3 差分方程式

前節の (3) や (4) の 左辺の和を求めることができたのは、 $(k+1)^r-k^r$ のような形の和がほとんどが消えて、 2 項だけが残ったからであるが、よって、もし
  $\displaystyle
k^p = f(k+1) - f(k)$ (5)
となるような関数 $f(x)$ が見つかれば、$S_p(n)$ は、

$\displaystyle S_p(n) = \sum_{k=1}^n k^p
= \sum_{k=1}^n \left(f(k+1)-f(k)\right)
= f(n+1) - f(1)
$

のように簡単に求めることができる。

なお、本稿では、(5) を一つずらして、 さらに $k$ を一般の $x$ とした

  $\displaystyle
f(x) - f(x-1) = x^p$ (6)
という方程式をこの先考えることにする。

すべての $x$ に対して (6) のような式を 満たす未知関数 $f(x)$ を求める問題は、一般に「差分方程式」と呼ばれる。 その差分方程式の解の性質を少し紹介するために、これを少し一般化した、

  $\displaystyle
\left[f\right]_{x-1}^x = g(x)$ (7)
という方程式を考えることにする。なお、この左辺は

$\displaystyle \left[f\right]_a^b = f(b)-f(a)
$

を意味することとする。

非斉次型の (7) の一般解 $f(x)$ は、 (7) の解の一つ (「特殊解」と呼ばれる) $f_0(x)$ と、 周期 1 の任意の周期関数 $p(x)$ を用いて

  $\displaystyle
f(x) = f_0(x) + p(x)$ (8)
と書ける。これをまず示す。

最初に、(8) の右辺で与えられる関数が、 確かに方程式 (7) を満たすことを示す。 $f_0(x)$ は (7) の特殊解なので、すべての $x$ に対し

  $\displaystyle
\left[f_0\right]_{x-1}^x = f_0(x) - f_0(x-1) = g(x)$ (9)
を満たし、また $p(x)$ は周期 1 の周期関数なので $p(x+1)=p(x)$、よって
  $\displaystyle
p(x) - p(x - 1) = 0$ (10)
を満たす。(9), (10) より

$\displaystyle \left[f_0 +p\right]_{x-1}^x = \left[f_0\right]_{x-1}^x + \left[p\right]_{x-1}^x = g(x) + 0
$

となり、確かに (8) の右辺 $f_0(x)+p(x)$ は (7) を満たすことがわかる。 次に、逆に (7) を満たす $f(x)$ は 必ず $f_0(x)+p(x)$ の形になることを示す。 (7) の任意の解を $f(x)$ とすると、

$\displaystyle \left[f - f_0\right]_{x-1}^x = \left[f\right]_{x-1}^x - \left[f_0\right]_{x-1}^x = g(x) - g(x) = 0
$

なので、 $p(x) = f(x)-f_0(x)$$p(x) = p(x-1)$ を すべての $x$ に対して満たすことになるから $p(x)$ は周期 1 の周期関数 であることがわかる。 よって $f(x)$ が (8) の右辺の形になることが示された。

上の事実により、(7) の一般解を求めるには、 その特殊解 $f_0(x)$ を求めればよいことになる。 なお、定数 $c$ に対して

$\displaystyle \left[f_0 + c\right]_{x-1}^x = \left[f_0\right]_{x-1}^x + \left[c\right]_{x-1}^x = \left[f_0\right]_{x-1}^x
$

となるので、$f_0(x)$
  $\displaystyle
f_0(0) = 0$ (11)
を満たすと仮定してよい (必要ならば $f_0(x)$ の代わりに $f_0(x)-f_0(0)$ と 取ればよい)。

以後、0 以上の整数 $n$ に対して、$g(x)=x^n$ に対する 方程式 (7) の、 (11) を満たす特殊解を $\phi_n(x)$ と書くことにする。 実は、このような $\phi_n(x)$$(n+1)$ 次多項式として ただひとつ決まるのであるが、本節でそれを示す。

まず、そのような多項式があれば、それが多項式としては ただひとつの解であることはすぐにわかる。 それは、もし 2 つあったとすれば、 その差 (それも多項式) は上で見たように周期 1 の周期関数でなければならないが、 多項式の中で周期関数となるのは定数しかないので、その差は定数となり、 (11) の条件からその定数は 0 でなければならないからである。

よってあとはこの $\phi_n(x)$ が存在することを示せばよいが、 本節では $\phi_n(x)$ の漸化式を作ることで、それを構成的に示す。

まず $\phi_0(x)=x$ であることは容易にわかる。 今、そのような多項式 $\phi_0(x)\sim\phi_n(x)$ $(n\geq 1)$ が 存在したとする。 方程式

  $\displaystyle
\left[\phi_n\right]_{x-1}^x = \phi_n(x) - \phi_n(x-1) = x^n$ (12)
の両辺を $x$ で微分すると、

$\displaystyle \phi_n'(x) - \phi_{n-1}'(x-1) = nx^{n-1}
$

となるから、

$\displaystyle \left[\frac{\phi_n'}{n}\right]_{x-1}^x = x^{n-1}
$

を満たすことになり、よって、その一意性により
  $\displaystyle
\frac{1}{n}(\phi_n'(x) -\phi_n'(0)) = \phi_{n-1}(x)$ (13)
となることがわかる。 この式の両辺を $0$ から $x$ まで積分すれば
  $\displaystyle
\phi_n(x) = n\left(\int_0^x\phi_{n-1}(t)dt + C_nx\right)$ (14)
が得られるが、この $C_n = \phi_n'(0)$$\phi_{n-1}(x)$ で 書き表すために (14) を (12) に代入すると、

$\displaystyle \left[\phi_n\right]_{x-1}^x
= n\left[\int_0^x\phi_{n-1}(t)dt + C_nx\right]_{x-1}^x
= n\int_{x-1}^x\phi_{n-1}(t)dt + nC_n
= x^n
$

となるので、$x=0$ とすれば、

$\displaystyle C_n = -\int_{-1}^0\phi_{n-1}(t)dt = \int_0^{-1}\phi_{n-1}(t)dt
$

となる。よって、$\phi_{n-1}$ から $\phi_n$ を求める漸化式
  $\displaystyle
\phi_n(x) = n\left(\int_0^x\phi_{n-1}(t)dt
+ x\int_0^{-1}\phi_{n-1}(t)dt\right)
\hspace{1zw}(n\geq 1)$ (15)
が得られる。

ただし、(15) はあくまでそのような多項式 $\phi_n$ が 存在するとして導いたもので、 逆にそこから得られる $\phi_n(x)$ が すべての $x$ に対して (12) を満たすことはまだ保証されていない。 よって次は、(15) で得られる $\phi_n$ が、 確かに (12) と $\phi_n(0)=0$ を満たすことを示す。

そこにも帰納的を用いる。$\phi_0(x)=x$ として、$n\geq 1$ に対して、 $\phi_{n-1}$ までは (12) と $x=0$ で 0 になることは 満たしていると仮定する。

まず、 $\phi_n(0) = \phi_n(-1)=0$ は、 (15) に $x=0$, $x=-1$ を代入すれば容易に得られる。 また、変数変換と帰納法の仮定により、

$\displaystyle {\left[\int_0^x\phi_{n-1}(t)dt\right]_{x-1}^x
\ =\ \int_0^x\phi_{n-1}(t)dt - \int_0^{x-1}\phi_{n-1}(t)dt}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle \int_0^x\phi_{n-1}(t)dt
- \left(\int_{-1}^{x-1}\phi_{n-1}(t)dt - \int_{-1}^0\phi_{n-1}(t)dt\right)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \int_0^x\phi_{n-1}(t)dt
- \int_0^x\phi_{n-1}(t-1)dt + \int_{-1}^0\phi_{n-1}(t)dt$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \int_0^x\{\phi_{n-1}(t)-\phi_{n-1}(t-1)\}dt
+ \int_{-1}^0\phi_{n-1}(t)dt$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \int_0^x\left[\phi_{n-1}\right]_{t-1}^t dt
+ \int_{-1}^0\phi_{n-1}(t)dt
\ =\
\int_0^xt^{n-1} dt + \int_{-1}^0\phi_{n-1}(t)dt$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{x^n}{n} + \int_{-1}^0\phi_{n-1}(t)dt$ (16)

となるので、よって (15) で与えられる $\phi_n(x)$ は、 (16) より、

\begin{eqnarray*}\left[\phi_n\right]_{x-1}^x
&=&
n\left[\int_0^x\phi_{n-1}(t)d...
...nt_{-1}^0\phi_{n-1}(t)dt
+ n\int_0^{-1}\phi_{n-1}(t)dt
\ =\ x^n\end{eqnarray*}

となり、これで $\phi_n$ が (12) の解であることが 帰納的に保証されることになる。

また、$\phi_0(x)=x$ は 1 次式で、よって (15) に より $\phi_n(x)$ は多項式で、その次数は $\phi_{n-1}(x)$ より 一つ上であることも帰納的に保証され、 よって $\phi_n(x)$$(n+1)$ 次式であることがわかる。

なお、(12) を $x=1$ から $x=k$ まで和を取れば、

$\displaystyle \phi_n(k)-\phi_n(0) = \sum_{x=1}^k x^n = S_n(k)
$

となるので、よって $S_p(n)$ はこの $\phi_n$ を用いて
  $\displaystyle
S_p(n) = \phi_p(n)$ (17)
と表される。以上により、通常は代数的に求める $S_p(n)$ を、 解析的に積分を用いて求める漸化式 (15) が 得られたことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-03-16