6.5 !(T2) の解消

本節では、(T1) である !(T2)、 すなわち $t=\tau$ で 2 つずつの front の、複数の衝突の !(T2) の状態を 解消する。 当然、それらの衝突位置 $x=x_j$ ($j=1,\ldots,m$) の間に 別の衝突のない front が挟まる場合もありうる。 今、$t=\tau$ でのすべての front の位置を $\{y_k\}$ とする。 また、$\{x_j\}$ は左から順に並べた衝突位置であるとする。

$\displaystyle \{x_j\}\subset\{y_k\},
\hspace{1zw}x_1<x_2<x_3<\ldots <x_m
\hspace{1zw}(m\geq 2)
$

この $j\geq 2$ に対する各衝突点 $x=x_j$ で、右の方の front の速度を わずかに上げることで衝突時刻を少し遅らせ、 それぞれ $(t,x)=(\tau+\Delta\tau_j,x'_j)$ で 衝突するようにする。ここで、$\Delta\tau_j$ は、
  $\displaystyle
0<\Delta\tau_2<\Delta\tau_3<\ldots <\Delta\tau_m<\frac{\mu}{3\Lambda}$ (103)
となるようにする (図6)。
図 6: !(T2) の解消
\includegraphics[height=0.2\textheight]{fig_bressan_t2}
ここで、$\mu$ は、$y_k$ 同士の間隔の最も狭い幅とし、 右の front の変更位置も、 その右隣の front との間隔は $2\mu/3$ より大であるとする。 これも右、すなわち $x_m$ の方から順に左に行っていけばよい。

$\{x_j\}$ 以外の front は、その速度の絶対値は $\Lambda$ 以下なので、 隣の front との間隔が $2\mu/3$ より大であれば

$\displaystyle t=\tau+\frac{1}{2\Lambda}\times\frac{2\mu}{3} = \tau+\frac{\mu}{3\Lambda}
$

までの間に ($\{x_k\}$ に関係する front を含め) 他の front と衝突することはない。

つまり、上の作業によりできる新たな 衝突点 $(t,x)=(\tau+\Delta\tau_j,x'_j)$ ($j=2,\ldots,m$) は、 この順で $(t,x)=(\tau,x_1)$ に続く衝突点で、 この間に他の front の衝突時刻が入りこんでくることはない。

これで、 $\tau\leq t\leq \tau+\Delta\tau_m$ の間で他の front とも ぶつからないように !(T2) を解消できたことになる。 そして、これらの操作では、今回速度を変更した front はすべて $\tau\leq t\leq \tau+\Delta\tau_m$ の間で他の front と衝突し、 そこから新たな、速度変更を行う前の front が発生するので、 速度変更はこの $t=\tau+\Delta\tau_m$ までで終わっている。 よって $t=\tau+\Delta\tau_m$ からその次の衝突までの front は すべて速度変更を行う前の front であり、 当然 !(T4) は起こらない。 これで、$t=\tau$ から $t=\tau+\Delta\tau_m$ (の次の衝突時刻の手前) までは !(T4) が起こらないように !(T2) が解消できたことになる。

あとは 6.4 節、6.5 節 の操作を衝突時刻で !(T1), !(T2) が起こる度に行えばよい。 前節の解消と本節の解消を繰り返していけばよい。 その作業が高々有限で終わることは、a priori に保証されていたので、 これにより近似解がすべての $t>0$ に対して大域的に作られることになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-06-03