4 ファウルハーバーの定理

Wikipedia ([1]) によれば、 $S_p(n)$ は次の性質を持つことが知られていて、 それをファウルハーバーの定理と呼ぶようである。 例えば、以下のような具合である。
  $\displaystyle
\begin{array}{ll}
S_3(n) &= \displaystyle \frac{n^2}{4}(n+1)^2 ...
...rac{n^2}{12}(n+1)^2(2n^2+2n-1)
\ = \frac{1}{3}S_1(n)^2(4S_1(n)-1)
\end{array}$ (18)

(17) より、$S_p(n)$ に対する性質 [T1], [T2] は、 $\phi_n$ に対する次の性質 [T1'], [T2'] に書き直すことができる。

この性質 [T1'], [T2'] を、漸化式 (15) を用いて 直接示すこともできるが、本節では、この [T1'], [T2'] が、 さらに少し変形した形 [S1], [S2] と同等であることを示し、 そちらを証明することで [T1], [T2] が成り立つことを示すことにする。

そのために、 $\phi_n(x) = \hat{\phi}_n(x+1/2)$, すなわち

$\displaystyle \hat{\phi}_n(y) = \phi_n\left(y-\frac{1}{2}\right)
\hspace{1zw}\left(y=x+\frac{1}{2}\right)
$

により新たな $(n+1)$ 次多項式 $\hat{\phi}_n(y)$ を導入すると、 [T1'], [T2'] は次の形に書ける ($n\geq 1$)。

この、[T1'],[T2'] と [S1],[S2] が同等であることを示そう。

まず、[T1'] が成り立てば、 $\phi_1(x) = x(x+1)/2$ より、

\begin{eqnarray*}\hat{\phi}_{2n-1}\left(\frac{1}{2}\right)
&=& \phi_{2n-1}(0)
...
...ight)
&=& \phi_{2n-1}(-1)
\ =\ \phi_1(-1)F_n(\phi_1(-1)) \ =\ 0\end{eqnarray*}

となる。また、

$\displaystyle \phi_1(x) = \frac{x}{2}(x+1) = \frac{1}{2}(x^2+x)
= \frac{1}{2}\left(x+\frac{1}{2}\right)^2-\frac{1}{8}
= \frac{y^2}{2}-\frac{1}{8}
$

より、[T1'] から

$\displaystyle \hat{\phi}_{2n-1}(y)
= \left(\frac{y^2}{2}\,-\,\frac{1}{8}\right)
F_n\left(\frac{y^2}{2}\,-\,\frac{1}{8}\right)
$

となるので、確かに $\hat{\phi}_{2n-1}(y)$ は偶関数となり、 よって [S1] が得られる。

同様に [T2'] が成り立てば、 $\phi_2(x) = x(x+1)(2x+1)/6$ より、

$\displaystyle \hat{\phi}_{2n}\left(\frac{1}{2}\right)
= \phi_2(0)G_n(\phi_1(0))...
...zw}
\hat{\phi}_{2n}\left(-\,\frac{1}{2}\right)
= \phi_2(-1)G_n(\phi_1(-1)) = 0
$

となる。また、 $\phi_2(x) = \phi_1(x)(2x+1)/3 = 2y\phi_1(x)/3$ より、 [T2'] から

$\displaystyle \hat{\phi}_{2n}(y)
= \frac{2y}{3}\left(\frac{y^2}{2}\,-\,\frac{1}{8}\right)
G_n\left(\frac{y^2}{2}\,-\,\frac{1}{8}\right)
$

となるので、確かに $\hat{\phi}_{2n}(y)$ は奇関数となり、 よって [S2] が得られる。

逆に、[S1] が成り立てば、 $\hat{\phi}_{2n-1}(y)$ は 因数定理により $(y-1/2)(y+1/2)=y^2-1/4$ で割り切れるので、 その商を $\psi(y)$ と書けば

$\displaystyle \hat{\phi}_{2n-1}(y) = \left(y^2-\,\frac{1}{4}\right)\psi(y)
$

となるが、 $\hat{\phi}_{2n-1}(y)$ は偶関数なので、

$\displaystyle \hat{\phi}_{2n-1}(-y) = \left(y^2-\,\frac{1}{4}\right)\psi(-y)
= \hat{\phi}_{2n-1}(y) = \left(y^2-\,\frac{1}{4}\right)\psi(y)
$

となるから $\psi(y)$ も偶関数の多項式で、 よって $\psi(y) = \hat{\psi}(y^2)$ の形に書ける ($\hat{\psi}(Y)$ も多項式)。よって $\hat{\phi}_{2n-1}(y)$

$\displaystyle \hat{\phi}_{2n-1}(y) = \left(y^2-\,\frac{1}{4}\right)\hat{\psi}(y^2)
$

の形になるから、これを $\phi_{2n-1}(x)$ に戻せば、

\begin{eqnarray*}\phi_{2n-1}(x)
&=& \hat{\phi}_{2n-1}\left(x+\frac{1}{2}\right...
...
\ = \
2\phi_1(x)\hat{\psi}\left(2\phi_1(x)+\frac{1}{4}\right) \end{eqnarray*}

となり、確かに [T1'] が得られることがわかる。

同様に、[S2] が成り立つならば、 $\hat{\phi}_{2n}(y)$ は、 ある多項式により

$\displaystyle \hat{\phi}_{2n}(y) = \left(y^2-\,\frac{1}{4}\right)\mu(y)
$

と書け、 $\hat{\phi}_{2n}(y)$ は奇関数なので、

$\displaystyle \hat{\phi}_{2n}(-y) = \left(y^2-\,\frac{1}{4}\right)\mu(-y)
= -\hat{\phi}_{2n}(y) = -\left(y^2-\,\frac{1}{4}\right)\mu(y)
$

となるから $\mu(y)$ も奇関数の多項式で、 特に $\mu(0)=0$ であるから $y$ で割り切れ、その商は偶関数となる。 よって、 $\mu(y) = y\hat{\mu}(y^2)$ ($\hat{\mu}(Y)$ も多項式) の 形になるので、

$\displaystyle \hat{\phi}_{2n}(y) = y\left(y^2-\,\frac{1}{4}\right)\hat{\mu}(y^2)
$

となり、これを $\phi_{2n}(x)$ に戻せば、

\begin{eqnarray*}\phi_{2n}(x)
&=& \hat{\phi}_{2n}\left(x+\frac{1}{2}\right)
...
...
\ = \
3\phi_2(x)\hat{\mu}\left(2\phi_1(x)+\frac{1}{4}\right) \end{eqnarray*}

となり、確かに [T2'] が得られることがわかる。

よって、あとは [S1],[S2] が成り立つことを示せばよいのであるが、 $\hat{\phi}_n(\pm 1/2)=0$ は、 $\phi_n(0)=\phi_n(1)=0$ と同等で、 それは漸化式 (15) から、 成り立つことが帰納的に容易に示される ((15) に $x=0$, $x=-1$ を代入すればいずれも 0 になる) ので、 あとは偶関数、奇関数の部分のみ考えればよい。

今、関数 $f(x)$ から、新たな関数を作る変換演算子 $T[f]=T[f](x)$ を、

  $\displaystyle
T[f](x) = \int_0^x f(t)dt + x\int_0^{-1} f(t)dt$ (19)
と定義すると、(15) は、
  $\displaystyle
\phi_n(x) = nT[\phi_{n-1}](x)$ (20)
と書ける。この演算子は線形、すなわち、関数 $f(x)$, $g(x)$ と 定数 $a$, $b$ に対して

$\displaystyle T[af+bg](x) = aT[f](x)+bT[g](x)
$

となることは容易にわかる。

さて、あと [S1],[S2] で示すべきは、

$\hat{\phi}_{2n-1}(y)$ が偶関数で、 $\hat{\phi}_{2n}(y)$ が奇関数であること」
であるが、これは、$\phi_n$ で言えば
$\phi_{2n-1}(x)$$(x+1/2)$ の偶数次の項からなる多項式、 $\phi_{2n}(x)$$(x+1/2)$ の奇数次の項からなる多項式となること」
を意味する。よってこれを示すためには、(20) と $T$ の 線形性により、
$(x+1/2)$ の偶数乗 (0 乗以上) の $T$ による変換結果が $(x+1/2)$ の奇数次の項のみで表され、 $(x+1/2)$ の奇数乗の $T$ による変換結果が $(x+1/2)$ の偶数次の項のみで表されること」
を示せばよい。あとはこれを実際に計算で示す。

整数 $m\ (\geq 0)$ に対して、

$\displaystyle {T\left[\left(x+\frac{1}{2}\right)^{2m}\right]
\ =\
\int_0^x\left(t+\frac{1}{2}\right)^{2m}dt
+x\int_0^{-1}\left(t+\frac{1}{2}\right)^{2m}dt}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle \left[\frac{1}{2m+1}\left(t+\frac{1}{2}\right)^{2m+1}\right]_0^x
+x\left[\frac{1}{2m+1}\left(t+\frac{1}{2}\right)^{2m+1}\right]_0^{-1}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2m+1}\left\{
\left(x+\frac{1}{2}\right)^{2m+1}-\left(\fr...
...
+x\left(-\,\frac{1}{2}\right)^{2m+1}-x\left(\frac{1}{2}\right)^{2m+1}
\right\}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2m+1}\left\{
\left(x+\frac{1}{2}\right)^{2m+1}-\,\frac{1}{2^{2m+1}}
\,-\,\frac{2x}{2^{2m+1}}
\right\}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2m+1}\left\{
\left(x+\frac{1}{2}\right)^{2m+1}
-\frac{1}{2^{2m}}\left(x+\frac{1}{2}\right)
\right\}$ (21)

となり、確かに $(x+1/2)$ の偶数乗の $T$ の変換結果は $(x+1/2)$ の 奇数次の項のみの式で表されることがわかる。 同様に、$m\ (\geq 1)$ に対して、
$\displaystyle {T\left[\left(x+\frac{1}{2}\right)^{2m-1}\right]
\ =\
\left[\fra...
...}\right]_0^x
+x\left[\frac{1}{2m}\left(t+\frac{1}{2}\right)^{2m}\right]_0^{-1}}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2m}\left\{
\left(x+\frac{1}{2}\right)^{2m}-\left(\frac{1...
...{2m}
+x\left(-\,\frac{1}{2}\right)^{2m}-x\left(\frac{1}{2}\right)^{2m}
\right\}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{1}{2m}\left\{
\left(x+\frac{1}{2}\right)^{2m}
-\,\frac{1}{2^{2m}}\right\}$ (22)

となり、確かに $(x+1/2)$ の奇数乗の $T$ の変換結果は $(x+1/2)$ の 偶数次の項のみの式で表される。 これで [S1],[S2] が成り立つことが示され、 よって [T1],[T2] が示されたことになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2020-03-16