3 場合分けしない証明

本節では、公式 2.6 の場合分けをしない証明を紹介する。 むしろ、解析の教科書で「公式 2.6 の厳密な証明」という場合は、 通常はこちらの証明が書いてあることの方が多い。

まず、仮定 (1), (2) を書き直すところから始める。

一般に極限 (8) は、 $G(x)=F(x)-p$ とおけば、これは $x\neq a$$a$ の近くで定義され、

  $\displaystyle
\lim_{x\rightarrow a}{G(x)} = 0$ (10)
となるが、さらに $G(a)$$G(a)=0$ と定義すれば、 $G(x)$$a$ の近くで定義され、 (8) は $G(x)$$x=a$ で連続、ということと同値になる。

これと同様にして、(1) から $G(\Delta x)$

  $\displaystyle
G(\Delta x) =
\left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle \frac{g(...
...}{\Delta x}-g'(a) & (\Delta x\neq 0)\\
0 & (\Delta x = 0)
\end{array}\right.$ (11)
と定義し、(2) から $F(\Delta u)$
  $\displaystyle
F(\Delta u) =
\left\{\begin{array}{ll}
\displaystyle \frac{f(...
...}{\Delta u}-f'(b) & (\Delta u\neq 0)\\
0 & (\Delta u = 0)
\end{array}\right.$ (12)
と定義すると、$G(\Delta x)$, $F(\Delta u)$ はそれぞれ 0 で連続となり、 それがそれぞれ (1), (2) の仮定と同値になる。

$\Delta x\neq 0$ のときは、(11) より

  $\displaystyle
g(a+\Delta x)-g(a) = (g'(a)+G(\Delta x))\Delta x$ (13)
となるが、これは $\Delta x = 0$ のときも両辺 0 となるので成立する。 同様に、 $\Delta u\neq 0$ のときは、(12) より
  $\displaystyle
f(b+\Delta u)-f(b) = (f'(b)+F(\Delta u))\Delta u$ (14)
となるが、これも $\Delta u=0$ のときも両辺 0 となり成立する。

これらにより、 $\Delta u = g(a+\Delta x)-g(a)$ とし、 $h(a+\Delta x)-h(a)$$F$, $G$, $\Delta x$ で表すと ($\Delta u$ が 0 であるかないかに関わらず)、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{h(a+\Delta x)-h(a)
\ =\
f(g(a+\Delta x))-f(g(a))
\...
...(b)+F((g'(a)+G(\Delta x))\Delta x)\}\{g'(a)+G(\Delta x)\}\Delta x\end{eqnarray*}
となるので、
  $\displaystyle
\frac{h(a+\Delta x)-h(a)}{\Delta x}
=\{f'(b)+F((g'(a)+G(\Delta x))\Delta x)\}\{g'(a)+G(\Delta x)\}$ (15)
となり、よって $\Delta x\rightarrow 0$ とすると、 $F$, $G$ の 0 での連続性、およびその値 (極限) が 0 であることから、 右辺は $f'(b)g'(a)$ に収束することがわかる。 よって、$h(x)$$x=a$ で微分可能で、その微分係数は $f'(b)g'(a)$ となる。 これで公式 2.6 が証明されたことになる。

この証明の場合は、微分可能性を $F$, $G$ を使って表現することにより $\Delta u$ での割算を避けていて、 それにより前節の証明のような場合分けが必要なくなっている。 しかしこの証明の場合メリットはそれ位で、 逆にこの証明だと元々の合成関数の微分が どうしてその形になるのかが見えにくくなっていて、 よってそれほどいい証明とも言えないと思う。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-10-24