9 x→1−0 の評価の精密化

最後に、 $H_{-}(1-\varepsilon ;\alpha,\beta,-\beta-n)$ $\varepsilon \rightarrow +0$ の 評価の精密化を行う。 これは、実は $H_{+}$ の展開式 (54) に近い形になる。

この場合も、(41) により、

  $\displaystyle
H_{-}(1-\varepsilon ;\alpha,\beta,-\beta-n)
=\left\{\begin{arra...
...lon ^{-n}(\mathop{\mathit{B}}(\gamma+1,n)+o(1)) & (n\geq 1)
\end{array}\right.$ (55)
は得られていたが、$n=0$ のときは、 反転公式 (18) と (43) により、 $\gamma=-\beta>-1$ のときは
$\displaystyle {
H_{-}(1-\varepsilon ;\alpha,\beta,-\beta)
=
(1-\varepsilon )^{\...
..._{+}
\left(1+\frac{\varepsilon }{1-\varepsilon };\alpha,1-\beta,\beta-1\right)}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle (1-\varepsilon )^{\alpha-1}\left(-\log\frac{\varepsilon }{1-\varepsilon }+ M(\alpha)
+M(1-\beta) +o(1)\right)$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle -\log\varepsilon +M(\alpha)+M(1-\beta)+o(1)$(56)
が得られる。これが $\gamma<-1$ でも成立すること、 および $n=-\beta-\gamma\geq 1$ の場合の展開式
  $\displaystyle
H_{-}(1-\varepsilon ;\alpha,\beta,-\beta-n)
= \sum_{j=1}^n\frac{A^{-}_j}{\varepsilon ^j}+B^{-}\log\varepsilon + A^{-}_0 + o(1)$ (57)
$\gamma>-1$ で得て、かつそれが $\gamma<-1$ の場合にも 成立することを示すことが本節の目標である。 先に $\gamma>-1$ の (57) を考え、 そのあとで $\gamma<-1$ に対する (56) と (57) を考えることにする。

なお、(57) を求めるには、 上の (56) と同じように 反転公式 (18) と (54) を 用いる方法もあるが、 実はそれだと $\gamma>-1$ の場合でも簡単には式が得られない。 それは、 $\gamma=-\beta-n>-1$ ($\beta<1-n$) のとき、 反転公式 (18) と (44) を 用いて書き表してみると、

$\displaystyle {H_{-}(1-\varepsilon ;\alpha,\beta,-\beta-n)
=
(1-\varepsilon )^{...
...+}
\left(1+\frac{\varepsilon }{1-\varepsilon };\alpha,1-\beta-n,\beta-1\right)}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle (1-\varepsilon )^{\alpha-1}
\left(\sum_{j=1}^n\frac{A^{+}_j(1-\va...
...silon ^j}
+B^{+}\log\frac{\varepsilon }{1-\varepsilon } + A^{-}_0 + o(1)\right)$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{j=1}^n\frac{A^{+}_j(1-\varepsilon )^{\alpha+j-1}}{\varepsilon ^j}
+B^{+}\log\varepsilon + A^{-}_0 + o(1)$(58)
となるが、問題は $(1-\varepsilon )^{\alpha+j-1}$ が残る和の部分で、
$\displaystyle \frac{(1-\varepsilon )^{\alpha+j-1}}{\varepsilon ^j}
=\frac{1}{\v...
...y}{c}
\!\!\alpha+j-1\!\! \\ \!\!k\!\! \end{array}\right)\varepsilon ^{k}+o(1)
$
より
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\sum_{j=1}^n\frac{A^{+}_j(1-\varepsilon )^{\alpha+j-1}...
... \!\!\alpha+j-1\!\! \\ \!\!j\!\! \end{array}\right)A^{+}_j
+o(1)\end{eqnarray*}
となり、 $1/\varepsilon ^i$ の係数が $A^{+}_j$ と二項係数の積の和になって、 それを求めるのが容易でないからである。 もちろん、最終形を予想した上で帰納法を用いる手段もあるが、 むしろ積分に戻って、$H_{+}$ と同様の計算により導く方が早いので、 ここではその方針で考える。

$\beta+\gamma=-n\leq -1$, $\gamma=-n-\beta>-1$ とする。 この場合、$H_{-}$ は、

  $\displaystyle
H_{-}(1-\varepsilon ;\alpha,\beta,-\beta-n)
=\int_{\varepsilon }^1(1-t)^{\alpha-1}t^{\beta-1}(t-\varepsilon )^{-\beta-n}dt$ (59)
となるが、これを (46) 同様に $J(t)$ を用いて 2 つに分ける。
$\displaystyle {H_{-}(1-\varepsilon ;\alpha,\beta,-\beta-n)}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle \int_{\varepsilon }^1J(t)t^{\beta-1}(t-\varepsilon )^{-\beta-n}dt...
...d{array}\right)\int_{\varepsilon }^1t^{\beta+k-1}
(t-\varepsilon )^{-\beta-n}dt$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle I_8 + I_9$(60)
$I_9$ の積分のうち、$k\leq n-1$ のものについては、 $t\rightarrow\infty$ で可積分なので、
$\displaystyle \int_{\varepsilon }^1t^{\beta+k-1}(t-\varepsilon )^{-\beta-n}dt
=\int_{\varepsilon }^\infty - \int_1^\infty
=I_{9,k,1}-I_{9,k,2}
$
に分け、$I_{9,k,1}$ $t=\varepsilon /s$ と置換すると、
$\displaystyle I_{9,k,1}
= \varepsilon ^{k-n}\int_0^1s^{n-k-1}(1-s)^{-\beta-n}ds
= \frac{\mathop{\mathit{B}}(n-k,1-\beta-n)}{\varepsilon ^{n-k}}
$
となるが、
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\mathop{\mathit{B}}(n-k,1-\beta-n)
=
\frac{\mathop{\...
...n{array}{c}
\!\!\beta+n-1\!\! \\ \!\!n-k\!\! \end{array}\right)}\end{eqnarray*}
より
$\displaystyle I_{9,k,1} = \frac{1}{(n-k)\left(\begin{array}{c}
\!\!\beta+n-1\!\! \\ \!\!n-k\!\! \end{array}\right)}\,\frac{1}{(-\varepsilon )^{n-k}}
$
となる。また、$I_{9,k,2}$ は、ルベーグ収束定理により
$\displaystyle I_{9,k,2}
=\int_1^{\infty}t^{\beta+k-1}(t-\varepsilon )^{-\beta-n}dt
=\int_1^{\infty}t^{k-n-1}dt+o(1)
=\frac{1}{n-k}+o(1)
$
となる。

$k=n$ に対しては、 $t=\varepsilon /s$ と置換すると、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\int_{\varepsilon }^1t^{\beta+n-1}(t-\varepsilon )^{-\...
...ilon + o(1)
\hspace{1zw}(=\ M(\gamma+1) -\log\varepsilon + o(1))\end{eqnarray*}
となる。

また、$I_8$ については、 $0\leq t\leq 1/2$ では $J(t)=O(t^{n+1})$ なので、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{I_8
\ =\
\left(\int_\varepsilon ^{1/2} + \int_{1/2}...
...-n}ds
+ \int_{1/2}^1J(t)t^{\beta-1}(t-\varepsilon )^{-\beta-n}dt\end{eqnarray*}
と分けると、前者においては、
$\displaystyle \vert J(s+\varepsilon )(s+\varepsilon )^{\beta-1}\vert
\leq C_1(s...
...l}
C_2 & (0\leq n+\beta<1)\\
C_1 s^{n+\beta} & (n+\beta<0)\end{array}\right.$
なので、$-\beta-n>-1$ よりルベーグ収束定理が使えて、
$\displaystyle \int_0^{1/2}J(s)s^{-1-n}ds = \int_0^{1/2}\frac{J(s)}{s^{n+1}}\,ds
$
に収束し、後者はそのままルベーグ収束定理が使えて、 同じ関数の $[1/2,1]$ での積分に収束する。よって、
$\displaystyle I_8 = \int_0^1\frac{J(t)}{t^{n+1}}\,dt + o(1)
$
となる。 この積分は (48) の $I_7(n,\alpha)$ に等しいので、 補題 4 の 4. により
$\displaystyle I_8 = (-1)^n\left(\begin{array}{c}
\!\!\alpha-1\!\! \\ \!\!n\!\! \end{array}\right)(M(\alpha)-M(n+1)) + o(1)
$
となる。 結局、(60) は、$\gamma>-1$ に対して、 補題 5 より、
$\displaystyle {H_{-}(1-\varepsilon ;\alpha,\beta,-\beta-n)}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{k=0}^n(-1)^k\left(\begin{array}{c}
\!\!\alpha-1\!\! \\  \!\...
...k\!\! \end{array}\right)}
\frac{1}{(-\varepsilon )^{n-k}}-\frac{1}{n-k}\right\}$ 
    $\displaystyle +(-1)^n\left(\begin{array}{c}
\!\!\alpha-1\!\! \\  \!\!n\!\! \end{array}\right)(M(1-\beta-n)-\log\varepsilon )$ 
    $\displaystyle +(-1)^n\left(\begin{array}{c}
\!\!\alpha-1\!\! \\  \!\!n\!\! \end{array}\right)(M(\alpha)-M(n+1))+o(1)$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{j=1}^n\frac{(-1)^{n-j}}{j}\frac{\displaystyle \left(\begin{...
...egin{array}{c}
\!\!\alpha-1\!\! \\  \!\!n\!\! \end{array}\right)\log\varepsilon$ 
    $\displaystyle +(-1)^n\left(\begin{array}{c}
\!\!\alpha-1\!\! \\  \!\!n\!\! \end{array}\right)(M(\alpha-n)+M(1-\beta-n)-M(n+1))
+ o(1)$(61)
    $\displaystyle (\alpha>0,\ -\beta-n>-1,\ n\geq 0,\ \alpha,\beta\not\in\mbox{\boldmath$Z$}, n\in\mbox{\boldmath$Z$})$ 
となることがわかる。 なおこれは、$n=0$ の (56) も含んでいる。

この $H_{-}$ の展開式 (61) と $H_{+}$ の展開式 (54) を比較すると、 $\varepsilon $ の負の巾の項が $-\varepsilon $ になっていることと、 定数項の部分の $M(\beta+n)$$M(1-\beta-n)$ になっている ところが違うだけで、他は全く同じ形になっていることがわかる。

次は、この (61) が $H_{-}$$\gamma<-1$ への拡張に対しても成り立つことを示す。 以後、(61) の係数を、 (57) のように

$\displaystyle {H_{-}(1-\varepsilon ;\alpha,\beta,-\beta-n)}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{j=1}^n\frac{A^{-}_j(\alpha,\beta,n)}{\varepsilon ^j}
+B^{-}(\alpha,\beta,n)\log\varepsilon + A^{-}_0(\alpha,\beta,n)
+o(1)$(62)
と書くことにする。

まずは $n=0$ の場合、すなわち (56) が $\gamma=-\beta<-1$、すなわち $\beta>1$ でも成立することを示す。 それには、(10) のリフティングと、 (41) の $\beta+\gamma>0$ の評価を用いて、 $m=-[\gamma]$ に関する帰納法により証明すればよい。

$\gamma>-1$、すなわち $m\leq 1$ では (56) が 成り立っているので、$m\geq 2$ に対して (56) を 示せばよい。 今、$-[\gamma]=m-1$ までは (56) が 成り立つとする。 $-[\gamma]=m$ に対しては、(10) を用いて $\gamma$ を一つ大きいもので表すと、

$\displaystyle {H_{-}(1-\varepsilon ;\alpha,\beta,-\beta)
\ =\
\frac{1}{1-\vare...
...alpha+\gamma+1}{\gamma+1}
\,H_{-}(1-\varepsilon ;\alpha,\beta,1-\beta)
\right.}$
    $\displaystyle \left.
-\,\frac{\beta-1}{\gamma+1}
\,H_{-}(1-\varepsilon ;\alpha+1,\beta-1,1-\beta)\right\}$(63)
となるが、右辺の前者は (41) より
$\displaystyle H_{-}(1-\varepsilon ;\alpha,\beta,1-\beta)
=B(\alpha,1)+o(1)
=\fr...
...mma}}(\alpha)}{\mathop{\mathit{\Gamma}}(\alpha+1)}+o(1)
=\frac{1}{\alpha}+o(1)
$
であり、後者は帰納法の仮定により
$\displaystyle H_{-}(1-\varepsilon ;\alpha+1,\beta-1,1-\beta)
=-\log\varepsilon +M(\alpha+1)+M(2-\beta)+o(1)
$
が成り立つ。よって、(63) は
$\displaystyle {H_{-}(1-\varepsilon ;\alpha,\beta,-\beta)
\ =\
\frac{1}{1-\varepsilon }\left\{\frac{\alpha-\beta+1}{-\beta+1}
\,\frac{1}{\alpha}
\right.}$
    $\displaystyle \left.
-\,\frac{\beta-1}{-\beta+1}
(-\log\varepsilon +M(\alpha+1)+M(2-\beta))+o(1)\right\}$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{1-\varepsilon }\left\{
-\log\varepsilon +M(\alpha+1)+M(2-\beta))
+\frac{1}{1-\beta}+\frac{1}{\alpha}+o(1)\right\}$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle -\log\varepsilon +M(\alpha+1)+M(2-\beta))
+\frac{1}{1-\beta}+\frac{1}{\alpha}+o(1)$(64)
となるが、補題 4 の 1. により確かに これは (56) に一致することがわかる。

これで、帰納法により (56) が すべての $\gamma\not\in\mbox{\boldmath$Z$}$ に対して成り立つことがわかる。

なお、この $n=0$ に対する証明を振り返ると、 $m$ は実質的には使っておらず、(63) の 「$m$ によらない」リフティングの式に、 「$m$ によらない」(41) の評価式と、 (56) の $\alpha$$+1$$\beta$$-1$ した式を代入して整理するだけの計算を行っている。

(56) は $m\leq 1$ では 成立することがわかっているが、上の計算が「$m$ によらない」ので、 それに対しても同じ計算を行うことができて、 そして当然すでに成り立つことがわかっている結果が得られる。 だから、前の $H_{\pm }$ に対する性質 [i]$\sim$[v] に対する証明と同じように、 $m\leq 1$ で「$m$ によらない計算」で成り立つことがわかることによって、 $m\geq 2$ でも同じ計算によって成立することがわかることになる。

これは、$n\geq 1$ の場合の (62) でも同じ構造であり、 よって、それがすでに $\gamma>-1$ ($m\leq 1$) で成り立つこと が示されていることによって、 $\gamma<-1$ でも成り立つことが自然に示されることになるので、 これで (62) がすべての $n\geq 1$, $\gamma\not\in\mbox{\boldmath$Z$}$ で成り立つことが言えることになる。

なお、もちろん、帰納法で $n\geq 1$ の場合の (62) を直接証明することも可能であり、 具体的には、$A^{-}_j$, $B^{-}_j$ に対して、

$\displaystyle {A^{-}_j(\alpha,\beta,n) - A^{-}_{j+1}(\alpha,\beta,n)
\ =\
\frac{\alpha+\gamma+1}{\gamma+1}\,A^{-}_j(\alpha,\beta,n-1)}$
    $\displaystyle -\,\frac{\beta-1}{\gamma+1}\,A^{-}_j(\alpha+1,\beta-1,n)
\hspace{1zw}(j=0,1,\ldots,n)$(65)
      
$\displaystyle {B^{-}(\alpha,\beta,n)
\ =\
\frac{\alpha+\gamma+1}{\gamma+1}\,B^{-}(\alpha,\beta,n-1)
-\,\frac{\beta-1}{\gamma+1}\,B^{-}(\alpha+1,\beta-1,n)}$
が成り立つことを示すことで証明できる。 ここで、(65) の左辺が差になっているのは、 リフティング (63) の右辺の $1/(1-\varepsilon )$ の ためであり、この右辺をそのまま評価すると右辺の $1/\varepsilon ^j$ の係数は、 (58) と同様の計算により いくつかの項の和になってしまうが、 逆に $1/(1-\varepsilon )$ を (63) の左辺に回して $(1-\varepsilon )$ 倍に変えてやると、 左辺の $1/\varepsilon ^j$ の同類項を 2 つの項だけの差にでき、 それが (65) の左辺である。 そしてそれにより証明を多少簡略化できる。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-01-19