5 LF 差分の有界性

我々が目標とする、LF 差分の有界性とは以下のようなものである。


定理 2

CFL 条件
  $\displaystyle
\mu > \Lambda(w_0,z_0)
$ (21)
の元で、 $U_L,U_R\in\Sigma(w_0,z_0)$ ならば、 $LF(U_L, U_R)\in\Sigma(w_0,z_0)$, すなわち、
  $\displaystyle
w(LF(U_L, U_R)) \leq w_0,\hspace{1zw}z(LF(U_L, U_R)) \geq z_0
$ (22)
が成り立つ (この意味で、 $\Sigma (w_0,z_0)$ は、LF 差分に 対する 不変領域 と呼ばれる)。

なお、この定理 2 は、次の仮説 3 よりも やや条件が強いことに注意せよ。


仮説 3

CFL 条件 (12) ( $\mu>\Lambda_1(U_L,U_R)$) の元で、
  $\displaystyle
\left\{\begin{array}{l}
w(LF(U_L,U_R))\leq \max\{w(U_L), w(U_R)\},\\
z(LF(U_L,U_R))\geq \min\{z(U_L),z(U_R)\}
\end{array}\right. $ (23)
が成り立つ。
もし、仮説 3 が成り立てば、 定理 2 はそれにより示される。 それは、 $U_L,U_R\in\Sigma(w_0,z_0)$ で (21) が 満たされていれば、$\mu$ は当然 (12) を満たすので、 (23) が成り立つことになり、 $U_L,U_R\in\Sigma(w_0,z_0)$ から (22) が得られる。

しかし、この逆、すなわち定理 2 から 仮説 3 は一般には得られない。
$w_0=\max\{w(U_L),w(U_R)\}$, $z_0=\min\{z(U_L),z(U_R)\}$ とすればいいように思うかもしれないが、 例えば $G(+\infty)<\infty$ の場合は、 まずその $w_0$, $z_0$ に対応する $U_0$ が存在するとは限らない。 実際、 $w(U_L)$ に対して、

\begin{eqnarray*}z(U_L) &=& w(U_L)-G(+\infty),\\
w(U_R) &=& w(U_L)-2G(+\infty),\\
z(U_R) &=& w(U_L)-3G(+\infty)\end{eqnarray*}

とすると、$\rho_L$, $\rho_R$ は、 $G(\rho_1)=G(+\infty)/2$ なる $\rho_1>0$ に対して $\rho_L=\rho_R=\rho_1$ と なり、 $u_R = u_L - 2G(+\infty)$ より $U_L$, $U_R$ はちゃんと存在するが、

\begin{eqnarray*}w_0 &=& \max\{w(U_L), w(U_R)\} = w(U_L),\\
z_0 &=& \min\{z(U_L), z(U_R)\} = z(U_R) = w(U_L)-3G(+\infty)\end{eqnarray*}

となるので、 $G(\rho_0)=(w_0-z_0)/2 = (3/2)G(+\infty)$ となるが、 そのような $\rho_0$ は存在しない。

また、その $U_0$ が存在したとしても、 仮説 3 の仮定として満たすべき CFL 条件 (12) から、 定理 2 で必要な CFL 条件 (21) が 得られるとは限らない。 それは、一般には

\begin{displaymath}
\Lambda(w_0,z_0) \geq \Lambda_1(U_L,U_R)
\end{displaymath}

であり、逆向きの不等式が成り立つとは限らないからである。 実際、 $P=A\rho^\gamma$ ($1<\gamma<3$) の場合でも、 $u_1>0$, $\rho_1>0$ に対して、

\begin{displaymath}
u_L = u_1,\hspace{1zw}u_R = -u_1,\hspace{1zw}\rho_L = \rho_R = \rho_1
\end{displaymath}

とすると、(13) より

\begin{displaymath}
\Lambda_1(U_L,U_R) = u_1 + C(\rho_1)
\end{displaymath}

となるが、この場合は

\begin{eqnarray*}w_0 &=& \max\{w_L, w_R\} = w_L = u_L+G(\rho_L)
= u_1+\frac{C(...
..._L, z_R\} = z_R = u_R-G(\rho_R)
= -u_1-\frac{C(\rho_1)}{\theta}\end{eqnarray*}

となるので、$u_0 = 0$ で、$\rho_0$

\begin{displaymath}
G(\rho_0) = \frac{w_0-z_0}{2} = u_1+\frac{C(\rho_1)}{\theta}
\end{displaymath}

となり、よって、(18) より

\begin{displaymath}
\Lambda(w_0,z_0) = \vert u_0\vert+G(\rho_0) = u_1+\frac{C(\rho_1)}{\theta}
> \Lambda_1(U_L,U_R)
\hspace{1zw}(0<\theta<1)
\end{displaymath}

となる。よって、$\mu$ がその間に入ってしまうと 定理 2 からは何も言えなくなってしまう。

よって今回は、仮説 3 ではなく、 少し強い CFL 条件 (21) を仮定に置く 定理 2 について考察する。 なお、仮説 3 が実際に成立するか、 それとも反例があるかはよくわからない。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-02-28