3 記号

手持ちの小銭や、おつりの小銭などの硬貨の集まりは、 数学ではなんとなく「集合」を使えば表せそうに思うかもしれないが、 「集合」では同じ要素が複数あることを表現できないので、 ここではベクトルを使って表すことにする:
\begin{displaymath}
A = (n_1, n_5, n_{10}, n_{50}, n_{100}, n_{500})\end{displaymath} (1)

この各成分の $n_j$ は 0 以上の整数で、その $j$ 円の硬貨の枚数を表す。

なお、後でより一般の硬貨系の考察も可能なように、 以下のように (1) を一般化しておく:

\begin{displaymath}
A = (n_{j_1}, n_{j_2}, \ldots, n_{j_m})\end{displaymath} (2)

ここで、$j_k$ は、
\begin{displaymath}
j_1=1 < j_2 < \cdots < j_m\end{displaymath} (3)

で、使用する各硬貨の額を意味し、その硬貨の集合を
\begin{displaymath}
K = \{j_1, j_2, \ldots, j_m\}\end{displaymath} (4)

とする。また、(2) を簡単に
\begin{displaymath}
A = (n_{j_k})_k\end{displaymath} (5)

のように書くことも許す。

このようなベクトル全体の集合を $U_0$ とし、 そのうち仮定 3 を満たすベクトル全体を $U_1$ と 書くこととする:

\begin{displaymath}
U_0 = \{(n_{j_k})_k ; n_{j_k}\geq 0\},
\hspace{1zw}
U_1 = \{(n_{j_k})_k ; 0\leq n_{j_k}< N_{j_k}\}\end{displaymath} (6)

ここで $N_{j_k}$ は、仮定 3 の各硬貨 $j_k$ の 上限枚数 $+$ 1 で、通常の硬貨系では、
\begin{displaymath}
N_1 = N_{10} = N_{100} = 5,
\hspace{1zw}
N_5 = N_{50} = N_{500} = 2
\end{displaymath}

となる。

ひとつの小銭の集まり (ベクトル) $A$ に対して、 各硬貨の枚数 (各成分) $n_{j_k}$$A$ の成分であることを 明示するときは

\begin{displaymath}
n_{j_k} = n_{j_k}(A)
\end{displaymath}

のように書くことにする。

小銭の集まり $A\in U_0$ に対して、 その小銭の表す合計金額を $\mathrm{Tot}(A)$、 その小銭の合計枚数を $\mathrm{Num}(A)$ とする:

\begin{displaymath}
\mathrm{Tot}(A) = \sum_{k=1}^m {j_k}\cdot n_{j_k}(A)
= \s...
...n_{j}(A),
\hspace{1zw}\mathrm{Num}(A) = \sum_{j\in K} n_{j}(A)\end{displaymath} (7)

1000 円 (=$M_c$ とする) 未満の金額 $x$ に対して、 その金額を $U_1$ のベクトルとして一意に表現する 小銭の集まりを $F_M(x)$ と書くことにする:

\begin{displaymath}
\mathrm{Tot}(F_M(x)) = x\hspace{0.5zw}(F_M(x)\in U_1)
\end{displaymath}

$U_1$ では、$M_c$ 円未満の金額に対して、 それを与える小銭の集まりが一意に決まることはほぼ自明と思われるが、 のちに一般の硬貨系のために命題 1 でそれを示す。

$U_0$ に大小関係 $\ll$ ($\gg$) を、次のように導入する:

\begin{displaymath}
A\ll B \hspace{0.5zw}(\mbox{または } B\gg A)
\hspace{0.5zw}\...
...e{0.5zw}\mbox{すべての $j\in K$ に対して} n_j(A)\leq n_j(B)
\end{displaymath}

もちろん、これは全順序ではない。

これら以外にも必要な記号があれば、適宜導入していく。

竹野茂治@新潟工科大学
2014年11月19日