y}_1$, $\hat{Z}$ に対して、 (14), (15), (16) を満たす ベクトル $\overrightarrow{\hat{x}}$, $\overrightarrow{\hat{y}}$ が存在することを 示せばよいことになる。

実際これは、$n=3$ の 3 次元で解を求めることができる。 (15) より $\overrightarrow{\hat{x}}$, $\overrightarrow{\hat{y}}$ は単位ベクトルで、 $\overrightarrow{\hat{n}}$ も単位ベクトルであることに注意する。

今、 $\overrightarrow{\hat{x}}$ $\overrightarrow{\hat{n}}$ のなす角を $\alpha$ $\overrightarrow{\hat{y}}$ $\overrightarrow{\hat{n}}$ のなす角を $\beta$ $\overrightarrow{\hat{x}}$ $\overrightarrow{\hat{y}}$ のなす角を $\gamma$ とすると、 (14), (16) は

\begin{displaymath}
\cos\alpha = \hat{X}_1,
\hspace{1zw}\cos\beta = \hat{Y}_1,
\hspace{1zw}\cos\gamma = Z_1'\end{displaymath} (17)

を意味する。

(12) より、(17) を満たす $\alpha$, $\beta$, $\gamma$ は一意に存在する。 (17) を (13) に代入すると、

\begin{displaymath}
\vert\cos\gamma-\cos\alpha\cos\beta\vert
\leq\sqrt{1-\cos^2\alpha}\sqrt{1-\cos^2\beta}
=\sin\alpha\sin\beta
\end{displaymath}

となり、これは加法定理により
\begin{displaymath}
\cos(\alpha+\beta)\leq\cos\gamma\leq\cos(\alpha-\beta)\end{displaymath} (18)

と書き換えられる。

すなわち、(17) により一意に決定する $[0,\pi]$ の範囲の 角 $\alpha$, $\beta$, $\gamma$ が (18) を満たすとき、 それらがなす角となるような単位ベクトル $\overrightarrow{\hat{x}}$, $\overrightarrow{\hat{y}}$ が存在することを確認することが目標となる。

$\overrightarrow{\hat{x}}$ $\overrightarrow{\hat{n}}$ はなす角が $\alpha$ であるが、 そのようなベクトル全体の終点は単位球上で一つの円 $C_1$ を描く (図 1)。 同様に $\overrightarrow{\hat{n}}$ とのなす角が $\beta$ であるような ベクトルの終点も単位球上の円 $C_2$ となる。

図 1:$C_1$, $C_2$
\includegraphics[width=0.5\textwidth]{fig1.eps}
よって、それらの円 $C_1$, $C_2$ 上にそれぞれ終点があるベクトル $\overrightarrow{\hat{x}}$, $\overrightarrow{\hat{y}}$ のなす角が、 (18) を満たす $\gamma$ となりうるかを考えればよいことになる。

今、 $\alpha\geq\beta$ と仮定する ($\alpha<\beta$ の場合は、 単に $X_i$$Y_i$ を入れ換えて考えればよい)。 不等式 (18) は、 $\alpha+\beta\leq\pi$ の場合は

\begin{displaymath}
\alpha+\beta\geq\gamma\geq\alpha-\beta\end{displaymath} (19)

を意味し、 $\alpha +\beta >\pi $ の場合は
\begin{displaymath}
2\pi-(\alpha+\beta)\geq\gamma\geq\alpha-\beta\end{displaymath} (20)

を意味することに注意する。

まず、 $\alpha+\beta\leq\pi$ の場合、 図 1 からもわかるが、 $\overrightarrow{\hat{x}}$ $\overrightarrow{\hat{y}}$ とのなす角が 最小となるのは $\overrightarrow{\hat{x}}$, $\overrightarrow{\hat{y}}$, $\overrightarrow{\hat{n}}$ が 同一平面にあるときで、その角は $(\alpha-\beta)$、 なす角が最大となるのもやはりこれらのベクトルが同一平面にあるときで、 その角は $(\alpha+\beta)$ となる。 それ以外の場合は、その 2 つのベクトルのなす角はこの最小角と最大角の間を 連続的に変化するので、 結局 (19) を満たすすべての $\gamma$ に対し、 それがなす角となるような $\overrightarrow{\hat{x}}$, $\overrightarrow{\hat{y}}$ の配置が 存在することがわかる。

$\alpha +\beta >\pi $ の場合も、図 2 より、 この場合のなす角の最小値は $(\alpha-\beta)$、 最大値は $2\pi-(\alpha+\beta)$ であることがわかり、 $\overrightarrow{\hat{x}}$, $\overrightarrow{\hat{y}}$ のなす角はその間を連続的に変化するので、 (20) を満たすすべての $\gamma$ に対し、 それがなす角となるような $\overrightarrow{\hat{x}}$, $\overrightarrow{\hat{y}}$ の配置が 必ず存在する。

図 2: $\alpha +\beta >\pi $ の場合
\includegraphics[width=0.5\textwidth]{fig2.eps}

これで、(12), (13) を満たす $\hat{X}_1$, $\hat{Y}_1$, $\hat{Z}$ に対して、 (14), (15), (16) を満たす ベクトル $\overrightarrow{\hat{x}}$, $\overrightarrow{\hat{y}}$ が存在することを 示すことができたことになり、よって、 (8), (9), (11) を満たす $X_1$, $X_2$, $Y_1$, $Y_2$, $Z$ に対し、 それらが (7) のような平均値となるような データ $(x_k,y_k)$ が実際に存在することが示されたことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2014年11月18日