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3 補題と定理の証明
互除法から導かれる次の補題は、基本的であり、かつ重要である。
補題 4
、すなわち と が互いに素のとき、
ある整式 , が存在して、
|
(2) |
とできる。
逆に、このような式が成り立つような
, が存在する場合は
となる。
左辺が整式に見えて、右辺が 1 というのは奇妙に思うかもしれないが、これは
例えば , の場合は、
, によって
のようにできることを意味していて、
すなわち、
左辺の整式の定数項以外の部分が全部消えてしまうことにより
そのようになる、ということである。
補題 4 の証明
互除法を利用する。
今、, と書き直して、
を で割った商を , 余りを とすると、
となる。同様に、
を で割った商を , 余りを とすると、
となる。これを繰り返して、余りが定数になるところまで行う。
|
(3) |
であるから、 は 0 ではない定数である。
(3) より、
のように は と で表されるが、
(3) より
であるから、これを代入すれば、
のように と で表される。同様に
(3) より
であるからこれを代入すれば が
と で表されることになる。
これを繰り返せば、結局
のように表せることになる。そして、 は 0 でない定数なので、
この式を で割れば
となり、よって
,
とすればよい。
逆に、(2) が成り立つ場合、
として
, を で割った商を , とすると、
, なので、
となるが、 は右辺の因子なので左辺の因子でもあり、
(よって因数分解の一意性により) でなければならない。
ゆえに (2) が成り立つならば となる。
次に、この補題 4 の表現が一意的であることを示す。
補題 5
補題 4 の , は
を満たすように取ることができて、
かつそのような , はただ 1 組しかない。
証明
(2) を満たす , が
のような場合は、
を で割った商を ,
余りを
(
)
とし、
を で割った商を ,
余りを
(
)
とすれば
なので、(2) より
となるので、
が成り立つことになる。この式の右辺は
,
より (
次以下であり、
左辺は が 0 でなければ
次以上の式になるので、
でなくてはならず、よって、
で、
,
となるから、
, の代わりに
, を取れば
この補題の条件が満されることになる。
また、1 組しか存在しないことは次のように示される。
もしこのような整式の組が、
のように 2 組存在したとすると、引き算をすれば、
となり、よって、
となる。
今、もし
ならばこの式の左辺は 0 ではなく、
よって左辺の因子である は右辺の因子でもなければならないが、
と は互いに素なので、 は
の因子で
なくてはならず、
すなわち
は で割り切れなくてはならない
(因数分解の一意性)。
しかし、
だから、それは
を意味する。
そしてそれは
をも意味するので、
「
ならば」としたことに矛盾する。
よって、背理法により
であることになる。
そしてそれにより
となり、
結局
,
となるので、
2 組は同じものになる。
この 2 つの補題 4, 5 から、
次の系 6 が導かれる。
系 6
のとき、
である任意の
整式 に対して、
ある整式 , が存在して、
|
(4) |
とできる。
このような , はただ一組だけ存在する。
証明
これは、(2) の両辺を 倍して、
として、補題 5 の証明で行ったように、
を で割った余りを ,
を で割った余りを とすればよくて、
その証明の論法が、ただ一組であることの証明も含めて、
そのまま利用できる。
この系 6 の (4) の両辺を で割ると
となるので、ここから直ちに定理 1 が得られることがわかる。
系 2 は、定理 1 を繰り返し使えば得られる。
例えば、 のときは、
と は互いに素なので、
となる , が存在し、 と は互いに素なので、
となる , が存在するから、結局
となる、といった具合である。
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竹野茂治@新潟工科大学
2006年6月2日