3 和の公式の証明

せっかくなので、本節以降で (8), (10), (11), (12), (13) の公式の証明を紹介する。

なお、なるべくオイラーの公式は用いずに高校の範囲で、と考えたが、 それだとかなり難しくなるものもあるので (私が易しい証明を思いつかないだけかもしれないが)、 そのあたりについても書き残しておく。

まず、本節では (8) を証明する。

\begin{displaymath}
f_n(x) = \sum_{k=0}^{n-1}\sin\left(x+\frac{2\pi}{n}\,k\right...
...
g_n(x) = \sum_{k=0}^{n-1}\cos\left(x+\frac{2\pi}{n}\,k\right)
\end{displaymath}

とする ($n$ は 2 以上の整数)。

オイラーの公式を用いてよいなら、 $e^{2\pi i/n}\neq 1$ から、 等比数列の和の公式を用いて、

\begin{eqnarray*}g_n(x) + if_n(x)
&=&
\sum_{k=0}^{n-1}\left\{\cos\left(x+\frac...
...ght)^k
\ =\
e^{ix}\frac{e^{2\pi i}-1}{e^{2\pi i/n}-1}
\ =\ 0\end{eqnarray*}


のようにして示されるのであるが、高校の範囲だとこうはいかない。

まず、加法定理を用いて $f_n(x)$, $g_n(x)$ から $x$ を分離して、

\begin{displaymath}
f_n(x) = f_n(0)\cos x + g_n(0)\sin x,
\hspace{1zw}
g_n(x) = g_n(0)\cos x - f_n(0)\sin x
\end{displaymath}

のようにしてから $f_n(0)=g_n(0)=0$ を示すことで $f_n(x)=g_n(x)=0$ を 示す、という方向で考えると楽そうである。

$f_n(0)=0$ の方は、角が円周上を上下に対称に並んでいることを考えれば、 丁度反対符号同士のものが打ち消されて 0 になることは容易にわかる。 しかし、$g_n(0)$ の方は左右に対称でないと消えないので、 $n$ が奇数の場合はそのような議論では 0 になることが簡単には言えない。

$g_n(0)$ については、角が円周全体に渡って並んでいることから、 ひとつずらして加法定理を用いることで以下のように変形する。

\begin{eqnarray*}g_n(0)
&=&
\sum_{k=0}^{n-1}\cos\frac{2\pi}{n}\,k
\ =\
\sum...
...ght)
\\ &=&
g_n(0)\cos\frac{2\pi}{n} - f_n(0)\sin\frac{2\pi}{n}\end{eqnarray*}


ここから、$f_n(0)=0$, および $\cos(2\pi/n)\neq 1$ ($n\geq 2$) で あることを用いれば $g_n(0)=0$ が得られる。

あるいは、$f_n(0)$ の方も $g_n(0)$ と同様に変形して

\begin{displaymath}
f_n(0) = f_n(0)\cos\frac{2\pi}{n} + g_n(0)\sin\frac{2\pi}{n}
\end{displaymath}

の式を導き出し、
\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle g_n(0)\left(1-\cos\f...
...n(0)\left(1-\cos\frac{2\pi}{n}\right)
& = 0\end{array}\right.\end{displaymath}

の連立方程式を解いて $f_n(0)=g_n(0)=0$ を導く、という手もある。

なお、より一般に $\sin$, $\cos$ に等差数列を代入したものの和も、 次のように簡単な式で表すことができる ($d\neq 1$)。

$\displaystyle \sum_{k=1}^n \sin(a+(k-1)d)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2\sin(d/2)}\left\{\cos\left(a-\frac{d}{2}\right)
-\cos\left(a-\frac{d}{2}+nd\right)\right\}$ (14)
$\displaystyle \sum_{k=1}^n \cos(a+(k-1)d)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2\sin(d/2)}\left\{\sin\left(a-\frac{d}{2}+nd\right)
-\sin\left(a-\frac{d}{2}\right)\right\}$ (15)

これらも、積和の公式より、以下のようにして容易に得られる。
\begin{eqnarray*}\lefteqn{\sum_{k=1}^n \sin(a+(k-1)d)
=
\frac{1}{\sin(d/2)}\...
...(a-\frac{d}{2}+nd\right)
-\sin\left(a-\frac{d}{2}\right)\right\}\end{eqnarray*}


よって、(8) を (14), (15) を用いて示すこともできるし、 あるいはこの証明と同じ積和の公式を利用する方法で示すこともできる。

竹野茂治@新潟工科大学
2017年12月8日