7 B(1)n の 特異性の回避と Tartar 方程式

5 節では $B^{(0)}_n$ の有界性とその極限、 6 節では $B^{(1)}_n$ の有界性とその極限を求めたが、 実は $B^{(1)}_n$ の方は $\tau<1$ の場合には $w=a,z=a$ で 特異性を持つので、このままでは $\nu$ での積分ができない。 すなわち、$w,z$$a$ の近くで $\eta^{(1)}$ は有界では ないので、 $\langle\eta^{(1)}\rangle =\langle\nu,\eta^{(1)}\rangle $ が 有限であるという保証がない。

本節ではそれを回避するために、命題 5 の評価に もとづいて、$\nu$ よりも先に $a$ での積分を行うような式が 得られかどうかを考察する。

まず、$\eta^{(1)}$ を生成するための極限に戻して考える。 $\phi_0\in\mathcal{S}$ $\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\phi_0(t)dt = 1$ と なるものを一つ取り、

$\displaystyle \phi_m(s) = m\phi_0(m(s-a))\hspace{1zw}(m\in \mbox{\boldmath$N$})
$
とし、
  $\displaystyle
\left\{\begin{array}{ll}
\eta^{(1)}_m &= \displaystyle \int_z^w...
... -\theta\int_z^w(w-s)^{\tau+1}(s-z)^{\tau}
(-\phi_m'(s))ds
\end{array}\right.$ (81)
とする。当然これらは滑らかで、 $m\rightarrow\infty$ のときに $a=w$, $a=z$ を除いて $\eta^{(1)}_m\rightarrow\eta^{(1)}$, $\sigma^{(1)}_m\rightarrow\sigma^{(1)}$ となる。 $\eta_n$, $\sigma_n$ は、(57) で 考えれば $a,w,z$ に関して滑らかで、 $\eta^{(0)}$, $\sigma^{(0)}$ も連続であり、 よって $m$ の極限を取る前の段階では、当然
  $\displaystyle
\left\{\begin{array}{ll}
B^{(1)}_{n,m} &= \eta^{(1)}_m\sigma_n-...
...0,1,m} &= \eta^{(0)}\sigma^{(1)}_m-\eta^{(1)}_m\sigma^{(0)}
\end{array}\right.$ (82)
は滑らかなので、問題なく $\nu$ で積分ができ、 Darboux エントロピーに対して Tartar 方程式が成り立てば、 前の考察 [3] と同様にして、
  $\displaystyle
\langle B_{0,1,m}\rangle \langle B_n\rangle
=\langle B^{(0)}_n...
...1)}_{n,m}\rangle
-\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle \langle B^{(1)}_{n,m}\rangle $ (83)
も成り立つ。

(83) の両辺を $a$ で積分し Fubini の定理を用いると、

  $\displaystyle
\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\langle B_{0,1,m}\rangle \l...
...1)}_{n,m}
-\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle B^{(1)}_{n,m}\right\}da\right\rangle $ (84)
と変形できる。 この式で $m\rightarrow\infty$ の極限を取ることで
  $\displaystyle
\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}h(a)\langle B_n\rangle da
...
...}^{(1)}_{n}
-\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle B^{(1)}_{n}\right\}da\right\rangle $ (85)
の式を得ることができるかどうか、 そしてさらにこの式の右辺の $n\rightarrow\infty$ の極限を 考察するのが本節の目標である。 それには次の順で検討していく。

まずは (B1) から考える。$B_{0,1,m}$ は、

\begin{eqnarray*}B_{0,1,m}
&=&
\eta^{(0)}(\sigma^{(1)}_m+\theta(w-a)\eta^{(1)}...
...&=&
\theta\eta^{(0)}(a)\int_z^w\eta^{(0)}(s)(-(s-a)\phi_m'(s))ds\end{eqnarray*}
であるが、
$\displaystyle -(s-a)\phi_m'(s)
= -(s-a)m^2\phi_0'(m(s-a))
= m\tilde{\phi}_0(m(s-a))
$
となるので、これを $\tilde{\phi}_m(s)$ と書けば
$\displaystyle \int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\tilde{\phi}_m(s)ds
=\int_{\...
...$}}\tilde{\phi}_0(t)dt
= \int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\phi_0(t)dt
= 1
$
となり、$B_{0,1,m}$
  $\displaystyle
B_{0,1,m}
= \theta\eta^{(0)}(a)\int_z^w\eta^{(0)}(s)\tilde{\phi}_m(s)ds$ (86)
となる。$\eta^{(0)}(s)$ は有界なので、
$\displaystyle \vert B_{0,1,m}\vert
\leq
\theta\eta^{(0)}(a)\Vert\eta^{(0)}\Ver...
...a\eta^{(0)}(a)\Vert\eta^{(0)}\Vert _{L^\infty}
\Vert\tilde{\phi}_0\Vert _{L^1}
$
となり、よって $w,z\in [z_1,w_1]$$B_{0,1,m}$$m$ に 関して一様有界で、
$\displaystyle B_{0,1,m}
= \theta\eta^{(0)}(a)\int_{Z_m}^{W_m}
\eta^{(0)}\left(a+\frac{t}{m}\right)
\tilde{\phi}_0(t)dt
$
と置換すると、$\eta^{(0)}(s)$ は有界でかつ連続であり、 $\eta^{(0)}(a)$ 倍があるので $z<a<w$ と考えてよく (その他の場合は 0)、 そのとき $m\rightarrow\infty$ に対して $Z_m\rightarrow -\infty$, $W_m\rightarrow\infty$ となるので Lebesgue 収束定理より、
$\displaystyle B_{0,1,m}
\rightarrow
\theta\eta^{(0)}(a)\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\eta^{(0)}(a)\tilde{\phi}_0(t)dt
=\theta\eta^{(0)}(a)^2
$
となり、$B_{0,1,m}$ の有界性から再び Lebesgue 収束定理より
  $\displaystyle
\langle B_{0,1,m}\rangle
\rightarrow
\theta\langle\eta^{(0)}(a)^2\rangle = h(a)$ (87)
となることがわかる。

そして、(86) より $B_{0,1,m}$ には $\eta^{(0)}(a)$ 倍が含まれるため、$(w,z)$$\nu$ の台に 含まれるとき、$a<z_1$, $a>w_1$$a$ に対しては $B_{0,1,m}=0$ となり、よって、 $\langle B_{0,1,m}\rangle $$a$ の 関数として $a<z_1$, $a>w_1$ では 0 となる。

また、$n$ を固定すれば、 (57) より $B_n$ $(w,z)\in\Sigma(w_1,z_1)$ に対して有界で、 よって (87) と Lebesgue 収束定理により、

$\displaystyle \int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\langle B_{0,1,m}\rangle \la...
... da
\rightarrow \int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}h(a)\langle B_n\rangle da
$
となり、よってこれで (B1) が示されたことになる。 なお、最後の極限は、Fubini の定理を用いると、
  $\displaystyle
\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}h(a)\langle B_n\rangle da
=\left\langle\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}h(a)B_nda\right\rangle $ (88)
と書くこともできる。

次は (B2)。 $n$ を固定していれば (57) より $\eta_n$, $\sigma_n$ $w,z\in [z_1,w_1]$, $a\in\mbox{\boldmath$R$}$ 上 有界でかつ連続となる。 $\eta^{(1)}_m$ は、部分積分により、

$\displaystyle \eta^{(1)}_m$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int_z^w\eta^{(0)}(s)(-\phi_m'(s))ds
\ =\
\int_z^w\{\eta^{(0)}(s)\}'\phi_m(s)ds$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle \tau\int_z^w\{-(w-s)^{\tau-1}(s-z)^\tau
+(w-s)^\tau(s-z)^{\tau-1}\}\phi_m(s)ds$(89)
となるので、
$\displaystyle {\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\vert\eta^{(1)}_m\vert da}$
  $\textstyle \leq$ $\displaystyle \tau\int_z^w\{(w-s)^{\tau-1}(s-z)^\tau
+(w-s)^\tau(s-z)^{\tau-1}\}ds
\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}m\vert\phi_0(m(s-a))\vert da$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle 2\tau(w-z)^{2\tau}\mathop{\mathit{B}}(\tau+1,\tau)\Vert\phi_0\Vert _{L^1}$(90)
より $\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\vert\eta^{(1)}_m\vert da$ $w,z\in [z_1,w_1]$$m$ に関して一様有界となる。よって、
$\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\vert\eta^{(1)}_m\sigma_n\vert da$ も、$n$ を固定していれば、同じく $m$ に関して一様有界となる。 同様に、 $\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\vert\eta_n\sigma^{(1)}_m\vert da$$m$ に関する一様有界性も容易に示され、これで
$\displaystyle \int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\vert B^{(1)}_{n,m}\vert da
...
...scriptsize\boldmath$R$}}\vert\eta_n\sigma^{(1)}_m-\eta^{(1)}_m\sigma_n\vert da
$
$w,z\in [z_1,w_1]$$m$ に関して一様有界であること、 すなわち (B2) が示されたことになる。

そして、命題 4 より、 $\hat{B}^{(0)}_n$$n$ を 固定しなくても $w,z\in [z_1,w_1]$, $a\in\mbox{\boldmath$R$}$ 上 ($n$ に関して一様に) 有界だから、 $\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle $$a$ に関して有界となり、 よってこの (B2) により

$\displaystyle \int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\left\vert\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle B^{(1)}_{n,m}\right\vert da
$
$w,z\in [z_1,w_1]$, $a\in\mbox{\boldmath$R$}$$m$ に関して一様有界となる。

次は (B3)。まずは

  $\displaystyle
\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\langle\hat{B}^{(0)}_n\rang...
...}}\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle
(\eta^{(1)}_m\sigma_n-\eta_n\sigma^{(1)}_m)da$ (91)
の前半の方を考えると、
$\displaystyle {\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\langle\hat{B}^{(0)}_n\rang...
...\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle \sigma_n da
\int_z^w\eta^{(0)}(s)(-\phi_m'(s))ds}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle \int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle \sigma_n da
\int_z^w\eta^{(1)}(s)\phi_m(s)ds$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle \int_z^w\eta^{(1)}(s)ds\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle (a)\sigma_n(a)
m\phi_0(m(s-a))da$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle \int_z^w\eta^{(1)}(s)ds\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}
\lan...
...rangle \left(s-\frac{t}{m}\right)
\sigma_n\left(s-\frac{t}{m}\right)\phi_0(t)dt$(92)
となるが、
$\displaystyle \eta^{(1)}(s)=\tau(w-s)^{\tau-1}(s-z)^{\tau-1}(w+z-2s)X_0(w,z;s)
$
$s$ に関して $L^1$ $\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle (a)$, $\sigma_n(a)$ は 固定した $n$ に対しては $a$ に関して連続でかつ有界となる。 $\phi_0$$L^1$ なので、 よって Lebesgure 収束定理が適用でき、 $m\rightarrow\infty$ のときに (92) は
\begin{eqnarray*}\int_z^w\eta^{(1)}(s)ds\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}
\...
...h$R$}}\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle (a)\eta^{(1)}(a)\sigma_n(a)da\end{eqnarray*}
に収束する。(91) の後半もほぼ同様にして
$\displaystyle \int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangl...
...ox{\scriptsize\boldmath$R$}}\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle \eta_n\sigma^{(1)}da
$
が示されるので、 以上により $m\rightarrow\infty$ のとき
  $\displaystyle
\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\langle\hat{B}^{(0)}_n\rang...
... \int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle B^{(1)}_nda$ (93)
となり、これで (B3) が示された。

なお、$0<\tau<1$ のときは 元々 $B^{(1)}_n$ には $a=w,a=z$ で特異性があるが、 (93) の極限の右辺は、$a$ での積分によりその特異性は 消えてしまうため、この式を $\nu$ で積分することができるようになり、 よってこの極限の $w,z$ に関する有界性さえ保証されれば (93) の右辺は $\nu$ に関して可積分となる

最後は (B4)。まずは $\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle B^{(1)}_nda$ $w,z\in [z_1,w_1]$ 上の $n$ に関する一様有界性とその極限 であるが、命題 4 より $\hat{B}^{(0)}_n$ $w,z\in [z_1,w_1]$, $a\in\mbox{\boldmath$R$}$$n$ に関して一様有界だから $\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle $ $a\in\mbox{\boldmath$R$}$$n$ に関して一様有界 となる。 また、 $\hat{B}^{(0)}_n$ の極限は命題 4 だったので、 Lebesgue 収束定理により、

  $\displaystyle
\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle
\rightarrow\langle J_0(w,z,a)\rangle \int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\hat{\psi}_0(t)dt$ (94)
となる。 一方 $B^{(1)}_n$ は命題 5 のように分けると、 $a$ に関する $L^1$ の部分の積分は、それぞれ
\begin{eqnarray*}\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\left\vert\frac{\eta^{(1)}...
...2-1}da
\\ &=&
(w-z)^{3\tau/2}\mathop{\mathit{B}}(\tau+1,\tau/2)\end{eqnarray*}
となり確かに $L^1$ で、その積分も $w,z\in [z_1,w_1]$ 上有界であ るから、 $\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\left\vert B^{(1)}_n\right\vert da$ $w,z\in [z_1,w_1]$$n$ に関して一様有界となる。そして
$\displaystyle \int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle B^{(1)}_n da
= \int_z^w\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle B^{(1)}_n da
$
$w,z\in [z_1,w_1]$$n$ に関して一様有界となることがわかる。 この極限は、命題 5, (94) と Lebesgue 収束定理により、
  $\displaystyle
\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\langle\hat{B}^{(0)}_n\rang...
...\boldmath$R$}}\psi_0(t)dt\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\hat{\psi}_0(t)dt$ (95)
となる。同様に、 $\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\langle B^{(0)}_n\rangle \hat{B}^{(1)}_n da$ の極限は、(95) の $\psi_0$$\hat{\psi}_0$ を入れ替えただけのものなので、 極限値は同じものとなる。よって、
  $\displaystyle
\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}\left\{
\langle B^{(0)}_n\rangle \hat{B}^{(1)}_n
-\langle\hat{B}^{(0)}_n\rangle B^{(1)}_n
\right\}da$ (96)
$w,z\in [z_1,w_1]$$n$ に関して一様有界で、 $n\rightarrow\infty$ のときに 0 に収束することが 示されたことになる。そして それにより (96) の $\nu$ での積分も可能で、 それも $n\rightarrow\infty$ のときに 0 に収束することになり、 これで (B4) が確定したことになる。

以上により、(84) の $m\rightarrow\infty$ の 極限により確かに (85) が得られること、 そして (85) の右辺が 0 となることがわかり、 (88) と合わせて次が得られたことになる。


命題 6

$\displaystyle \lim_{n\rightarrow\infty}\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}h(a...
...}\left\langle\int_{\mbox{\scriptsize\boldmath$R$}}h(a)B_nda\right\rangle
=0
$


竹野茂治@新潟工科大学
2023-04-03