2 通常の公式の性質

まず、公式 1 と公式 2 が同等であるのは明らかだと思うが、 部分積分の公式自体は「積の微分の公式」を積分することで得られる。
\begin{displaymath}
(uv)' = u'v+uv'
\end{displaymath}

であるから、
\begin{displaymath}
uv = \int u'v\,dx + \int uv'\,dx
\end{displaymath}

より、右辺の積分を左辺に 1 つ移項すれば公式 1 が得られるわけである。

公式 1 の長所は以下の点であろう。

逆に以下のような短所もある。

公式 1 を使用する場合の典型的な間違いは、 $\displaystyle \int x\cos x\,dx$ を例にとれば以下のようなものである。

$\displaystyle \int x\cos x\,dx$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int x(\cos x)'\,dx = x\cos x - \int (x)'\cos x\,dx$ (1)
$\displaystyle \int x\cos x\,dx$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int x(\cos x)'\,dx = x\sin x - \int (x)'\cos x\,dx$ (2)
$\displaystyle \int x\cos x\,dx$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int x(\sin x)'\,dx = x\cos x - \int (x)'\sin x\,dx$ (3)
$\displaystyle \int x\cos x\,dx$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int x(\sin x)'\,dx = x\sin x + \int (x)'\sin x\,dx$ (4)
$\displaystyle \int x\cos x\,dx$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int\left(\frac{x^2}{2}\right)'\cos x\,dx
= \frac{x^2}{2}\,\cos x - \int\frac{x^2}{2}\,(\cos x)'\,dx$ (5)

(1) から (4) は公式の記憶ミスや使い方のミスで、 (1), (2) は 短所 1 によるもの、 (3), (4) は 短所 2 による間違いである。 (5) は計算自体に間違いはないが、方針のミスである。

この 短所 1 による間違いは、 教科書 [1] に載っている例が $\displaystyle \int xe^x\,dx$ であることにも原因があるように思う。 $e^x$ は微分も積分も $e^x$ だから、 その例で部分積分の公式を理解しようとする学生は (1), (2) のようにしてよい、 と考えた可能性はある。

もちろん、講義ではそのような勘違いが起きないように、 $xe^x$ ではなく上の $x\cos x$ の積分で説明をしているのであるが、 それでもこのような間違いがでるところを見ると、学生は、

という状況なのかもしれないが、 このような間違いが必ずある割合は出てくるように思う。

最近、どうせ公式の記憶違いをするのであれば、 短所 2 よりも多分ハードルが高いと思われる 短所 1 を解消できる公式 2 の方がいいのでは、 と思うようになってきた。 しかし、公式 1 もちゃんと使えるようになると、 長所 2 に書いたように公式 2 よりも間違いにくいところもある。 これは、3 節で説明しよう。

竹野茂治@新潟工科大学
2010年3月16日