これは、例えば、財布の中の小銭が 500 円玉 1 つと 1 円玉 1 つで、 代金が 496 円であった場合、
この命題 5 の証明のために、 「極小解」という概念を導入する。 円 ( の支払い が 極小解 であるとは、 の小銭表現 に対して、次を満たすような が 存在すること、と定義する:
(26)
また、この極小解は、, に対して一意的ではない。 例えば、 円、 が 500 円玉 1 つ、100 円玉 1 つ、50 円玉 1 つ (650 円) の場合、 500 円玉 1 つのみの支払いも極小解 だし、 100 円玉 1 つと 50 円玉 1 つの支払いも極小解 となるが、 500 円玉 1 つと 50 円玉 1 つの支払いは極小解ではない。
証明 (補題 6)
とする。このとき、 すべての に対し であれば、 なので 丁度 を支払う解が存在する。
そうでない場合は、ある に対して となるが、 そのような の一番大きいものを とすると、 で、 かつすべての に対して となる。
このとき、 で となる が 少なくとも一つ存在する。 それは、もしそうでないとすると、 すべての で ということになるが、 それだと より となってしまうからである。
この を とすれば、 (26) を満たすような が作れることになる。
極小解は、ある意味では単純な支払い方法で、 必ずしもおつりの枚数を減らすことにはつながらないが、 命題 5 の証明には利用できる。
命題 5 よりも少し強い形の命題も紹介しよう。
より詳しく述べると、 の 以下の 硬貨のみからなるものを とすると、 であるとき、 ではない支払い とそのおつり に対して、
(27)
この命題 7 を用いれば 命題 5 を証明することは容易である。 すなわち、命題 5 の札 ( 円札) を 円の硬貨だと思えば、 それは命題 7 そのものになり、 それにより (27) が言えれば、 円の硬貨を元の札に戻せば、 (27) の右辺の の硬貨は さらに 1 枚減ることになるから、 命題 5 が示されることになる。
よって、以下ではより強い命題 7 を証明する。
証明 (命題 7)
Step 1. まず が簡単な場合に帰着できることを示す。
の小銭で 円が丁度払える場合は、 系 4 よりそれが唯一の最適解であるので、 この場合はその解が (27) を満たす ことがわかる。
よって、以後は丁度は払えない場合を考えるが、 もし より大きな額の硬貨が複数 に含まれれば、 少なくとも一つ以外はおつりにも返されてしまうことになるので 仮定 5 に反する。よって、 より大きな額の硬貨は 1 枚のみ に含まれることになる。
また、その硬貨は でかつ である場合のみ 考えればよい。 それは、もしその硬貨 が より大きい額の硬貨である場合 () は、 の を で置き換えたものを とすると、 で を払ったおつりは、 で を払ったおつりに で を払った おつりを加えたものになるので、 払う枚数は両者で変わらないが、 もらうおつりは よりも の方が少なくなる。 よって よりも の方が小銭は確実に少なくなるので、 もし に対してこの命題が成り立てば、 に対してもこの命題が成り立つことになる。
Step 2. を構成するため、 小さい額の方を除いた金額の極小解 を作る。
から の硬貨 1 枚を取り除いたものを とする。 もし だと の硬貨そのものがおつりとして 返却されてしまうことになるので、 でなければならない。
とし、 より とすると、
(28)
一方、もし で が丁度払えるとすると、 それに を合わせれば元の の丁度の解になってしまうので、 仮定より で を丁度払うことはできない。 よって、補題 6 により、 内で の代金に対する極小解 と そのおつり が存在する ( )。 極小解 の定義 (26) の を 考えると、
(29)
Step 3. の代金に対して、 の支払いに対するおつり と、 の支払いに対するおつり との関係を考える。
今、 , とすると、
(30)
Step 4. 最後に , を構成する。
さて、 とすると、 より で、
(31)
よって、 で を支払ったおつりは で、 (30), (31) より
(32)
証明がだいぶ長くてわかりにくいかもしれないが、 円、 が 372 円、 円、 が 552 円の例で考えると、 は 円、 は 円、 と は と からこの の 52 円を除いて、 円、 は 円となる。
は での に対する極小解なので、 この場合は必然的に 200 円となり、おつり は 5 円、 は 円となる。 よって は 円で、 これは とは交わらないので、 は 0 円、 で 252 円、 で 5 円となる。
この場合、 、 であるが、 その差 4 は に 等しくなっていることが確認できる。
なお、一般に が 0 であることが証明できるのか、 それとも が正の金額となるような例があるのかはよくわからないが、 それは上の命題の証明には直接影響はない。
竹野茂治@新潟工科大学