5 補題

本節では、$h$ を決定するのに使用する補題を紹介する。


補題 1

$T(x)$ を実数 $x$ の小数部分 ($0\leq T(x)<1$) とするとき、 任意の無理数 $r$ に対し、

$\displaystyle \{T(nr)\ \vert\ \mbox{$n$\ は整数}\}
$
は、$0\leq x<1$ の範囲で稠密となる。


「稠密」とは $0\leq x<1$ 内に有理数のように隙間なく埋まる、 ということであり、言いかえれば、$0\leq x<1$ なる任意の実数 $x$ に対して、

  $\displaystyle
\lim_{j\rightarrow \infty}{T(n_j r)} = x$ (11)
となるような自然数列 $\{n_j\}_j = n_1,n_2,\ldots $ が存在すること、 となる。

この補題 1 は、「クロネッカーの稠密定理」 (Kronecker's density theorem) と呼ばれることもあるようだが、 古い数学辞典 [1](187 H.) では Jacobi の名前がついていて、 クロネッカーが証明したのはこの補題の多次元版のものらしい ([2] 202 E.)。 証明は省略するが、例えば [3] など、 インターネットで「クロネッカーの稠密定理」で検索すれば いくつか証明が見つかるだろう。

この補題を用いると、次のことが示される。


補題 2

$u=u(x)$ が連続な周期関数で、周期 $p(>0)$, $q(>0)$ を持つ、すなわち すべての $x$ に対して

  $\displaystyle
u(x) = u(x+p) = u(x+q)
$ (12)
を満たすとき、$p/q$ が無理数ならば、$u(x)$ は定数である。


証明

$0<p<q$ と仮定して構わない。$0<y<q$ となる任意の $y$ に対して、 $u(y)=u(0)$ となることを示せばよい。 補題 1 により、

  $\displaystyle
\lim_{j\rightarrow \infty}{T\left(n_j\,\frac{p}{q}\right)}
=\lim_{j\rightarrow \infty}{\left(n_j\,\frac{p}{q}+m_j\right)}=\frac{y}{q}
$ (13)
となる整数列 $\{n_j\}_j$, $\{m_j\}_j$ が存在することになる。 このとき、
$\displaystyle n_j p + m_j q \rightarrow y
$
であり、$u(x)$ は連続なので
$\displaystyle u(n_j p + m_j q) \rightarrow u(y)
$
となるが、$u(x)$$p$, $q$ を周期に持ち、$n_j$, $m_j$ は整数なので
$\displaystyle u(n_j p + m_j q) = u(0)
$
となり、よって $u(0)=u(y)$ となる。


竹野茂治@新潟工科大学
2023-07-24