5 賞金の期待値

次は、賞金の期待値 $A^+_N$ の方を考える。 なお、$A^+_N$ は、4 節の最後に書いたように 先頭に 1 回追加すると考えても最後に追加すると考えても、 賞金はその続きのものとの関係で変わってしまうので、 どちらの形で考察してもさほど難しさに違いはない。

4 節と同じく、$C_0$, $C_k$ に場合分けして、 $B^+_N$ を求めることから始める。 $C_0$ の場合は、賞金は $Ab^{N-1}$ で、 確率は $p(1-p)^{N-1}$ なので、

\begin{displaymath}
Ab^{N-1} p(1-p)^{N-1} = Ap R^{N-1}
\end{displaymath}

$C_0$ に対応する $B^+_N$ の部分となる。 ここで $R = b(1-p)$ としたが、 元の問題では $b=2$, $p = 1/2$ だから、 その場合は $R=1$ であることに注意する。

$C_k$ の場合は、賞金は最初の $k$ 回の $B^+_k$ の分のすべての事象に $Ab^{N-k-1}$ が追加されるが、$B^+_k$ の確率の和は $p$ であるから、 よって $C_k$ に対する $B^+_N$ の部分は

\begin{displaymath}
(B^+_k+Ab^{N-k-1}p)p(1-p)^{N-k-1}
= B^+_kp(1-p)^{N-k-1} + Ap^2R^{N-k-1}
\end{displaymath}

となる。よって、$B^+_N$ の漸化式は
\begin{displaymath}
B^+_N = ApR^{N-1} + \sum_{k=1}^{N-1}B^+_kp(1-p)^{N-1-k}
+ Ap^2\sum_{j=0}^{N-2} R^j
\hspace{1zw}(N\geq 2)\end{displaymath} (5)

となる。

$B^-_N$ の場合と同様に、$N\geq 3$ に対して $B^+_N-(1-p)B^+_{N-1}$ を考えれば、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{B^+_N - (1-p)B^+_{N-1}}\\
&=&
ApR^{N-1} - Ap(1-p)R^...
...-1}p
+ Ap^2\sum_{j=0}^{N-2} R^j - Ap^2(1-p)\sum_{j=0}^{N-3} R^j\end{eqnarray*}


となり、整理すれば、
$\displaystyle B^+_N - B^+_{N-1}$ $\textstyle =$ $\displaystyle ApR^{N-2}(R-1+p) + Ap^2(1-p) R^{N-2} + Ap^3\sum_{j=0}^{N-2} R^j$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle ApR^{N-2}(R-(1-p)^2) + Ap^3\sum_{j=0}^{N-2} R^j$ (6)

となる。

$B^+_2$ は、(オ、オ) と (ウ、オ) なので、

\begin{displaymath}
B^+_2 = 2A p^2 + Ab p(1-p) = 2A p^2 + Ap R
\end{displaymath}

となり、よって
\begin{displaymath}
B^+_2 - B^+_1 = 2A p^2 + ApR - Ap = Ap(R-1+2p)
\end{displaymath}

となるが、これは (6) の $N=2$ の式に等しいので、 (6) は $N\geq 2$ で成り立つことになる。

今後この一般の式 (6) のまま計算すると面倒なので、 元の条件の $R=1$ を代入すると、

\begin{displaymath}
B^+_N - B^+_{N-1}
= Ap(1-(1-p)^2) + Ap^3(N-1)
= Ap^3N + 2Ap^2(1-p)\end{displaymath} (7)

となり、これにより、$B^+_N$
\begin{eqnarray*}B^+_N
&=&
B^+_1 + \sum_{k=2}^{N} (B^+_k-B^+_{k-1})
=
Ap + \...
...p^2(1-p)(N-1)
\\ &=&
\frac{Ap}{2}\{p^2(N-1)(N-2) + 4p(N-1)+2\}\end{eqnarray*}


と書けることがわかる。

さて次は $A^+_N$ だが、 これは $B^+_N$$C_0$, $C_k$ の最後のものを 裏に変えた場合のものを加えればよいが、 その場合は最後の回は賞金がないので、結局

\begin{displaymath}
A^+_N = B^+_N + \sum_{k=1}^{N-1}B^+_k(1-p)^{N-k} \end{displaymath} (8)

となる。この和の部分を $B^+_N$ を使って表せば、
\begin{eqnarray*}A^+_N
&=&
B^+_N + \frac{1-p}{p}\sum_{k=1}^{N-1}B^+_k(1-p)^{N...
... &=&
\frac{A}{2}\{p^2(N-1)(N-2) + 4p(N-1)+2\} - A(1-p)(1+p(N-1))\end{eqnarray*}


となり、結局
\begin{displaymath}
A^+_N = \frac{A}{2}Np(p(N-1)+2)\end{displaymath} (9)

となる。

元の問題に戻って考察を行うと、$p = 1/2$ であるから、 収入の期待値は (4), (9) より

\begin{displaymath}
A_N
= A^+_N - A^-_N
= \frac{A}{8}N(N+3) - \frac{c}{2}(N+1)
\end{displaymath}

となる。$A=10$, $N=1000$ だと、賞金は
\begin{displaymath}
\frac{10\times 1000\times 1003}{8} \approx \frac{10^7}{8} = 125 \mbox{ 万円}
\end{displaymath}

で、参加費用は $c=10000$ 円より
\begin{displaymath}
\frac{10000\times 1001}{2} \approx \frac{10^7}{2} = 500 \mbox{ 万円}
\end{displaymath}

となって、380 万円位の損失となる。

$N$ が大きいときは $A_N$ はほぼ

\begin{displaymath}
A_N
\approx \frac{A}{8}N^2 - \frac{c}{2}N
= \frac{N}{8}(AN-4c)\end{displaymath} (10)

で近似されるので、賞金と参加料が釣り合うのは、 $N=4c/A = 4000$ 回位となる。

(10) は $N$ の 2 次式なのでそれほど早くは増大しないが、 5 千回だと、 $A_{5000}\approx 5\times 10^7/8 = 625$ 万円、 1 万回だと、 $A_{10000}\approx 6\times 10^8/8 =7500$ 万円となる。

1 回投げるのに 5 秒かかるとすれば、 1 万回で 5 万秒 = 13 時間 53 分だから、約半日で終わる。 意外に時間がかからずに一財産は得られることになるわけである。

竹野茂治@新潟工科大学
2013年6月19日