3 部分分数分解

有理関数のラプラス逆変換の計算では、 不定積分の計算と同様、 まず有理関数を簡単な有理関数の和に分けるために部分分数分解を行う。

部分分数分解の原理は以下の通り。


定理 2

多項式 B1(s) , B2(s) が互いに素で B(s) = B1(s)B2(s) であり、 deg A < deg B であれば、

となるような多項式 A1 , A2 が存在する (一意に決定する)。


これにより、分母を因数分解すれば、 その因数に応じて互いに素な分母の分数に分解できることになる。 分子の A1 , A2 は未定係数法により求めることができる。 そして、分母の因数分解については、実数係数の多項式であれば、 次の定理により理論的には高々 2 次の因子にまで 実数の範囲で因数分解可能であることがわかる。


定理 3

  1. 複素数係数の n 次多項式 B(s) は、複素数の範囲で n 個の零点 (すなわち方程式 B(s) = 0 の解) $ \lambda_{1}^{}$ ,...,$ \lambda_{n}^{}$ を持ち、

    B(s) = a(s - $\displaystyle \lambda_{1}^{}$) ... (s - $\displaystyle \lambda_{n}^{}$)

    と 1 次因数の積に因数分解できる (代数学の基本定理)。
  2. B(s) の係数が実数の場合、複素数の零点 $ \lambda$ = p + qi があれば、 その共役複素数 $ \bar{{\lambda}}$ = p - qi も零点となる。
  3. B(s) の係数が実数ならば、B(s) は実数係数の 1 次と 2 次の因数の積の形に因数分解できる。


定理 33. は、

(s - $\displaystyle \lambda$)(s - $\displaystyle \bar{{\lambda}}$) = (s - p - qi)(s - p + qi) = (s - p)2 + q2

であるから、2. の共役な零点との因数を組み合わせることで 容易に得られる。 よって、重複する零点を重複度を含めて書くことにすれば、 B(s) は原理的には
B(s) = a(s - r1)m1 ... (s - rL)mL x (s2 + $\displaystyle \mu_{1}^{}$s + $\displaystyle \xi_{1}^{}$)$\scriptstyle \tau_{1}$ ... (s2 + $\displaystyle \mu_{M}^{}$s + $\displaystyle \xi_{M}^{}$)$\scriptstyle \tau_{M}$  
    (mj $\displaystyle \geq$ 1,   $\displaystyle \tau_{k}^{}$ $\displaystyle \geq$ 1,   $\displaystyle \mu_{k}^{2}$ -4$\displaystyle \xi_{k}^{}$ < 0)  

のような形に因数分解されることになるから、 定理 2 を繰り返し用いれば、
$\displaystyle {\frac{{A(s)}}{{B(s)}}}$ = $\displaystyle {\frac{{C_1(s)}}{{(s-r_1)^{m_1}}}}$ + ... + $\displaystyle {\frac{{C_L(s)}}{{(s-r_L)^{m_L}}}}$  
      + $\displaystyle {\frac{{D_1(s)}}{{(s^2+\mu_1s+\xi_1)^{\tau_1}}}}$ + ... + $\displaystyle {\frac{{D_M(s)}}{{(s^2+\mu_Ms+\xi_M)^{\tau_M}}}}$  
    (deg Cj < mj,   deg Dk < 2$\displaystyle \tau_{k}^{}$)  

のように部分分数分解されることになる。 よって結局、

$\displaystyle {\frac{{C(s)}}{{(s-r)^{m}}}}$,   $\displaystyle {\frac{{D(s)}}{{(s^2+\mu s+\xi)^{\tau}}}}$   (deg C < m,   deg D < 2$\displaystyle \tau$,   $\displaystyle \mu^{2}_{}$ -4$\displaystyle \xi$ < 0)

の形の関数のラプラス逆変換を求められればよいことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2008年3月26日