3 Riemann 不変量と Darboux の公式

方程式 (3) に対して,
$\displaystyle
w = u + \frac{\sqrt{A\gamma}}{\theta}\,\rho^\theta,
\hspace*{1em}z = u - \frac{\sqrt{A\gamma}}{\theta}\,\rho^\theta$ (8)
で定まる $w,z$ を「Riemann 不変量」と呼ぶ. ここで $\theta$ $\theta=(\gamma-1)/2$ の定数で, $1<\gamma<3$ では $0<\theta<1$ である.

$(\rho ,u)$ という組は, $\rho>0$ の範囲では $(w,z)$ という組に 1 対 1 に対応し,

$\displaystyle
u = \frac{w+z}{2},
\hspace*{1em}\rho=\left(\frac{\theta}{\sqrt{A\gamma}}
\,\frac{w-z}{2}\right)^{1/\theta}$ (9)
と表される. よって滑らかで $\rho>0$ な解に対しては, $(\rho ,u)$ で考えることと $(w,z)$ で考えることは同等となる. 弱エントロピー対 $(\eta,q)$ や Young 測度 $\nu_{(t,x)}(\rho,u)$ も, $\rho,u$ の関数, $\rho,u$ の測度と考える代わりに $w,z$ の関数, $w,z$ の測度, と考えることもできる. $(w,z)$ で考えると方程式 (3) も対角化され, 色々見通しが良くなり, 本稿でもほぼ $(w,z)$ で考察する.

補償コンパクト性理論で用いられる (3) の 近似解は, 一様有界性を持つ人工粘性近似や Lax-Friedrichs 型の差分近似 が用いられる. それらは, ある不変領域を持つことが知られている. まず, $(w,z)$ 平面の三角領域 $\Sigma (w_0,z_0)$ を以下のように定める.

$\displaystyle
\Sigma(w_0,z_0)=\{(w,z);\ w\leq w_0,\ z\geq z_0,\ w\geq z\}$ (10)
なお, $w\geq z$$\rho\geq 0$ に対応し, これは常に満たす必要がある. この $\Sigma (w_0,z_0)$$(w,z)$ 平面, $(\rho ,u)$ 平面では 図 1 のようになる.
図 1: $\Sigma (w_0,z_0)$ on $(w,z)$ plane and on $(\rho ,u)$ plane
\begin{figure}\begin{picture}(300,100)(-50,0)
% (w,z) の図 (0,0)--(100,100)
\li...
...r(-0.5,1){10}}
\put(200,2){\small$\Sigma(w_0,z_0)$}
\end{picture}
\end{figure}
なお, これは $(\rho ,u)$ 平面のものと $(w,z)$ 平面のものを同一視し, 同じ $\Sigma (w_0,z_0)$ で表すことにする. また, 厳密に言えば弱解は $\rho=0$ ($w=z$) の値を取り得て, その部分では $u$ は未定義になってしまうのであるが, 弱解は正確には $(\rho ,u)$ の対ではなく, $(\rho,m)=(\rho,\rho u)$ の対で考えるので, $\rho=0$ も問題なく弱解として含み得る. 本稿では, 弱解と $\rho=0$ に関する議論は詳しくは行わないが, 参考文献[9] を参照のこと. 三角領域 $\Sigma (w_0,z_0)$ に関して次が成り立つことが知られている.
初期値 $(\rho_0(x),u_0(x))$ がすべての $x$ に対してある 三角領域 $\Sigma (w_0,z_0)$ に含まれていれば, そこから構成する (3) の 人工粘性近似解, あるいは Lax-Friedrichs 型差分近似解 $(\rho^\Delta(t,x),u^\Delta(t,x))$ は, $t>0$ に対し常に $\Sigma (w_0,z_0)$ に含まれる.
これにより, この近似解の部分列 $(\rho_n(t,x),u_n(t,x))$, その汎弱極限 $(\bar{\rho}(t,x),\bar{u}(t,x))$, およびそれに対する Young 測度 $\{\nu_{(t,x)}(\rho,u)\}_{(t,x)}$ が 取れ, $\nu_{(t,x)}$ $\Sigma (w_0,z_0)$ 以外では 0 となる. そして, 補償コンパクト性理論により, この Young 測度 $\nu_{(t,x)}$ と, 任意の弱エントロピー対 $(\eta,q)$, $(\tilde{\eta},\tilde{q})$ に対して, 冒頭の Tartar 方程式 (1) が, ほとんどいたるところの $(t,x)$ ($t>0$) に対して 成り立つことが示される. ここまでは標準的な流れで, この部分に変更はない. 詳しくは参考文献[9] 等を参照のこと.

あとは, Tartar 方程式を解くのに必要な弱エンロピー対を, 以下のいわゆる Darboux の公式から具体的に生成して, それを使って考察する.

$1<\gamma\leq 5/3$ のとき, 実数上の任意の連続関数 $\phi(s)$ に対して,
$\displaystyle
\left\{\begin{array}{ll}
\eta &\displaystyle =\int_z^w(w-s)^m(s...
... \lambda_2\eta - \theta\int_z^w(w-s)^{m+1}(s-z)^m\phi(s)ds
\end{array}\right. $ (11)
は, (5) を満たす弱エントロピー 対 ($\eta(0,u)=0$) となる. ここで, $\lambda_2$
$\displaystyle \lambda_2
= u+\sqrt{A\gamma}\,\rho^\theta
= \frac{1+\theta}{2}\,w+\frac{1-\theta}{2}\,z
$
で, $m$
$\displaystyle m = \frac{1-\theta}{2\theta}
= \frac{3-\gamma}{2(\gamma-1)}.
$
この最後の $m$ は, 逆に $\gamma=(2m+3)/(2m+1)$ となり, DiPerna[3] は $m$ を自然数とし, Ding-Chen-Luo[2] は $m$ を 1 以上の実数としている. 本稿では, $m$ を自然数として, DiPerna[3] と同じ $\gamma$ の 条件で考える.

弱エントロピー対は, この Darboux の公式 (11) により, $\phi$ の自由度だけ存在し, ここから多くの種類のエントロピー対を生成できる. この Darboux の公式の形のエントロピー対を, 本稿では「Darboux エントロピー対」と呼ぶ. なお, 以後, $q-\lambda_2\eta=\sigma$ とする. Darboux エントロピー対に対しては

$\displaystyle
\sigma = q-\lambda_2\eta = - \theta\int_z^w(w-s)^{m+1}(s-z)^m\phi(s)ds$ (12)
となる.

本稿の議論で必要なエントロピー対を以下に紹介する.

図 2: function $X_0$
\begin{figure}\begin{picture}(200,100)(-150,0)
% (w,z) の図 (0,0)--(100,100)
\l...
...a(w_0,z_0)$\}
% put(73,15)\{ small $(w_0,z_0)$\}
\par\end{picture}
\end{figure}
この最後の $\eta_n,\sigma_n$ を計算する.
$\displaystyle \left(\frac{\partial}{\partial s}\right)^k(w-s)^m(s-z)^m,
\hspace*{2em}\left(\frac{\partial}{\partial s}\right)^k(w-s)^{m+1}(s-z)^m
$
$k<m$ では $s=z$, $s=w$ で 0 になるので, $m$ 回部分積分すると,
$\displaystyle
\eta_n = \int_z^wQ_1(s)\psi_n'(s)ds,
\hspace*{2em}\sigma_n = \int_z^wQ_2(s)\psi_n'(s)ds$ (17)
となる. ここで, $Q_1(s),Q_2(s)$
$\displaystyle
\left\{\begin{array}{lll}
Q_1(s)
&= \bar{Q}_1(w-s,s-z)
&\disp...
...ft(\frac{\partial}{\partial s}\right)^m
(w-s)^{m+1}(s-z)^m
\end{array}\right.$ (18)
$s$ に関する多項式であり, その境界値は
$\displaystyle
\left\{\begin{array}{lll}
Q_1(w) &= \bar{Q}_1(0,w-z) &= m!(w-z)...
..._2(z) &= \bar{Q}_2(w-z,0) &= (-1)^{m+1}\theta m!(w-z)^{m+1}
\end{array}\right.$ (19)
となる. もう 1 回部分積分をすると,
$\displaystyle \eta_n$ $\textstyle =$ $\displaystyle \left[Q_1(s)\psi_n(s)\right]_{s=z}^{s=w}
+\int_z^wR_1(s)\psi_n(s)ds$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle Q_1(w)\psi_n(w)-Q_1(z)\psi_n(z)
+\int_z^wR_1(s)\psi_n(s)ds,$(20)
$\displaystyle \sigma_n$ $\textstyle =$ $\displaystyle \left[Q_2(s)\psi_n(s)\right]_{s=z}^{s=w}
+\int_z^wR_2(s)\psi_n(s)ds$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle Q_2(w)\psi_n(w)-Q_2(z)\psi_n(z)
+\int_z^wR_2(s)\psi_n(s)ds,$(21)
$\displaystyle R_j(s)$ $\textstyle =$ $\displaystyle -\frac{\partial}{\partial s}Q_j(s)
\ =\
-\frac{\partial}{\partial s}\bar{Q}_j(w-s,s-z)
\hspace*{2em}(j=1,2)$(22)
となる.

竹野茂治@新潟工科大学
2023-02-18