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2 特性曲線

まず移流方程式
\begin{displaymath}
u_t+a u_x=0 \hspace{1zw}(a \mbox{ は定数})\end{displaymath} (7)

を解いて、その解が
\begin{displaymath}
u(t,x)=f(x-at)\end{displaymath} (8)

となることを示す。それには特性曲線を用いる。

まず、問題をもう少し明確にする。

この条件の元で、解 $u(t,x)$$f$ を使ってあらわすと (8) が得られることを示す。 なおこの問題は、初期値を与えて解を求める、という形であり、これは 初期値問題 (initial value problem)、あるいはこの問題を詳しく研究 した人にちなんで コーシー問題 (Cauchy problem) と呼ばれる。

今、$(t,x)$ 平面上に $x=at+x_0$ という直線を取る。

図 3: $x=at+x_0$
\includegraphics{image/char1.eps}

1 節で $u(t,x)$$x$ の関数とみて、$t$ の変化によるグラ フの移動という考察を行ったが、それと同様に考えてみる。 すなわち、この $(t,x)$ 平面上の直線 $x=at+x_0$$x$ 座標についてみれば、 これは各 $t$ に対し一つの $x$ の値、すなわち $x$ 軸上の一点を表していて、 それが $t$ の変化につれて動いているとみなすことができる。 すなわち、$x=at+x_0$$x$ 軸を動く点の座標を表していると考えられる。

図 4: 点の移動
\includegraphics{image/pntmove.eps}

そうすると、この点は時刻 $t=0$$x_0$ を出発し、

\begin{displaymath}
\frac{dx}{dt}=a
\end{displaymath}

により、速度 $a$ [cm/秒] で右に移動していることになる。

もし、解が (8) のようになるのだとすると、これは 1 節でみたように $f(x)$ のグラフを速度 $a$ [cm/秒] で右に 平行移動しているものだから、この点の上での $u(t,x)$ の値を調べると、平 行移動していくグラフを同じ速度で動く点で値を見ることになるから、時間の 変化に対して、その値は変化しないように見えるであろう。

逆に、速度 $a$ で移動するどの点でみても $u$ の値が変化していなければ、 それはグラフの形を変えずに速度 $a$ で平行移動しているものといえるだろ う。このようなやりかたで考えてみる。

この直線上の点での $u$ の値を $v(t)$ とおく。

\begin{displaymath}
v(t)=u(t,at+x_0)
\end{displaymath}

このとき、合成関数の偏微分法則により、
$\displaystyle \frac{d }{d t}v(t)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{d }{d t} u(t,at+x_0)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{\partial u}{\partial t}(t,at+x_0)\frac{d t}{d t}+\frac{\partial u}{\partial x}(t,at+x_0)\frac{d (at+x_0)}{d t}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle u_t(t,at+x_0)+a u_x(t,at+x_0)$ (10)

となる。$u(t,x)$ は方程式 (7) を満たす関数で、最後の式 はこの方程式の左辺に $x=at+x_0$ を代入した式に等しいから結局

\begin{displaymath}
\frac{d v(t)}{d t}=0
\end{displaymath}

となり、確かに $v(t)$ は定数であることがわかる。 これにより

\begin{displaymath}
v(t)=v(0)
\end{displaymath}

が成り立つので、これを $u$ に戻してみると (9) により

\begin{displaymath}
u(t,at+x_0)=u(0,x_0)=f(x_0)
\end{displaymath}

が成り立つことになる。この式はすべての $x_0$ について成り立つので、 $x=at+x_0$ とすると $x_0=x-at$ となり、これを代入して結局

\begin{displaymath}
u(t,x)=f(x-at)\end{displaymath}

が得られ、(8) が証明された。

上の議論の中で主要な役割を果たした直線 $x=at+x_0$ は、この方程式 (7) の 特性曲線 (characteristic curve) と呼ばれ る。より一般の定義は後で与える。

この $x_0$ を色々な値と取ることにより特性曲線は無数に作ることができる。 上の証明中でも、$x_0$ を任意の実数と取ることができる、という部分がある が、すべての実数を動かすと、その $x_0$ を出発点とする特性曲線の集まりは $(t,x)$ 平面上の、ある一つの方向に平行な直線の集まりとなり、これら全体は $(t,x)$ 平面の考えている領域全体を埋めつくす。

図 5: 特性曲線群
\includegraphics{image/char2.eps}

これにより、領域内の任意の点 $(t,x)$ に対して、これを通る特性曲線の出発点の 座標が $(0,x-at)$ とただ一つ求まり、$u$ の値は特性曲線の上で変わらないので

\begin{displaymath}
u(t,x)=u(0,x-at)=f(x-at)
\end{displaymath}

となったわけである。

つまり、上の議論の鍵となったのは

という性質であることに注意せよ。


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Shigeharu TAKENO
2001年 9月 21日