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4 代数学の基本定理

3 節で、主定理 1 の証明が終了したが、 教科書 [1] には、さらに、
$B(x)$ を実数係数の範囲でできるだけ因数分解して

\begin{displaymath}
B(x)=K(x-a)^p(x-b)^q\cdots\{(x-c)^2+d^2\}^m\{(x-e)^2+f^2\}^n\cdots
\end{displaymath}

の形 (1 次式と、判別式が負の 2 次式の積) に書く
と書かれている ([1], §24 p114)。

これは代数学の基本定理と呼ばれる次の定理から導かれる。


定理 7

複素数係数の $n$ 次式は、 複素数の範囲で $n$ 個の 1 次式の積に因数分解可能である。


この定理の証明は容易ではなく、さすがにここで行うことはできないが、 この定理と次の事実を用いれば、上に述べた教科書の記述は説明できる。


命題 8

実数係数の整式が $x-(a+bi)$ ($a,b$ は実数、$b\neq 0$, $i$ は虚数単位) という因子を持てば、 その整式は必ず $x-(a-bi)$ という因子も持つ。


複素数 $z=a+bi$ に対して、$\bar{z}=a-bi$$z$共役複素数 という。

命題 8 の証明

まず、複素数の共役に関して、次を示す。

\begin{displaymath}
\overline{z+w}=\bar{z}+\bar{w},\hspace{1zw}\overline{zw}=\bar{z}\bar{w}
\end{displaymath} (5)

これは、$z=a+bi$, $w=c+di$ とすると、

\begin{eqnarray*}\overline{z+w}
&=&
\overline{(a+c)+(b+d)i}
=
(a+c)-(b+d)i,\...
...ne{a+bi}\:\overline{c+di}
=
(a-bi)(c-di)
=
(ac-bd)-(bc+ad)i
\end{eqnarray*}

となり、確かに成立する。

今、整式

\begin{displaymath}
f(x)=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_1 x+a_0
\hspace{1zw}(a_j \mbox{ はすべて実数})
\end{displaymath}

が、$x-(a+bi)$ という因子を持つとすると $x=a+bi(=z)$ を代入すると

\begin{displaymath}
f(z)=a_n z^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots+a_1 z+a_0=0
\end{displaymath}

となることになる。この式の共役を考えると、(5) により

\begin{eqnarray*}0
&=&
\overline{a_n z^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots+a_1 z+a_0}
\\...
...z}+a_0
\\ && \mbox{($a_j$\ は実数なので $\overline{a_j}=a_j$)}
\end{eqnarray*}

すなわち $f(\bar{z})=0$ となるので、 よって $f(x)$ $x-\bar{z}=x-(a-bi)$ も因子にもつことになる。



系 9

実数係数の整式が $\{x-(a+bi)\}^m$ ($b\neq 0$) という因子を持てば、 その整式は必ず $\{x-(a-bi)\}^m$ という因子も持つ。


証明

実数係数の整式 $f(x)$ $\{x-(a+bi)\}^m$ という因子を持つ場合、 命題 8 により少なくとも $x-(a-bi)$ という因子を持ち、 よって、$f(x)$

\begin{displaymath}
\{x-(a+bi)\}\{x-(a-bi)\}
=\{(x-a)+bi\}\{(x-a)-bi\}
=(x-a)^2+b^2
\end{displaymath}

という実数係数の 2 次式で割り切れることになるから、その商

\begin{displaymath}
g(x)=\frac{f(x)}{(x-a)^2+b^2}
\end{displaymath}

も実数係数の多項式で、 これは $\{x-(a+bi)\}^{m-1}$ という因子を持つことになるので、 これも $x-(a-bi)$ という因子を持つ。 これを繰り返せばよい。


この命題 8 と 系 9 により、 $\{x-(a+bi)\}^m$ という因子に対しては $\{x-(a-bi)\}^m$ という因子があり、それをペアで考えれば、

\begin{displaymath}
\{x-(a+bi)\}^m\{x-(a-bi)\}^m
=\{(x-a)+bi\}^m\{(x-a)-bi\}^m
=\{(x-a)^2+b^2\}^m
\end{displaymath}

となるので、結局教科書 [1] にあるように、実数係数の範囲で

\begin{displaymath}
(x-a)^p,\hspace{1zw}\{(x-c)^2+d\}^m
\end{displaymath}

の形の因子に因数分解されることになる。


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竹野茂治@新潟工科大学
2006年6月2日