2 留数を用いたラプラス逆変換の公式

この教科書 [1] で紹介されている、 留数計算を利用したラプラス逆変換の計算方法とは、以下のようなものである ([1] 第 IV 部 第 3 章 2「ラプラス逆変換公式」の式 (4))。


定理 1

$F(s)$ が、有限個の極 $s=s_1,s_2,\ldots,s_N$ 以外では正則な関数で、 あるところから外では有界:

  $\displaystyle
\sup_{\vert s\vert>R_0}\vert F(s)\vert<\infty
$ (1)
で、かつ遠方への減衰条件
  $\displaystyle
\lim_{\vert s\vert\rightarrow\infty}F(s)=0
$ (2)
を満たすとすると、そのラプラス逆変換 $f(t)$ は次の式で与えられる:
  $\displaystyle
f(t)=\sum_{j=1}^N \mathop{\rm Res}\nolimits [e^{st}F(s),s_j]
$ (3)
ここで、 $\mathop{\rm Res}\nolimits [g(z),\alpha]$$g(z)$ の極 $z=\alpha$ での留数、 すなわち $z=\alpha$ での $g(z)$ のローラン展開の $1/(z-\alpha)$ の 係数を意味するものとする。


[3] でも見たように、 多項式、三角関数、指数関数の和や積で表される関数のラプラス変換は、 分母の次数が分子の次数より大きい有理関数となり、 そのような有理関数は有界性 (1) と 減衰条件 (2) を満たすので、 そのラプラス逆変換の計算にはこの公式が適用できる。

しかし、例えば $F(s)=\sin s/s$ のような場合、 一見この定理の条件を満たすように見えるかもしれないが、 $s=iy$ に対して

$\displaystyle F(iy)
=\frac{\sin iy}{iy}
=\frac{e^{i^2y}-e^{-i^2y}}{2i^2y}
=\frac{e^{y}-e^{-y}}{2y}
$
となり、この直線上は減衰しないので 減衰条件 (2) を満たさない。 また、 $F(s)=1/s(e^s-1)$ のような場合も 条件を満たすように見えるかもしれないが、 $e^s=1$ となる $s$ は有限個ではなく、 $s=2n\pi i$ ($n$ は整数) がすべて極となるので (よって虚軸上では有界にもならない)、定理の条件を満たさない。

つまり、この定理の条件を満たす関数はだいぶ限られていて、 実は、それは分母の次数が分子の次数より大きい有理関数しかないことも ちゃんと証明できる (5 節参照)。 それでも応用としては十分広い範囲であり、 留数計算のみでラプラス逆変換を求めることができる、 という点で十分有用な公式であると思う。

なおこの公式 (3) の説明は、 本稿では教科書 [1] とは 少し違う説明を 3 節で行う。 そのため、教科書の公式と上の定理 1 とは少し違いがあり、 教科書の定理の方が減衰条件がやや強い形で上げられている。 しかし教科書の形だと、 実は分母の次数が分子の次数より 1 だけ大きい有理関数が含まれないことになってしまうが、 この公式 (3) 自体はもちろんそのような関数にも適用できる。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-07-20