方程式 (3) は, , が 滑らかであれば,
と書けるが, これに対し, を満たす の関数の組 を, 「一般化エントロピー対」と呼び, を「エントロピー」, を「エントロピー流束」と呼ぶ. エントロピー対は, 滑らかな に対しては, の追加保存則形の式を満たし, 物理的なエントロピー対 に 対応することからそう名付けられている. また, 真空 で 0 となるエントロピー () を 「弱エントロピー」と呼ぶ. 大きさや変動に制限のない初期値に対する 初期値問題では, 弱解に真空が現れうるため弱エントロピーを用いる必要がある. なお, 滑らかとは限らない弱解に対しては, 一般には (6) は成立しないが, 逆に弱解の物理的な適切性の保証として, 弱解は, 凸なエントロピー に対するエントロピー不等式 を満たす必要がある. これは, 物理でのエントロピー増大則 ( が凸) に対応する.補償コンパクト性理論では, 非線形な汎弱極限を記述する, 以下の Young 測度と呼ばれるものが重要な働きをする:
, で は有界閉集合, とすると, 以下を満たす の部分列 と, と, のほとんど 至るところの に対して定義される 上の確率測度 (非負で全測度 1 の Borel 測度) の族 が存在する.
一様有界な関数列 からは汎弱収束 (weak) す るような部分列が取れるが, 汎弱収束のような弱い収束では, が に収束しても, 一般にはそれを非線形関数 に代入した は, に収束するとは言えない. 例えば の汎弱収束では であるが, となる. その の極限を, の確率測度での積分 (平均値) として記述するような測度が, Young 測度である. ちなみに, に対する Young 測度 は, 非特異な絶対連続測度 となる[10].
の極限が通常の になることは, Young 測度で言えば がデルタ関数 で あることを意味し, その場合は が に 強収束する.
方程式 (3) に対する近似解の有界性から 得られる Young 測度 を, この方程式に豊富に存在する弱エントロピー対に対して 適用したのが Tartar 方程式 (2) に現れる各項で, さらに (3) に対して補償コンパクト性理論 を用いて得られる関係式が Tartar 方程式 (2) で ある. Young 測度 が デルタ関数であることを決定することが, 近似解の強収束性と弱解の存在を示すことになるので, この方法では任意の弱エントロピー対に対して成立する Tartar 方程式 (2) から Young 測度を決定することが目標となる.
竹野茂治@新潟工科大学