6.4 !(T1) の !(T2) への還元

本節では、!(T1) を !(T2) に還元することで解消することを示す。

まず、速度の変更は本稿では「右から」そして「速度を増やす」方向で 考えることにする。その理由を以下に説明する。

ある衝突時刻 $t=\tau$ で、 それに関係するいくつかの front の速度を変更して、 その衝突時刻をずらす場合、その時刻が小さくなるように ずらしてしまうと、現時点からそこに戻らないといけないので、 先の方に近似解を延長できる保証を与えるのが難しいので、 当然ずらす場合は衝突時刻を今より後の方にずらす方がよい。

そして衝突時刻を後の方にずらすためには、左の front の速度を遅くするか、 または右の front の速度を速くするかの いずれかである (図 3)。

図 3: 衝突時刻を遅らせる
\includegraphics[height=0.2\textheight]{fig_bressan_loose}

しかし、左の front は非物理 front である可能性もあり、 (T3) からそれは変更できないので、 その場合はそれより右の速度を上げざるを得なくなる。 衝突の際の右の front が非物理 front であることはないので、 よって、最初から右の front の速度を上げる、 という方向で考えればよい。

さて、!(T1) がある衝突点 $(t,x)=(\tau,x_1)$ で起きている場合、 それは、そこで衝突している $m$ 個の front ($m\geq 3$) を 右の方から 2 つずつを組にして、少しずつ速度を上げることで、

ことができる (図 4) ことを示そう。
図 4: !(T1) から !(T2) への変換
\includegraphics[height=0.2\textheight]{fig_bressan_t1tot2}

front の総数は有限なので、 まず、$m$ 個の front のうち一番右のものの速度を少し上げて、 それが $(\lambda_{i,m},\lambda_{i,M})$ の範囲で、 かつ定義 7.1 の条件を満たし、 かつ他の front とは $t\leq\tau$ では新たにぶつからないように できることは明らかである。 その $t=\tau$ での位置を $x=x_2$ とする ($x_1<x_2$)。 なお、この front は $t=\tau$ では $x=x_1$ から $x=x_2$ までは 速度を変更することができる。

次に、$m$ 個の右から 2 番目の front の速度を 同様の条件を満たしながら上げるが、 それが 1 つ目の front と $(t,x)=(\tau,x_2)$ で 衝突するところまで上げられることは保証できない。 それは、 $(\lambda_{i,m},\lambda_{i,M})$ の範囲の条件や 定義 7.1 の条件を越える可能性もあるし、 または $t\leq\tau$ で他の front と衝突する可能性もあるからである。

しかし条件内で右から 2 つ目の front の速度を少しだけ 上げることは可能なので、その $t=\tau$ での場所を $x=x_3$ とする。 このとき、 $x_1<x_3\leq x_2$ であり、 よって最初の front を $x=x_3$ まで戻せば、 丁度 $(t,x)=(\tau,x_3)$ でこの 2 つの front が衝突する。 このようにして、一番右の 2 つの front を条件を満たしながら 少しだけ速度を上げて $m$ 個の front から分離できることが わかる (図 5)。

図 5: 右の 2 つの移動
\includegraphics[height=0.2\textheight]{fig_bressan_t1tot2_2}

後は帰納的にこれを行えば、 最終的には !(T1) が $[m/2]$ 個の !(T2) の状態に還元されることになる。 この操作では、膨張 front や接触不連続 front も速度を変更する 可能性はあるが、 他の front との衝突を新たに作ってはいないので、 操作前の !(T1) の状態で !(T4) が起きていなければ、 それを上のように分解した !(T2) にも !(T4) は起きていないはずである。

よってあとは、(T1) である !(T2) が解消できればよい。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-06-03