2 教科書の証明

まず、公式 2.6 の正確な形を紹介する。
$u=g(x)$$x=a$ で微分可能、すなわち
  $\displaystyle
\lim_{\Delta x\rightarrow 0}\frac{g(a+\Delta x)-g(a)}{\Delta x}=g'(a)
$ (1)
の極限値が存在し、$y=f(u)$$u=b=g(a)$ で微分可能、すなわち
  $\displaystyle
\lim_{\Delta u\rightarrow 0}\frac{f(b+\Delta u)-f(b)}{\Delta u}=f'(b)
$ (2)
の極限値が存在するとき、合成関数 $y=h(x)=f(g(x))$$x=a$ で微分可能で、 その微分係数 $h'(a)$
  $\displaystyle
h'(a)=\lim_{\Delta x\rightarrow 0}\frac{h(a+\Delta x)-h(a)}{\Delta x}=f'(b)g'(a)
=f'(g(a))g'(a)
$ (3)
となる。
まず、この公式の、高校の教科書などに書かれている証明を改めて紹介する。
証明
  $\displaystyle
\frac{h(a+\Delta x)-h(a)}{\Delta x}
= \frac{f(g(a+\Delta x))-f(g(a))}{\Delta x}
$ (4)
であり、 $\Delta u = g(a+\Delta x)-g(a)$ とすれば $g(a+\Delta x)=\Delta u+g(a)=\Delta u+b$ で、 また仮定 (1) より
  $\displaystyle
\lim_{\Delta x\rightarrow 0}{\Delta u}
= \lim_{\Delta x\rightarrow 0}{\{g(a+\Delta x)-g(a)\}} = 0
$ (5)
となるので、(4) は、

$\displaystyle {\frac{h(a+\Delta x)-h(a)}{\Delta x}
= \frac{f(b+\Delta u)-f(b)}{\Delta x}}$
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{f(b+\Delta u)-f(b)}{\Delta u}\times\frac{\Delta u}{\Delta x}$(6)
  $\textstyle =$ $\displaystyle \frac{f(b+\Delta u)-f(b)}{\Delta u}\times\frac{g(a+\Delta x)-g(a)}{\Delta x}$(7)
と書ける。よって、(5), および仮定 (1), (2) により (7) は $\Delta x\rightarrow 0$ の ときに $f'(b)g'(a)=f'(g(a))g'(a)$ に収束するので (3) が成り立つ。
(証明おわり)

高校の教科書などの証明はこれで終わりなのであるが、 講義の教科書 [1] の付録にある証明で指摘している通り、 上の証明には問題がある。それは、(6) の式変形の部分である。 元々、

  $\displaystyle
\lim_{x\rightarrow a}{F(x)} = p$ (8)
の定義は、「$x$$x\neq a$ の状態を保ちながら $a$ に近づくとき、 それはどのような近づきかたをしても $F(x)$ の値が $p$ に近づくこと」 であり、特定の点列を除外して近づくことは許されない。

一方で、 $\Delta u = g(a+\Delta x)-g(a)$ は、 $\Delta x$ が 0 に近づくときに途中で $\Delta u$ が 0 の値を取ることは 十分ありうるし、それが無限個の場合もありうる。その簡単な例は、 $g(x)=c$ (定数) の場合であり、 教科書 [1] に書いてあるような $a$ の近くで無限に振動する場合もある。 ところが $\Delta u=0$ となる $\Delta x$ では 当然 (6) の式変形が行えず、 よってそのような $\Delta x$ に対しては (6), (7) では $f'(b)g'(a)$ に 収束することが示せていない、ということが問題となる。

これを、場合分けして考えるのが教科書の付録にある証明であるが、 少しそれを明確にするために次のような集合を導入しよう。 十分小さい $\delta > 0$ に対して、集合 $A(\delta)$, $B(\delta)$

  $\displaystyle
\left\{\begin{array}{ll}
A(\delta) &= \{\Delta x\in (-\delta,\d...
...(-\delta,\delta)\setminus \{0\};\
g(a+\Delta x)-g(a)= 0\}
\end{array}\right.$ (9)
と定める。もし十分小さい $\delta$ に対して $B(\delta)$ が空集合になれば、 $-\delta<\Delta x<\delta$, $\Delta x\neq 0$ に対して、 $\Delta u = g(a+\Delta x)-g(a)\neq 0$ なので上の論法で証明は終了する。

問題なのは、どんなに小さい $\delta$ に対しても $B(\delta)$ が空集合に ならない場合、すなわち $B(\delta)$ の中に少なくとも 0 に収束するような $\Delta x$ の無限列が存在する場合である。以下、そのような場合を考える。

この場合、逆に $A(\delta)$ が空になる場合もあるが、$A(\delta)$ 内で 0 に収束するような $\Delta x$ の列に対しては、上の論法により (4) が $f'(b)g'(a)$ に収束することは言える。

$B(\delta)$ 内で 0 に収束するような $\Delta x$ の列を $\{\Delta x_n\}_{n=1,2,\ldots} (\subset B(\delta))$ と 書くことにすると、 $g(a+\Delta x_n)-g(a)=0$ であり、 よって $n\rightarrow\infty$ に対して、仮定 (1) により

$\displaystyle 0 = \frac{g(a+\Delta x_n)-g(a)}{\Delta x_n} \rightarrow g'(a)
$
なので、この場合は $g'(a)=0$ でなければいけないことになる。 そして、当然
$\displaystyle h(a+\Delta x_n) - h(a)
= f(g(a+\Delta x_n))-f(g(a))
= f(g(a))-f(g(a))
= 0
$
であるから、以上により以下が言えたことになる。 これらにより、$\Delta x$ がどのように近づいても (4) は 0 に収束することになり、 すなわちその極限の存在が保証され、 まず $h(x)$$x=a$ で微分可能であることがわかる。 そして、その微分係数 $h'(a)$ は 0 であり、 それは確かに $f'(b)g'(a)=0$ に一致することになる。

これで、$B(\delta)$ の中に少なくとも 0 に収束するような $\Delta x$ の無限列が存在する場合でも、 公式 2.6 が成り立つことが示されたことになる。

教科書 [1] 付録の証明も、ほぼ同じことを言っているのであるが、 若干説明が足りないので、やや理解しにくいのではないかと思う。

竹野茂治@新潟工科大学
2022-10-24