5 整数への極限

最後に、 $p\rightarrow m-0$ への極限について考察しておく。

最終的な形 (31) には、ガンマ関数は含まれるものの、 あとは $\pi$ と三角関数と有理数と整数の $p-1$ 乗だけなので、 [1] の $p=m$ の場合の対数が現れる式とは かなり違うように見える。 実際に $p\rightarrow m-0$ としたときに、$I_{n,p}$ の極限が [1] で得られたものになるのかどうかをここで見ておく。

まず、(31) には $\sec(\pi p/2)$ $\mathop{\mathrm{cosec}}(\pi p/2)$ が 含まれているので、 $m$ の偶・奇によって極限の特異性がそこに現れる。すなわち、 $m$ が奇数なら $\cos(\pi m/2) = 0$ だから $n$ が偶数であれば sec の部分が発散し、 $m$ が偶数なら、 $\sin(\pi m/2) = 0$ だから $n$ が奇数であれば cosec の部分が発散する。 逆に特異性が現れないのは、$n+m$ が偶数のときということになる。 $\mu=[(m+1)/2]$ とすると、 $m$ が奇数の場合は、

$\displaystyle \mathop{\mathrm{cosec}}\frac{\pi m}{2}
= \mathop{\mathrm{cosec}}\left(\pi\mu-\,\frac{\pi}{2}\right)
=(-1)^{\mu-1}
$

$m$ が偶数の場合は、

$\displaystyle \sec\frac{\pi m}{2}
= \sec\pi\mu
= (-1)^{\mu}
$

なので、$n+m$ が偶数 ($m\geq 1$) の場合は いずれも (31) より、

$\displaystyle \lim_{p\rightarrow m-0}I_{n,p}
= \frac{(-1)^\pi\mu}{\mathit{\Gamma}(m)}\gamma_{n}(m-1)
= \frac{(-1)^\pi\mu}{(m-1)!}\gamma_{n}(m-1)
$

となり、[1] の (19), (23) の $I_{n,m}$ の式に一致する ことがわかる。

問題は、$n+m$ が奇数の場合であるが、 この場合は、[1] の (26), (32) により $\gamma_{n}(m-1)=0$ で あることがわかる。それにより $I_{n,p}$ の sec, cosec の特異性が解消 されることになる。 $n$ が奇数で $m$ が偶数 ($m\geq 2$) の場合は、(31)、 およびロピタルの定理により、

$\displaystyle \lim_{p\rightarrow m-0}I_{n,p}$ $\textstyle =$ $\displaystyle -\,\frac{\pi}{\mathit{\Gamma}(m)}\lim_{p\rightarrow m-0}
\frac{\g...
...\ -\,\frac{\pi}{(m-1)!}\,\frac{\gamma_{n}'(m-1)}{\cos(\pi m/2)}
\,\frac{2}{\pi}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{2(-1)^{\mu+1}}{(m-1)!}\gamma_{n}'(m-1)$ (32)

となる。ここで、 $\gamma_{n}'(m-1)$ は、
$\displaystyle \gamma_{n}'(m-1)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \left.\frac{1}{2^n}\sum_{j=1}^{\nu}
(-1)^j\left(\begin{array}{c}
\!\!n\!\! \\  \!\!\nu-j\!\! \end{array}\right)\{(2j-1)^{p-1}\}'\right\vert _{p=m}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2^n}\sum_{j=1}^{\nu}
(-1)^j\left(\begin{array}{c}
\!\!n\!\! \\  \!\!\nu-j\!\! \end{array}\right)(2j-1)^{m-1}\log(2j-1)$ (33)

となるので、(32), (33) から [1] の (34) の $I_{n,m}$ の式が得られることがわかる。 すなわちこの log は、$(2j-1)^{p-1}$$p$ に関する導関数の計算から でてくることになるし、$\pi$ が消える理由も分母の $\sin(\pi p/2)$ の 微分によることがわかる。

同様に、$n$ が偶数で $m$ が奇数の場合も、(31)、 およびロピタルの定理により、

$\displaystyle \lim_{p\rightarrow m-0}I_{n,p}$ $\textstyle =$ $\displaystyle \,\frac{\pi}{\mathit{\Gamma}(m)}\lim_{p\rightarrow m-0}
\frac{\ga...
...\ -\,\frac{\pi}{(m-1)!}\,\frac{\gamma_{n}'(m-1)}{\sin(\pi m/2)}
\,\frac{2}{\pi}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{2(-1)^{\mu}}{(m-1)!}\gamma_{n}'(m-1)$ (34)

となり、 $\gamma_{n}'(m-1)$ は、
$\displaystyle \gamma_{n}'(m-1)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \left.\frac{1}{2^n}\sum_{j=1}^{\nu}
(-1)^j\left(\begin{array}{c}
\!\!n\!\! \\  \!\!\nu-j\!\! \end{array}\right)\{(2j)^{p-1}\}'\right\vert _{p=m}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2^n}\sum_{j=1}^{\nu}
(-1)^j\left(\begin{array}{c}
\!\!n\!\! \\  \!\!\nu-j\!\! \end{array}\right)(2j)^{m-1}\log(2j)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2^n}\sum_{j=1}^{\nu}
(-1)^j\left(\begin{array}{c}
\!\!n\!\! \\  \!\!\nu-j\!\! \end{array}\right)(2j)^{m-1}\log j$ (35)

となるので、(34), (35) から [1] の (29) の式が得られる。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-12-24