2 ラプラス変換の基本公式

最初に、本稿で必要となるラプラス変換の基本公式を上げておく。 まず、本稿では f (t) のラプラス変換を以下のように書くことにする。
$\displaystyle \mathcal {L}$[f (t)] = $\displaystyle \mathcal {L}$[f (t)](s) = $\displaystyle \int_{0}^{\infty}$e-stf (t)dt (1)
以下に上げる公式は基本的なものであり、 ラプラス変換に関する教科書 (例えば [1]) であればたいてい載っている。
線形性   $\displaystyle \mathcal {L}$[af (t) + bg(t)] = a$\displaystyle \mathcal {L}$[f (t)] + b$\displaystyle \mathcal {L}$[g(t)] (2)
eat 倍   $\displaystyle \mathcal {L}$[eatf (t)](s) = $\displaystyle \mathcal {L}$[f (t)](s - a) (3)
t 倍   $\displaystyle \mathcal {L}$[tf (t)](s) = - $\displaystyle {\frac{{d}}{{ds}}}$$\displaystyle \mathcal {L}$[f (t)](s) (4)
微分   $\displaystyle \mathcal {L}$[f'(t)](s) = s$\displaystyle \mathcal {L}$[f (t)](s) - f (0) (5)
スケール変換   $\displaystyle \mathcal {L}$[f (at)](s) = $\displaystyle {\frac{{1}}{{a}}}$$\displaystyle \mathcal {L}$[f (t)]$\displaystyle \left(\vphantom{\frac{s}{a}}\right.$$\displaystyle {\frac{{s}}{{a}}}$$\displaystyle \left.\vphantom{\frac{s}{a}}\right)$   (a > 0) (6)

この最後のもの以外は [2] でもおおまかな説明をしているので、 最後のもののみ示しておく。 これは、at = x による置換積分で、
$\displaystyle \mathcal {L}$[f (at)](s) = $\displaystyle \int_{0}^{\infty}$e-stf (at)dt = $\displaystyle \int_{0}^{\infty}$e-sx/af (x)$\displaystyle {\frac{{dx}}{{a}}}$ = $\displaystyle {\frac{{1}}{{a}}}$$\displaystyle \int_{0}^{\infty}$e-(s/a)xf (x)dx  
  = $\displaystyle {\frac{{1}}{{a}}}$$\displaystyle \mathcal {L}$[f (t)]$\displaystyle \left(\vphantom{\frac{s}{a}}\right.$$\displaystyle {\frac{{s}}{{a}}}$$\displaystyle \left.\vphantom{\frac{s}{a}}\right)$  

により得られる。

具体的な関数のラプラス変換については、以下のものを証明なしにあげておく。 詳細は、教科書等 (例えば [1]) を参照のこと。

f 1 tk sin t cos t
$ \mathcal {L}$[f] $\displaystyle {\frac{{1}}{{s}}}$ $\displaystyle {\frac{{k!}}{{s^{k+1}}}}$ $\displaystyle {\frac{{1}}{{s^2+1}}}$ $\displaystyle {\frac{{s}}{{s^2+1}}}$

ラプラス変換は、次の意味で一対一であることが保証されている。


定理 1

f (t) , g(t) t > 0 で連続で、 $ \mathcal {L}$[f](s) $ \mathcal {L}$[g](s) が同じ関数であれば、 f (t) g(t) も等しい。


これにより、変換後の関数から変換前の関数への対応も考えることができ、 それがラプラス逆変換である:

$\displaystyle \mathcal {L}$-1[F(s)](t) = f (t)   $\displaystyle \Longleftrightarrow$   $\displaystyle \mathcal {L}$[f (t)](s) = F(s)

この F(s) のラプラス逆変換を求めるには、 例えば以下のような方法がある。

最初のものは、逆変換を陽に表わす積分公式なのであるが、 その計算は易しくはないためあまり用いられず、 通常の計算、多くの工学向けの教科書では 2 つ目のものがよく用いられるようである。

その方法とは例えば、

F(s) = $\displaystyle {\frac{{s+2}}{{s^2+2s+2}}}$

のラプラス逆変換を考えると、(2), (3) より
F(s) = $\displaystyle {\frac{{s+2}}{{(s+1)^2+1}}}$ = $\displaystyle {\frac{{(s+1)}}{{(s+1)^2+1}}}$ + $\displaystyle {\frac{{1}}{{(s+1)^2+1}}}$  
  = $\displaystyle \left[\vphantom{\frac{S}{S^2+1}+\frac{1}{S^2+1}}\right.$$\displaystyle {\frac{{S}}{{S^2+1}}}$ + $\displaystyle {\frac{{1}}{{S^2+1}}}$$\displaystyle \left.\vphantom{\frac{S}{S^2+1}+\frac{1}{S^2+1}}\right]_{{S=s+1}}^{}$ = $\displaystyle \mathcal {L}$[cos t](s + 1) + $\displaystyle \mathcal {L}$[sin t](s + 1)  
  = $\displaystyle \mathcal {L}$[e-tcos t](s) + $\displaystyle \mathcal {L}$[e-tsin t](s) = $\displaystyle \mathcal {L}$[e-tcos t + e-tsin t](s)  

と変形できるので、

$\displaystyle \mathcal {L}$-1[F(s)] = e-tcos t + e-tsin t

となる、といった具合である。

本稿では、分子の次数が分母の次数よりも小さい有理関数

F(s) = $\displaystyle {\frac{{A(s)}}{{B(s)}}}$   (deg A(s) < deg B(s))

(A, B s の多項式、deg A A の次数) の ラプラス逆変換を求めることを目標とする。 多項式、三角関数 (sin , cos )、指数関数の和や積のラプラス変換は 必ずこの形になり、 また逆にこの形の関数 F(s) のラプラス逆変換は、 多項式、三角関数、指数関数の和と積で表される。 本稿ではその事実、および計算方法について解説していく。

竹野茂治@新潟工科大学
2008年3月26日