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3 補題と定理の証明

互除法から導かれる次の補題は、基本的であり、かつ重要である。


補題 4

$(f(x),g(x))=1$、すなわち $f(x)$$g(x)$ が互いに素のとき、 ある整式 $\alpha(x)$, $\beta(x)$ が存在して、

\begin{displaymath}
\alpha(x)f(x)+\beta(x)g(x)=1
\end{displaymath} (2)

とできる。

逆に、このような式が成り立つような $\alpha(x)$, $\beta(x)$ が存在する場合は $(f(x),g(x))=1$ となる。


左辺が整式に見えて、右辺が 1 というのは奇妙に思うかもしれないが、これは 例えば $f(x)=x^2$, $g(x)=x+1$ の場合は、 $\alpha(x)=1$, $\beta(x)=-x+1$ によって

\begin{displaymath}
\alpha(x)f(x)+\beta(x)g(x)=x^2+(x+1)(-x+1)=1
\end{displaymath}

のようにできることを意味していて、 すなわち、 左辺の整式の定数項以外の部分が全部消えてしまうことにより そのようになる、ということである。

補題 4 の証明

互除法を利用する。 今、$F_1(x)=f(x)$, $F_2(x)=g(x)$ と書き直して、 $F_1$$F_2$ で割った商を $Q_1(x)$, 余りを $F_3(x)$ とすると、

\begin{displaymath}
F_1(x) = F_2(x)Q_1(x) + F_3(x)\hspace{1zw}(\deg F_3<\deg F_2)
\end{displaymath}

となる。同様に、 $F_2$$F_3$ で割った商を $Q_2(x)$, 余りを $F_4(x)$ とすると、

\begin{displaymath}
F_2(x) = F_3(x)Q_2(x) + F_4(x)\hspace{1zw}(\deg F_4<\deg F_3)
\end{displaymath}

となる。これを繰り返して、余りが定数になるところまで行う。
\begin{displaymath}
\begin{array}{l}
F_j(x) = F_{j+1}(x)Q_j(x) + F_{j+2}\hspac...
...eg F_{j+1},
\ j=1,2,\ldots n-2)\\
\deg F_n = 0
\end{array} \end{displaymath} (3)

$(f(x),g(x))=(F_1(x),F_2(x))=1$ であるから、$F_n$ は 0 ではない定数である。

(3) より、

\begin{displaymath}
F_n = F_{n-2}-F_{n-1}Q_{n-2}
\end{displaymath}

のように $F_n$$F_{n-2}$$F_{n-1}$ で表されるが、 (3) より

\begin{displaymath}
F_{n-1} = F_{n-3}-F_{n-2}Q_{n-3}
\end{displaymath}

であるから、これを代入すれば、

\begin{displaymath}
F_n = F_{n-2}-(F_{n-3}-F_{n-2}Q_{n-3})Q_{n-2}
= (Q_{n-3}Q_{n-2}+1)F_{n-2} - Q_{n-2}F_{n-3}
\end{displaymath}

のように $F_{n-3}$$F_{n-2}$ で表される。同様に (3) より

\begin{displaymath}
F_{n-2} = F_{n-4}-F_{n-3}Q_{n-4}
\end{displaymath}

であるからこれを代入すれば $F_n$$F_{n-4}$$F_{n-3}$ で表されることになる。 これを繰り返せば、結局

\begin{displaymath}
F_n = P(x)F_1(x) + Q(x)F_2(x) = P(x)f(x) + Q(x)g(x)
\end{displaymath}

のように表せることになる。そして、$F_n$ は 0 でない定数なので、 この式を $F_n$ で割れば

\begin{displaymath}
1 = \frac{P(x)}{F_n}f(x) + \frac{Q(x)}{F_n}g(x)
\end{displaymath}

となり、よって $\alpha(x)=P(x)/F_n$, $\beta(x)=Q(x)/F_n$ とすればよい。

逆に、(2) が成り立つ場合、 $(f(x),g(x))=p(x)$ として $f(x)$, $g(x)$$p(x)$ で割った商を $\gamma(x)$, $\delta(x)$ とすると、 $f=\gamma p$, $g=\delta p$ なので、

\begin{displaymath}
1=\alpha(x)f(x)+\beta(x)g(x)=(\alpha\gamma+\beta\delta)p
\end{displaymath}

となるが、$p$ は右辺の因子なので左辺の因子でもあり、 (よって因数分解の一意性により) $p=1$ でなければならない。 ゆえに (2) が成り立つならば $(f(x),g(x))=1$ となる。


次に、この補題 4 の表現が一意的であることを示す。


補題 5

補題 4$\alpha(x)$, $\beta(x)$

\begin{displaymath}
\deg\alpha<\deg g,\hspace{1zw}\deg\beta<\deg f
\end{displaymath}

を満たすように取ることができて、 かつそのような $\alpha(x)$, $\beta(x)$ はただ 1 組しかない。


証明

(2) を満たす $\alpha(x)$, $\beta(x)$ $\deg\alpha\geq\deg g$ のような場合は、 $\alpha(x)$$g(x)$ で割った商を $\gamma(x)$, 余りを $\tilde{\alpha}(x)$ ( $\deg\tilde{\alpha}<\deg g$) とし、 $\beta(x)$$f(x)$ で割った商を $\delta(x)$, 余りを $\tilde{\beta}(x)$ ( $\deg\tilde{\beta}<\deg f$) とすれば

\begin{displaymath}
\alpha = g\gamma + \tilde{\alpha},\hspace{1zw}
\beta=f\delta+\tilde{\beta}
\end{displaymath}

なので、(2) より

\begin{displaymath}
1 =
\alpha f+\beta g
=
(g\gamma + \tilde{\alpha})f + (f\...
...ta})g
=
(\gamma+\delta)fg+ \tilde{\alpha}f + \tilde{\beta}g
\end{displaymath}

となるので、

\begin{displaymath}
-(\gamma+\delta)fg = \tilde{\alpha}f + \tilde{\beta}g-1
\end{displaymath}

が成り立つことになる。この式の右辺は $\deg\tilde{\alpha}<\deg g$, $\deg\tilde{\beta}<\deg f$ より ( $\deg f + \deg g-1)$ 次以下であり、 左辺は $\gamma+\delta$ が 0 でなければ $(\deg f + \deg g)$ 次以上の式になるので、 $\gamma+\delta=0$ でなくてはならず、よって、

\begin{displaymath}
\tilde{\alpha}f + \tilde{\beta}g=1
\end{displaymath}

で、 $\deg\tilde{\alpha}<\deg g$, $\deg\tilde{\beta}<\deg f$ となるから、 $\alpha$, $\beta$ の代わりに $\tilde{\alpha}$, $\tilde{\beta}$ を取れば この補題の条件が満されることになる。

また、1 組しか存在しないことは次のように示される。 もしこのような整式の組が、

\begin{displaymath}
\begin{array}{lll}
\alpha_1 f + \beta_1 g=1, & \deg\alpha_...
..., & \deg\alpha_2 < \deg g, & \deg\beta_2 < \deg f
\end{array} \end{displaymath}

のように 2 組存在したとすると、引き算をすれば、

\begin{displaymath}
(\alpha_1-\alpha_2)f + (\beta_1-\beta_2)g=0
\end{displaymath}

となり、よって、

\begin{displaymath}
(\alpha_1-\alpha_2)f = (\beta_2-\beta_1)g
\end{displaymath}

となる。

今、もし $\alpha_1-\alpha_2\neq 0$ ならばこの式の左辺は 0 ではなく、 よって左辺の因子である $f$ は右辺の因子でもなければならないが、 $f$$g$ は互いに素なので、$f$ $(\beta_2-\beta_1)$ の因子で なくてはならず、 すなわち $(\beta_2-\beta_1)$$f$ で割り切れなくてはならない (因数分解の一意性)。

しかし、 $\deg(\beta_2-\beta_1)<\deg f$ だから、それは $\beta_2-\beta_1=0$ を意味する。 そしてそれは $\alpha_1-\alpha_2=0$ をも意味するので、 「 $\alpha_1-\alpha_2\neq 0$ ならば」としたことに矛盾する。 よって、背理法により $\alpha_1-\alpha_2=0$ であることになる。 そしてそれにより $\beta_2-\beta_1=0$ となり、 結局 $\alpha_1=\alpha_2$, $\beta_1=\beta_2$ となるので、 2 組は同じものになる。


この 2 つの補題 4, 5 から、 次の系 6 が導かれる。


系 6

$(f(x),g(x))=1$ のとき、 $\deg h<\deg f+\deg g$ である任意の 整式 $h(x)$ に対して、 ある整式 $p(x)$, $q(x)$ が存在して、

\begin{displaymath}
h(x)=p(x)f(x)+q(x)g(x),
\hspace{1zw}\deg p<\deg g,\hspace{0.5zw}\deg q<\deg f
\end{displaymath} (4)

とできる。 このような $p(x)$, $q(x)$ はただ一組だけ存在する。


証明

これは、(2) の両辺を $h(x)$ 倍して、

\begin{displaymath}
h=h\alpha f+ h\beta g
\end{displaymath}

として、補題 5 の証明で行ったように、 $h\alpha$$g$ で割った余りを $p$, $h\beta$$f$ で割った余りを $q$ とすればよくて、 その証明の論法が、ただ一組であることの証明も含めて、 そのまま利用できる。


この系 6 の (4) の両辺を $fg$ で割ると

\begin{displaymath}
\frac{h}{fg} = \frac{p}{g}+\frac{q}{f},
\hspace{1zw}(\deg p<\deg g,\hspace{0.5zw}\deg q<\deg f)
\end{displaymath}

となるので、ここから直ちに定理 1 が得られることがわかる。

2 は、定理 1 を繰り返し使えば得られる。 例えば、$n=3$ のときは、 $B_1$$B_2B_3$ は互いに素なので、

\begin{displaymath}
\frac{A}{B_1B_2B_3} = \frac{A_1}{B_1}+\frac{C_1}{B_2B_3},
\hspace{1zw}(\deg A_1 < \deg B_1,\ \deg C_1 < \deg B_2B_3)
\end{displaymath}

となる $A_1$, $C_1$ が存在し、$B_2$$B_3$ は互いに素なので、

\begin{displaymath}
\frac{C_1}{B_2B_3} = \frac{A_2}{B_2} + \frac{A_3}{B_3},
\hspace{1zw}(\deg A_2 < \deg B_2,\ \deg A_3 < \deg B_3)
\end{displaymath}

となる $A_2$, $A_3$ が存在するから、結局

\begin{displaymath}
\frac{A}{B_1B_2B_3} = \frac{A_1}{B_1}+\frac{A_2}{B_2}+\frac{A_3}{B_3}
\end{displaymath}

となる、といった具合である。


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竹野茂治@新潟工科大学
2006年6月2日