4 全射でない場合

$\phi _0(u)$$[0,1]$ への全射のテント写像だが、 全射でないテント型の写像の場合はどうなるかを最後に考えてみる。

$0\leq a<b\leq 1$ に対し

  $\displaystyle
\phi_3(u) = b-(b-a)\vert 2u-1\vert = b-2(b-a)\left\vert u-\,\frac{1}{2}\right\vert
\hspace{1zw}(0\leq u\leq 1)$ (21)
とすると、$\phi _3(u)$ の像は $[a,b]\ (\subset[0,1])$ となる。
図 3: $\phi _3(u)$$\phi _{3,2}(y)$
\begin{figure}\begin{center}\setlength{\unitlength}{0.12mm} \scriptsize\begin{...
...$-1/2$}
\put(570,-100){$\phi_{3,2}(y)$}
\end{picture}
\end{center}\end{figure}

この場合、$\phi_3^n(u)$ がどのようになるか、数値計算してみた結果、 ほぼ以下のようであった。

最後の (c) の場合のカオス的なグラフを明確に表すこと、 およびそれを証明することは難しいが、 (a),(b), および (c) の後半部分はちゃんと示すことができた。 それを以下に紹介する。

$\delta=2(b-a)\in (0,2]$ とすると、$\phi_3$

  $\displaystyle
\phi_3(u)
= b-\delta\left\vert u-\,\frac{1}{2}\right\vert
= a...
...
a+\delta u & ( u\leq 1/2)\\
a+\delta(1-u) & (1/2\leq u)
\end{array}\right.$ (22)
と書けるが、 さらに議論を簡単にするために、 $\xi_2(y)=y-1/2$ によって平行移動して考える:
$\displaystyle \phi_{3,2}(y)$ $\textstyle =$ $\displaystyle (\xi_2\circ\phi_3\circ\xi_2^{-1})(y)
\ =\ \phi_3\left(y+\frac{1}{2}\right)-\,\frac{1}{2}
\ =\ b'-\delta\vert y\vert$(23)
    $\displaystyle \left(b'=b-\,\frac{1}{2},\hspace{0.5zw}a'=a-\,\frac{1}{2}\right)$ 
$\phi_{3,2}^n=\xi_2\circ\phi_3^n\circ\xi_2^{-1}$ なので、 $\phi_3^n$ の漸近性は $\phi_{3,2}^n$ の漸近性を調べることでわかる。

$\phi _{3,2}(y)$ のグラフは折れ線で、その傾きは $\pm\delta$ なので、 その多重写像 $\phi_{3,2}^n(y)$ も折れ線で、 その傾きは $\pm\delta^n$ となる。 $u=y+1/2$ より $0\leq u\leq 1$$\vert y\vert\leq 1/2$ に対応し、 $\phi _{3,2}(y)$ は偶関数で、

$\displaystyle \phi_{3,2}(0)=b',\hspace{1zw}\phi_{3,2}\left(\pm\frac{1}{2}\right)=a'
\hspace{1zw}\left(-\,\frac{1}{2}\leq a'<b'\leq \frac{1}{2}\right)
$
となる。

まず (a) の $0<\delta<1$ の場合から考える。 この場合、 $\phi_{3,2}^n(y)$ の傾き $\pm\delta^n$ $n\rightarrow\infty$ に対し 0 に収束するので $\phi_{3,2}^n(y)$ は水平な直線に収束しそうであるが、 それをちゃんと示す。

$b\leq 0$ ($b<1/2$) の場合は、 $\phi_{3,2}(y)\leq b'\leq 0$ なので、 $\phi_{3,2}^n(y)\leq b'\leq 0$ となり、 よって (23) より

  $\displaystyle
\phi_{3,2}^{n+1}(y)=b'+\delta \phi_{3,2}^n(y)$ (24)
の漸化式が成り立つ。

$a'\geq 0$ $(a\geq 1/2)$ の場合は、 $\phi_{3,2}^n(y)\geq 0$ なので、 (23) より

  $\displaystyle
\phi_{3,2}^{n+1}(y)=b'-\delta\phi_{3,2}^n(y)$ (25)
が成り立つ。

$a'<0<b'$ ($a<1/2<b$) の場合は、 あるところから先の $n$ では $\phi_{3,2}^n(y)\geq 0$ となることを示そう。

まず、この場合 $\beta=b'/\delta$$-\beta$ $\phi_{3,2}(\pm\beta)=0$ となる。 $\phi_{3,2}^n(c)=0$ となる $c\in[-1/2,1/2]$ がある間は、 そこで $\phi_{3,2}^{n+1}(c)=b'$ と最大値を取る。 つまりそこまでは $\phi_{3,2}^n(y)=b'$ となる $y$ も存在している。

図 4: $a'<0<b'$$\phi _{3,2}(y)$$p_0(x)$ のグラフ
\begin{figure}\begin{center}\setlength{\unitlength}{0.12mm} \scriptsize\begin{...
...860,-320){$x$}
\put(660,-170){$p_0(x)$}
\end{picture}
\end{center}\end{figure}

一方で $\phi_{3,2}^{n}(c)$ の傾きは $\pm\delta^n$ で、これは 0 に 収束していくから、 $\phi_{3,2}^{n_0}(y)$ は最大値 $b'$ を取るが、 $\vert y\vert\leq 1/2$ $\phi_{3,2}^{n_0}(y)=0$ となる $y$ が ないような $n_0$ が存在することになる。 このとき、 $0<\phi_{3,2}^{n_0}(y)\leq b'<\beta$ ($0<\delta<1$) なので、 $n\geq n_0$ ではすべて $0<\phi_{3,2}^{n}(y)\leq b'<\beta$ となる。

つまり、この場合も $n\geq n_0$ では、 (25) を満たすことになる。 すなわち漸近的には (24), (25) のどちらかの状態になる。 これらは 1 次の漸化式で係数は $\delta\in(0,1)$ なので、 その数列は収束し、

となる。これで (a) が示されたことになる。

次は (b) の $\delta=1$ の場合を考える。 この場合は、$b'=b-1/2=a$ より、

  $\displaystyle
\phi_{3,2}(y) = a-\vert y\vert$ (26)
となる ( $0\leq a\leq 1/2$)。 なお、以下では (26) を この式のままで $\vert y\vert\leq 1/2$ の外まで拡張して考えることにする。

$a=0$ ($b=1/2$) のときは、明らかに $\phi_{3,2}^n(y)=-\vert y\vert$ と なるから、以後は $a>0$ とする。なお、この $a=0$ のときは、 厳密には (b) は成立しないことになる。

この $\phi_{3,2}^n(y)$ を具体的に書き下すために、新たな関数を導入する。 まず、$p_0(x)$ を、周期が 2 で

  $\displaystyle
p_0(x)=\vert x\vert\hspace{1zw}(-1\leq x\leq 1)$ (27)
を満たすものとする。 なお、これは一本の式で
  $\displaystyle
p_0(x) = \frac{\cos^{-1}(\cos \pi x)}{\pi}$ (28)
と書くこともできる。 また、$H(y)=1-y$ とする。

このとき、 $z=\phi_{3,2}^n(y)$ のグラフは以下のようになり、 $z\geq 0$ の部分は山が $z$ 軸に対称に $n$ 個でて、 その端のスロープが $z<0$ の方向に伸びる、という形になる。

図 5: $\phi _{3,2}^2(y)$ $\phi _{3,2}^3(y)$
\begin{figure}\begin{center}\setlength{\unitlength}{0.12mm} \scriptsize\begin{...
...(570,-320){$-2a$}
\put(515,-290){$-3a$}
\end{picture}
\end{center}\end{figure}

すなわち、

  $\displaystyle
\phi_{3,2}^n(y) = \left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle aH^n\l...
...y\vert\leq na)\\ [1zh]
na-\vert y\vert & (\vert y\vert>na)
\end{array}\right.$ (29)
となることが予想される。これをちゃんと示す。 なお、(29) は両辺とも偶関数なので、 $y\geq 0$ に対して等しいことを示せばよい。

まず $n=1$ のときは、$0\leq y\leq a$ では $0\leq y/a\leq 1$ より、

$\displaystyle aH^1\left(p_0\left(\frac{y}{a}\right)\right)
= a\left(1-p_0\left(\frac{y}{a}\right)\right)
= a\left(1-\,\frac{y}{a}\right)
= a-y = \phi_{3,2}(y)
$
となり、$y>a$ では明らかに両辺は一致するので、 $n=1$ では (29) は成り立つ。

$n$ まで (29) が成り立つことが示されたとして、 $n+1$ でも成り立つことを示す。

$\displaystyle \phi_{3,2}^{n+1}(y) = a-\vert\phi_{3,2}^{n}(y)\vert
$
なので、 $0\leq y\leq na$ では、(29) より $\phi_{3,2}^n(y)\geq 0$ で、よって、
$\displaystyle \phi_{3,2}^{n+1}(y)
= a - \phi_{3,2}^n(y)
= a - aH^n\left(p_0\left(\frac{y}{a}\right)\right)
= aH^{n+1}\left(p_0\left(\frac{y}{a}\right)\right)
$
となるので、(29) は $n+1$ に対して $0\leq y\leq na$ では成立する。

次は、$y\geq (n+1)a$ の場合を考えると、このときは、 (29) より $\phi_{3,2}^n(y)\leq 0$ で、 よって

$\displaystyle \phi_{3,2}^{n+1}(y)
= a+\phi_{3,2}^n(y)
= a+(na-y) = (n+1)a-y
$
となって (29) の右辺に一致する。

あとは $na<y<(n+1)a$ の場合。 この場合は (29) より $\phi_{3,2}^n(y)\leq 0$ で、 よって、

$\displaystyle \phi_{3,2}^{n+1}(y)
= a+\phi_{3,2}^n(y)
= (n+1)a - y
$
となるが、これが $n+1$$na<y<(n+1)a$ の場合の (29) の右辺の
$\displaystyle aH^{n+1}\left(p_0\left(\frac{y}{a}\right)\right)
$
に等しいことを示せばよい。$n<y/a<n+1$ より、
$\displaystyle p_0\left(\frac{y}{a}\right) = \left\{\begin{array}{lll}
\display...
...)
& \displaystyle = 1+n-\,\frac{y}{a} & (\mbox{$n$\ が奇数のとき})\end{array}\right.$
であり、
$\displaystyle H^{n+1}(X) = \left\{\begin{array}{ll}
1-X & (\mbox{$n$\ が偶数のとき})\\ [1zh]
X & (\mbox{$n$\ が奇数のとき})\end{array}\right.$
なので、
\begin{eqnarray*}aH^{n+1}\left(p_0\left(\frac{y}{a}\right)\right)
& =&
\left\{...
...t(1-\,\frac{y}{a}+n\right)
\ =\
(n+1)a-y
\ =\ \phi_{3,2}^n(y)\end{eqnarray*}
となって、 これで (29) が $n+1$ に対して すべての $y$ で 示されたことになり、 帰納法により (29) が成立することになる。

$\vert y\vert\leq 1/2$ に限定して考えれば、(29) は $n_0\geq 1/(2a)$ なる 1$n_0$ より大きい $n$ では $H$ で表される ノコギリ型の部分のみになり、 それが $n$ が偶数か奇数かによって $H$ で上下反転され、 見方によっては半歯分横に移動したとも見れることになる。

これで (b) も示されたことになるが、 厳密に言えば $a>0$ のときは正しく、$a=0$ のときは正しくはない。

最後は (c) の $\delta>1$ の場合の後半部分を考える。 すなわち、この場合に

  $\displaystyle
\phi_{3,2}(y) = b'-\delta\vert y\vert = a'+\frac{\delta}{2}-\delta\vert y\vert$ (30)
のグラフが、$a=0$, すなわち $a'=-1/2$ に対する $\phi _{3,2}(y)$ である
  $\displaystyle
\hat{\phi}_{3,2}(y) = -\,\frac{1}{2}+\frac{\delta}{2}-\delta\vert y\vert$ (31)
のグラフと相似であることを示せばよい。 この場合、 $(\delta-1)/2>0$ であることに注意すると、
\begin{eqnarray*}\phi_{3,2}(y)
&=&
a'+\frac{\delta}{2}-\delta\vert y\vert
\ ...
...1}\,\hat{\phi}_{3,2}\left(
\frac{\delta-1}{2a'+\delta}\,y\right)\end{eqnarray*}
となり、これは、 $z=\phi_{3,2}(y)$ のグラフが、 $z=\hat{\phi}_{3,2}(y)$ のグラフを $y$ 方向、$z$ 方向に $(2a'+\delta)/(\delta-1)=(2a+\delta-1)/(\delta-1)$ 倍したもの であることを意味する。

ただし、 $z=\hat{\phi}_{3,2}(y)$ のグラフは $\delta$ 毎に形がかなり 異なり、それを決定することは容易ではなさそうである。

さて、(a) の場合は、

  $\displaystyle
G(\phi_3^k(u))=G(u)\hspace{1zw}(0\leq u\leq 1)$ (32)
ならば、 $\phi_3^{kn}(u)\rightarrow \alpha$ (定数) なので、
$\displaystyle G(u)=G(\phi_3^{kn}(u))\rightarrow G(\alpha)
$
より $G$ は定数となる。

(b) で $a>0$ の場合は、

となることが言える。それを以下に示そう。 まず、(32) を平行移動した $\phi _{3,2}(y)$ に帰着すると、 $G\circ\xi^{-1}=\hat{G}$ とすれば
  $\displaystyle
\hat{G}(\phi_{3,2}^k(y))=\hat{G}(y)\hspace{1zw}\left(\vert y\vert\leq\frac{1}{2}\right)$ (33)
となる。

$k$ が偶数の場合、(33) が成り立つときは

$\displaystyle \hat{G}(y)=\hat{G}(\phi_{3,2}^{kn}(y))
$
が成り立つが、$n$ が大きければ $\vert y\vert\leq 1/2$ では
$\displaystyle \phi_{3,2}^{kn}(y) = a p_0\left(\frac{y}{a}\right)
$
となるので、
  $\displaystyle
\hat{G}(y) = \hat{G}\left(ap_0\left(\frac{y}{a}\right)\right)$ (34)
が成り立つことになる。一方、
$\displaystyle \phi_{3,2}^2(y) = \left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle a p_0\l...
...vert\leq 2a)\\ [1zh]
2a-\vert y\vert & (\vert y\vert\geq 2a)\end{array}\right.$
なので、 $\hat{G}(y)=\hat{G}(\phi_{3,2}^2(y))$ が成り立つためには、 $\vert y\vert\geq 2a$ $\hat{G}(2a-\vert y\vert)=\hat{G}(y)$ となることを示せばよい。 (34) より、
$\displaystyle \hat{G}(2a-\vert y\vert)
=\hat{G}\left(ap_0\left(\frac{2a-\vert y...
...right)\right)
=\hat{G}\left(ap_0\left(2-\,\frac{\vert y\vert}{a}\right)\right)
$
となるが、$p_0$ は周期 2 の偶関数なので、
$\displaystyle p_0\left(2-\,\frac{\vert y\vert}{a}\right)
=p_0\left(-\,\frac{\vert y\vert}{a}\right)
=p_0\left(\frac{y}{a}\right)
$
となり、よって (34) より
$\displaystyle \hat{G}(2a-\vert y\vert)
=\hat{G}\left(ap_0\left(\frac{y}{a}\right)\right)
=\hat{G}(y)
$
となり、よって $\hat{G}(\phi_{3,2}^2(y))=\hat{G}(y)$ となる。

$k$ が奇数の場合は、(33) より、

$\displaystyle \hat{G}(y)=\hat{G}(\phi_{3,2}^{kn}(y))
$
で、$n$ が大きければ $n$ が偶数なら $kn$ は偶数、 $n$ が奇数ならば $kn$ は奇数なので、
  $\displaystyle
\hat{G}(y)
=\hat{G}\left(a\left(1-p_0\left(\frac{y}{a}\right)\right)\right)
=\hat{G}\left(ap_0\left(\frac{y}{a}\right)\right)$ (35)
が成り立つ。
$\displaystyle \phi_{3,2}(y) = \left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle a\left(1-...
... y\vert\leq a)\\ [1zh]
a-\vert y\vert & (\vert y\vert\geq a)\end{array}\right.$
なので、 $\hat{G}(y)=\hat{G}(\phi_{3,2}(y))$ が成り立つためには、 $\vert y\vert\geq a$ $\hat{G}(a-\vert y\vert)=\hat{G}(y)$ となればよい。 まず、半波ずらした $p_0(x)$ に対し
$\displaystyle p_0(x-1)=1-p_0(x)
$
が成り立つことに注意する。(35) より、
\begin{eqnarray*}\hat{G}(a-\vert y\vert)
&=&
\hat{G}\left(ap_0\left(\frac{a-\v...
...ft(1-p_0\left(\frac{y}{a}\right)\right)\right)
\ =\
\hat{G}(y)\end{eqnarray*}
となり、これで $\hat{G}(y)=\hat{G}(\phi_{3,2}(y))$ が示されたことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2024-03-25