6 非同次の線形漸化式

最後に、非同次の定数係数線形漸化式
\begin{displaymath}
\sum_{j=0}^{N}p_ja_{n+j}
=a_{n+N}+p_{N-1}a_{n+N-1}+\cdots+p_1a_{n+1}+p_0a_n=f_n,
\hspace{1zw}
(n\geq 0)\end{displaymath} (29)

($\{f_n\}$ は既知の数列、$\{a_n\}$ が未知の数列) についても簡単に述べておこう。

次の事実は、命題 1 と同様に容易にわかる (証明は略す)。


命題 4

非同次の漸化式 (29) の一般解は、 (29) の一つの解と、 同次の漸化式 (3) の一般解の和で表される。


これにより、(29) の一般解を求めるには、 (29) のなんらかの解 (特殊解) を一つ求めれば良いことになるが、その解法を述べるために、 次のような記法、用語を用いることにする。

まず、非同次の漸化式 (29) に対しても、 (10) を (29) の特性方程式と呼び、 (10) の左辺を (29) の 特性多項式 と呼ぶ。 逆に、最高次数の係数が 1 で、定数項が 0 でない多項式

\begin{displaymath}
F(\lambda)=\lambda^N+p_{N-1}\lambda^{N-1}+\cdots+p_0
\end{displaymath}

を特性多項式とする漸化式 (29) の左辺を、 この多項式 $F(\lambda)$付随する漸化式 と呼び、
\begin{displaymath}
D(F,a,n)=a_{n+N}+p_{N-1}a_{n+N-1}+\cdots+p_0a_n
\end{displaymath}

のような記号で書くことにする。


命題 5

  1. $\alpha\neq 0$ のとき、非同次漸化式
    \begin{displaymath}
a_{n+1}-\alpha a_n=f_n\hspace{1zw}(n\geq 0)
\end{displaymath} (30)

    の解の一つは、
    \begin{displaymath}
a_n=\sum_{k=0}^{n-1}\alpha^{n-k-1}f_k\hspace{1zw}(n\geq 1),\hspace{1zw}a_0=0
\end{displaymath} (31)

    で与えられる。
  2. (29) の特性多項式 $F(\lambda)$ が、 最高次数の係数が 1 の 2 つの多項式 $G(\lambda)$, $H(\lambda)$ の積に 因数分解されるとき、 数列 $b_n$ をこの $G(\lambda)$ に付随する漸化式 $b_n=D(G,a,n)$ とすると、 $b_n$$H(\lambda)$ を特性多項式に持つ漸化式 $D(H,b,n)=f_n$ を満たす (すなわち $D(F,a,n)=D(H,b,n)$ が成り立つ)。


証明

1. $\alpha\neq 0$ より、(30) の $n$$k$ として、 その両辺を $\alpha^{k+1}$ で割れば

\begin{displaymath}
\frac{a_{k+1}}{\alpha^{k+1}}-\frac{a_k}{\alpha^k}=\frac{f_k}{\alpha^{k+1}}
\end{displaymath}

となる。$n\geq 1$ に対してこれを $k=0$ から $k=n-1$ まで加えれば、
\begin{displaymath}
\frac{a_n}{\alpha^n}-\frac{a_0}{1} = \sum_{k=0}^{n-1}\frac{f_k}{\alpha^{k+1}}
\end{displaymath}

となるので、$a_0=0$ とすれば (31) が得られる。

2. まず、$G$ が 1 次式のときに示す。

\begin{displaymath}
G(\lambda)=\lambda-\alpha,\hspace{1zw}
H(\lambda)=\sum_{j=...
...\lambda^j,\hspace{1zw}
F(\lambda)=(\lambda-\alpha)H(\lambda)
\end{displaymath}

とすると、 $b_n=D(G,a,n)=a_{n+1}-\alpha a_n$ より
$\displaystyle D(H,b,n)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \sum_{j=0}^{N-1}q_jb_{n+j}
=
\sum_{j=0}^{N-1}q_j(a_{n+j+1}-\alpha a_{n+j})$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle %=
\sum_{j=1}^{N}q_{j-1}a_{n+j}-\sum_{j=0}^{N-1}\alpha q_j a_{n+j}$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle q_{N-1}a_{n+N}+\sum_{j=1}^{N-1}(q_{j-1}-\alpha q_j)a_{n+j}
-\alpha q_0 a_n$ (32)

となる。一方、
$\displaystyle F(\lambda)$ $\textstyle =$ $\displaystyle (\lambda-\alpha)\sum_{j=0}^{N-1}q_j\lambda^j
=
\sum_{j=0}^{N-1}q_j(\lambda^{j+1}-\alpha\lambda^j)$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle %=
\sum_{j=1}^{N}q_{j-1}\lambda^j-\sum_{j=0}^{N-1}\alpha q_j\lambda^j$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle q_{N-1}\lambda^N+\sum_{j=1}^{N-1}(q_{j-1}-\alpha q_j)\lambda^j
-\alpha q_0$ (33)

となり、確かに (32) が (33) に 付随する漸化式であることがわかる。 よって (32) の右辺は $D(F,a,n)$ と書けるから
\begin{displaymath}
D(H,b,n)=D(F,a,n)=D(HG,a,n)
\end{displaymath} (34)

が一次式の $G$ について言えたことになる。

$G$ が 2 次以上の場合は、(34) を 繰り返し用いればよい。例えば $G$ が 2 次の場合、

\begin{displaymath}
G(\lambda)=(\lambda-\alpha)(\lambda-\beta)
\end{displaymath}

と因数分解して $c_n=D(\lambda-\beta,a,n)=a_{n+1}-\beta a_n$ とすれば、 (34) より $b_n=D(G,a,n)$
\begin{displaymath}
b_n=D((\lambda-\alpha)(\lambda-\beta),a,n)=D(\lambda-\alpha,c,n)
\end{displaymath}

となるから、再び (34) を繰り返し使うことで
\begin{displaymath}
D(H,b,n)
=D((\lambda-\alpha)H,c,n)
=D((\lambda-\alpha)(\lambda-\beta)H,a,n)
=D(F,a,n)
\end{displaymath}

が得られる。


ここで、命題 51. の (31) の右辺は、たたみこみ と呼ばれる次の記号

\begin{displaymath}
(P_n\ast Q_n)(j) =
\left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle ...
...k=0}^j P_{j-k}Q_k & (j\geq 0),\\
0 & (j< 0)\end{array}\right.\end{displaymath}

を使うと $(\alpha^n\ast f_n)(n-1)$ と書けることを注意しておく。

この命題 5 により、 非同次の漸化式 (29) の特殊解を求める問題は、 一つ項数の低い漸化式に帰着できることがわかる。

例えば特性多項式 $F(\lambda)$

\begin{displaymath}
F(\lambda)
=(\lambda-\alpha)(\lambda^2+p\lambda+q)
=\lambda^3+(p-\alpha)\lambda^2+(q-\alpha p)\lambda-\alpha q
\end{displaymath}

の 3 次式の場合を考えてみよう。この場合、非同次の漸化式は
\begin{displaymath}
a_{n+3}+(p-\alpha)a_{n+2}+(q-\alpha p)a_{n+1}-\alpha q a_n=f_n\end{displaymath} (35)

となるが、命題 52. は、
\begin{displaymath}
b_n = D(\lambda^2+p\lambda+q,a,n)=a_{n+2}+pa_{n+1}+qa_n\end{displaymath} (36)

とすると、(35) の左辺が
\begin{displaymath}
D(F,a,n)=D(\lambda-\alpha,b,n)=b_{n+1}-\alpha b_n\end{displaymath} (37)

となることを意味している。 なおこれは、(37) に (36) を 代入することで (35) の左辺が得られることを 直接確認することもできる。

よって、(35) は $b_n$ では

\begin{displaymath}
b_{n+1}-\alpha b_n = f_n
\end{displaymath}

となるので、命題 51. により
\begin{displaymath}
b_n = (\alpha^n\ast f_n)(n-1)\end{displaymath} (38)

がその一つの解となる。 よって、(36), (38) により
\begin{displaymath}
a_{n+2}+pa_{n+1}+qa_n = (\alpha^n\ast f_n)(n-1)\end{displaymath} (39)

となり、4 項の非同次漸化式 (35) が 3 項の非同次漸化式 (39) に帰着されることになる。 同じように $\lambda^2+p\lambda+q$ を因数分解すれば 2 項の漸化式に帰着され、 最終的に $a_n$ が求まることになる。

されに今の考察から、 例えば $F(\lambda)=(\lambda-\alpha)(\lambda-\beta)$ の場合、

\begin{displaymath}
a_{n+2}-(\alpha+\beta)a_{n+1}+\alpha\beta a_n=f_n\end{displaymath} (40)

の特殊解は、
\begin{eqnarray*}a_n
&=&
(\alpha^n\ast\{(\beta^n\ast f_n)(n-1)\})(n-1)
=
\su...
...&=&
\sum_{j=0}^{n-2}f_j\sum_{m=j}^{n-2}\alpha^{n-2-m}\beta^{m-j}\end{eqnarray*}


となることがわかる。 この最後の和は、 $\alpha\neq\beta$ のときは等比級数で、
\begin{eqnarray*}\sum_{m=j}^{n-2}\alpha^{n-2-m}\beta^{m-j}
&=&
\alpha^{n-2-j}+...
.../\alpha)-1}
=
\frac{\beta^{n-1-j}-\alpha^{n-1-j}}{\beta-\alpha}\end{eqnarray*}


となり、$\alpha=\beta$ のときは定数和で、
\begin{displaymath}
\sum_{m=j}^{n-2}\alpha^{n-2-m}\beta^{m-j}
=
\sum_{m=j}^{n-2}\alpha^{n-2-j}
=(n-1-j)\alpha^{n-2-j}
\end{displaymath}

となる。 よって、(40) の 特殊解は、 $a_0=a_1=0$, $n\geq 2$ に対しては、
\begin{displaymath}
a_n=\left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle \sum_{j=0}^{n-2}...
...{n-2-j}f_j
& (\mbox{$\alpha=\beta$\ のとき})\end{array}\right.\end{displaymath}

となる。

なお、高校の数学での漸化式の解法では、 特性方程式はむしろ本節のような使い方をするのが主のようで、例えば

\begin{displaymath}
a_{n+2}+pa_{n+1}+q a_n=0
\end{displaymath}

の一般項を求めるのに、 特性方程式 $\lambda^2+p\lambda+q=0$ の 2 つの解 $\alpha$, $\beta$ を使って、 命題 52. のような変形を行い、
$\displaystyle {a_{n+2}+pa_{n+1}+q a_n
= a_{n+2}-(\alpha+\beta)a_{n+1}+\alpha\beta a_n}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle (a_{n+2}-\alpha a_{n+1})-\beta(a_{n+1}-\alpha a_n)=0$ (41)

とし、 $b_n=a_{n+1}-\alpha a_n$ とおいて
\begin{displaymath}
b_{n+1}-\beta b_n=0
\end{displaymath}

より $b_n$ を等比数列として求め、 そこから命題 51. の ような方法で $a_n$ を求めること行われているようである。

なお、 $\alpha\neq\beta$ の場合は、 (41) の $\alpha$$\beta$ を入れかえた

\begin{displaymath}
(a_{n+2}-\beta a_{n+1})-\alpha(a_{n+1}-\beta a_n)=0
\end{displaymath}

という変形を行うことで $c_n=a_{n+1}-\beta a_n$ とおいて $c_n$ を求めることができるから
\begin{displaymath}
a_{n+1}-\alpha a_n=b_n,\hspace{1zw}
a_{n+1}-\beta a_n=c_n
\end{displaymath}

から $a_{n+1}$ を消去して $a_n$ を求める、という方法もある。

竹野茂治@新潟工科大学
2009年8月5日