5 漸近的な様子

さて、$n$ が大きくなると、$(-1/2)^n$ は 0 に収束していくから、 (16), (17) より、 $n\rightarrow\infty$ のときに
\begin{displaymath}
A_n\rightarrow\alpha, \hspace{1zw}D_n\rightarrow\alpha\hspace{1zw}
\left(\alpha=\frac{A_0+2D_0}{3}\right)
\end{displaymath}

と収束することがわかる。 $B_n$, $C_n$ は (18) により、
\begin{displaymath}
B_n\rightarrow\alpha^2,\hspace{1zw}
C_n\rightarrow 2\alpha-2\alpha^2
\end{displaymath}

のようになる。 これらの極限を $A_\infty=\alpha$ のように書くことにすると、 結局以下のようになる。
\begin{displaymath}
\left\{\begin{array}{l}
A_\infty=\alpha,\\
1-A_\infty=1-...
...lpha),\\
1-B_\infty-C_\infty=(1-\alpha)^2
\end{array}\right.\end{displaymath} (19)

$(-1/2)^n$ は、かなり速く 0 に近づくので、 数世代でほぼ (19) の値になる。 $\alpha$ は、

\begin{displaymath}
\alpha=\frac{A_0+2D_0}{3}=\frac{A_0+2B_0+C_0}{3}\end{displaymath} (20)

であり、つまりこの最初の世代の比率で与えられる $\alpha$ の値によって、 安定的な比率 (19) が決定することになる。

なお、 $0\leq B_0\leq 1$, $0\leq C_0\leq 1$, $0\leq B_0+C_0\leq 1$ なので、 $0\leq 2B_0+C_0\leq 2$ (2 になるのは $B_0=1$, $C_0=0$ のとき) であり、 $0\leq A_0\leq 1$ であるから $\alpha$ は 0 から 1 までの値を取り得る。

安定的な比率の式 (19) を見ると、 $\alpha$ $0\leq \alpha\leq 1$ であるから、

\begin{displaymath}
A_\infty\geq B_\infty,\hspace{1zw}
1-A_\infty\geq 1-B_\infty-C_\infty
\end{displaymath}

は言える。つまり、男性のその性質を持つ割合 $A_\infty$ は、 女性のその性質を持つ割合 $B_\infty$ よりは確かに多くなる。 しかし、その他の大小関係は、 $\alpha$ の値によって色々な上下はありえて、 グラフを書いてみればわかるが、 それらは $\alpha=1/3,1/2,2/3$ でそれぞれ大小が変化する。 例えば $0<\alpha<1/3$ であれば、
\begin{displaymath}
B_\infty<A_\infty<C_\infty<1-B_\infty-C_\infty<1-A_\infty
\end{displaymath}

のようになる。

元々の話の場合は、$\alpha$ が 0 に近い場合であるが、 この場合は $B_\infty$ は 2 次なのでかなり小さくなる。 例えば

\begin{displaymath}
A_\infty=\alpha=0.02=2\%
\end{displaymath}

であったとすると、
\begin{displaymath}
B_\infty=\alpha^2=0.0004=0.04\%
\end{displaymath}

であるから、確かに女性のその性質を持つ割合は、 男性に比べてはるかに小さくなる。 ただし、この場合は
\begin{displaymath}
C_\infty=2\alpha(1-\alpha)=0.04\times 0.98 = 0.0392=3.92\%
\end{displaymath}

となるので、女性のうち潜在的にその因子を持つ割合 $C_\infty$ は、 $A_\infty$ の倍位いることになる。

竹野茂治@新潟工科大学
2007年9月4日