4 ラグランジュ補間による部分分数分解

前節のような特別な形でなくても、 未定係数法によらずに部分分数分解する方法がある。 まず $g(x)/f(x)$$f(x)$ が異なる 1 次式の積である場合を考える。

今、 $a_1,a_2,\ldots,a_n$ はすべて異なる実数とし、

$\displaystyle
f(x)=\prod_{k=1}^n (x-a_k),
\hspace{1zw}f_j(x) = \frac{f(x)}{x-a_j} = \prod_{k\neq j}^n (x-a_k)
\hspace{0.5zw}(1\leq j\leq n)$ (4)
とする。

$\deg g(x) < \deg f(x)$ のとき、$g(x)/f(x)$ は、部分分数分解により、

$\displaystyle
\frac{g(x)}{f(x)} = \sum_{k=1}^{n}\frac{p_k}{x-a_k}$ (5)
の形になるはずである。この両辺を $f(x)$ 倍すると、
$\displaystyle
g(x)
= \sum_{k=1}^{n}\frac{p_kf(x)}{x-a_k}
= \sum_{k=1}^{n} p_kf_k(x)$ (6)
のようになり、$g(x)$ $f_1(x),\ldots,f_n(x)$ の 1 次式で 表されることになる。

逆に言えば、$g(x)/f(x)$ の部分分数分解は、 分子 $g(x)$ $f_1(x),\ldots,f_n(x)$ の 1 次式で表現することと 言い換えることができるが、 それはラグランジュ補間を利用することで可能となる。

「ラグランジュ補間」とは、ある関数 $q(x)$ に対して、 その $x=a_k$ ($1\leq k\leq n$) での値 $q_k = q(a_k)$ ($1\leq k\leq n$) を 使って $q(x)$ を多項式近似する一つの方法であり、

$\displaystyle
Lag(x) = \sum_{k=1}^n q_k\frac{f_k(x)}{f_k(a_k)}$ (7)
によって定義される整式である。


命題 2

任意の実数 $q_k$ ($1\leq k\leq n$) に対し、 $h(a_k)=q_k$ ($1\leq k\leq n$) となる $(n-1)$ 次以下の整式 $h(x)$ は常に存在し、そしてそれは (7) の $Lag(x)$ に一致する (それのみである)。

逆に $(n-1)$ 次以下の整式 $h(x)$ は、 $q_k=h(a_k)$ ($1\leq k\leq n$) とすれば (7) の形に変形される。


証明

$a_1,\ldots,a_n$ はすべて異なるから $f_k(a_k)\neq 0$ であり、 よって $(n-1)$ 次以下の整式 $Lag(x)$ は確かに (7) によって定義される。 $x=a_j$ では、$k\neq j$ に対し $f_k(a_j)=0$ であり、 よって $Lag(a_j) = q_j$ となる。これで前半が示された。

逆に、$(n-1)$ 次以下の整式 $h(x)$ に対し $h(a_k)=q_k$ ($1\leq k\leq n$) としそれに対する (7) を 考えると $Lag(x)-h(x)$ はすべての $k$ に対し $x=a_k$ で 0 に なるから、

$\displaystyle Lag(x)-h(x)=A\prod_{k=1}^n(x-a_k)
$
と書けることになるが、$Lag(x)-h(x)$$(n-1)$ 次以下なので、 $A=0$ でなければならない。 よって $Lag(x)=h(x)$ が恒等的に成り立ち、 $h(x)$ が (7) と変形できることになる。


(7) の右辺は $f_1(x),\ldots,f_n(x)$ の 1 次式であり、よって命題 2 より $(n-1)$ 次 以下の式はラグランジュ補間によって $f_1(x),\ldots,f_n(x)$ の 1 次式で表されることになる。 よって、(6) により これで $g(x)/f(x)$ の部分分数分解ができることになる。 すなわち、 $\deg g(x)<\deg f(x) = n$ に対して 命題 2 より

$\displaystyle
g(x) = \sum_{k=1}^n g(a_k)\frac{f_k(x)}{f_k(a_k)}$ (8)
となり、商 $g(x)/f(x)$ は、
$\displaystyle
\frac{g(x)}{f(x)}
= \sum_{k=1}^n \frac{g(a_k)}{f_k(a_k)}
\,\frac{f_k(x)}{f(a_k)}
= \sum_{k=1}^n \frac{g(a_k)}{f_k(a_k)}
\,\frac{1}{x-a_k}$ (9)
と部分分数分解されることになる。

これで分母が異なる 1 次式の積の場合には、 整式の商は、未定係数法によらなくても ラグランジュ補間公式により部分分数分解できることがわかった。


3

$\displaystyle I(x)=\frac{g(x)}{f(x)}=\frac{x^2+3x-22}{(x+1)(x-2)(x-3)}
$
の部分分数分解。ラグランジュ補間により、
\begin{eqnarray*}g(x)
&=&
\frac{(x-2)(x-3)}{(-1-2)(-1-3)}g(-1)
+\frac{(x+1)(x...
...)(x-2)\frac{-4}{4}
\\ &=&
-2(x-2)(x-3)+4(x+1)(x-3)-(x+1)(x-2)
\end{eqnarray*}
なので、
\begin{eqnarray*}I(x)
&=&
\frac{-2(x-2)(x-3)+4(x+1)(x-3)-(x+1)(x-2)}{(x+1)(x-2)(x-3)}
\\ &=&
\frac{-2}{x+1}+\frac{4}{x-2}+\frac{-1}{x-3}
\end{eqnarray*}
となる。 なお、通常の未定係数法の場合、
$\displaystyle I(x) = \frac{a}{x+1}+\frac{b}{x-2}+\frac{c}{x-3}
$
とおいて、両辺 $f(x)$ 倍して、
$\displaystyle x^2+3x-22 = a(x-2)(x-3)+b(x+1)(x-3)+c(x+1)(x-2)
$
これを展開して係数比較して 3 元連立方程式を解くという方法もあるが、 この場合は代入法で求める方が早い。 となって、前と同じ式が得られる。

この計算は、見てわかるように実質ラグランジュ補間の計算と同じなので、 実はラグランジュ補間を使うメリットはあまりないこともわかる。


竹野茂治@新潟工科大学
2024-12-06