2 放物線

まずは放物線 $y=Ax^2$$[0,a]$ ($a>0$) の範囲の曲線長 $L=L_1(a,A)$ を 求めてみる。

なお、$y=Ax^2$$y=x^2$$y$ 方向に $A$ 倍したものだが、 $y=Ax^2$$[0,a]$ での曲線長 $L_1(a,A)$ は、 $y=x^2$$[0,a]$ での曲線長 $L_1(a,1)$$A$ 倍にはならない、すなわち $L_1(a,A)\neq AL_1(a,1)$ である ことに注意する。 それは $y$ 方向の拡大は、傾きが大きいときには曲線長に大きく影響するが、 傾きが小さいときは小さくしか影響しないため、 曲線長に対しては場所によって $A$ 倍の影響が異なってしまうからである。 ただし、後で示すように放物線の場合は $L_1(a,A)$$L_1(a,1)$ に 帰着される。

また、$a>0$ に対する $L_1(a,A)$ がわかれば、 対称性から $[-a,0]$ での放物線の曲線長は $L_1(a,A)$ に等しいので、 $a<0$ に対して

  $\displaystyle
L_1(a,A) = -L_1(\vert a\vert,A)$ (2)
と定義することにすれば、$[b,a]$ での長さは常に $L_1(a,A)-L_1(b,A)$ と 表されることになる。それは、 $b<0\leq a$ の場合は $[b,a]$ での長さは
$\displaystyle L_1(a,A) + L_1(\vert b\vert,A) = L_1(a,A) - L_1(b,A)
$
となり、また $b<a<0$ の場合は $[b,a]$ での長さは、
$\displaystyle L_1(\vert b\vert,A) - L_1(\vert a\vert,A) = -L_1(b,A) - (-L_1(a,A))
= L_1(a,A)-L_1(b,A)
$
となるからである。

また、$A<0$ に対しては、対称性より

  $\displaystyle
L_1(a,A) = L_1(a,\vert A\vert)$ (3)
となるので、$A>0$ の場合のみ考えればよい。 よって、以後は $a>0$, $A>0$ と仮定する。

さて、$y=Ax^2$ に対しては $y'=2Ax$ なので、(1) より

  $\displaystyle
L_1(a,A) = \int_0^a \sqrt{1+4A^2x^2}\,dx$ (4)
となる。この積分を $Ax=t$ と置換すれば、
$\displaystyle L_1(a,A) = \int_0^{Aa} \sqrt{1+4t^2}\,dt
$
となるが、この式は、
  $\displaystyle
L_1(a,A) = L_1(Aa,1) \hspace{0.5zw}(A>0,\ a>0)$ (5)
を意味し、よって $L_1(a,A)$$L_1(a,1)$ に帰着できることがわかる。 なお、すべての曲線に対しこのようなことが成り立つわけではない。 よって以後しばらくは、
  $\displaystyle
L_1(a,1) = \int_0^{a} \sqrt{1+4x^2}\,dx$ (6)
を考える。この積分も易しくはないが、 置換積分で計算が可能である。よく知られているように、
$\displaystyle \sqrt{1+4x^2} - 2x = t
$
と置換すると鮮やかに一度で計算できるのだが、 ここではよりシンプルな三角関数の 2 回の置換で計算する。 まず、$2x=\tan\theta$ ( $0\leq\theta<\pi/2$) と置換すると、
$\displaystyle \sqrt{1+4x^2}=\sqrt{1+\tan^2\theta}=\frac{1}{\cos\theta},
\hspace{1zw}dx=\frac{1}{2\cos^2\theta}\,d\theta
$
であり、$x=a$ $\theta=\tan^{-1}2a$ に対応するので、
$\displaystyle L_1(a,1)$ $\textstyle =$ $\displaystyle \int_0^{\tan^{-1}2a}\frac{1}{\cos\theta}\,\frac{d\theta}{2\cos^2\theta}
\ =\
\int_0^{\tan^{-1}2a}\frac{\cos\theta\,d\theta}{2\cos^4\theta}$ 
  $\textstyle =$ $\displaystyle \int_0^{\tan^{-1}2a}\frac{\cos\theta\,d\theta}{2(1-\sin^2\theta)^2}$(7)
となる。ここで、$u=\sin\theta$ と置換すると、 $\cos\theta\,d\theta=du$ で、 $\theta=\tan^{-1}2a$ のときは、 $\tan\theta = 2a$ より
$\displaystyle u
= \sin\theta
= \tan\theta\cos\theta
= \frac{\tan\theta}{\sqrt{\tan^2\theta + 1}}
= \frac{2a}{\sqrt{4a^2+1}}
$
となるので、
  $\displaystyle
L_1(a,1) = \int_0^{2a/\sqrt{4a^2+1}}\frac{du}{2(1-u^2)^2}$ (8)
となる。 ここで、
\begin{eqnarray*}\frac{1}{2(1-u^2)^2}
&=&
\frac{1}{2}\left\{\frac{1}{(1-u)(1+u...
...-u)^2} + \frac{1}{(1+u)^2}
+\frac{1}{1-u} +\frac{1}{1+u}\right\}\end{eqnarray*}
なので、
\begin{eqnarray*}\int\frac{du}{2(1-u^2)^2}
&=&
\frac{1}{8}\left(\frac{1}{1-u} ...
...{-.5ex}{\scriptsize$e$}}\left\vert\frac{1+u}{1-u}\right\vert
+ C\end{eqnarray*}
となり、 $u=2a/\sqrt{4a^2+1}$ のとき、
\begin{eqnarray*}\frac{u}{4(1-u^2)}
&=&
\frac{\displaystyle \frac{a}{\sqrt{4a^...
...{\sqrt{4a^2+1}+2a}{\sqrt{4a^2+1}-2a}
\ =\
(\sqrt{4a^2+1}+2a)^2\end{eqnarray*}
となるので、よって、$a>0$ に対し、
  $\displaystyle
L_1(a,1)=\frac{a}{2}\sqrt{4a^2+1}+\frac{1}{4}\log_{\raisebox{-.5ex}{\scriptsize$e$}}(\sqrt{4a^2+1}+2a)$ (9)
が得られる。一般の $A$($>0$) に対しては、 (5), (9) より
  $\displaystyle
L_1(a,A)
=
\frac{aA}{2}\sqrt{4a^2A^2+1}
+\frac{1}{4}\log_{\raisebox{-.5ex}{\scriptsize$e$}}(\sqrt{4a^2A^2+1}+2aA)$ (10)
となる。

なお、この式では、$a<0$ に対して

$\displaystyle \sqrt{4a^2A^2+1}+2aA = \sqrt{4a^2A^2+1}-2\vert a\vert A
= \frac{1}{\sqrt{4a^2A^2+1}+2\vert a\vert A}
$
が成り立ち、よって (10) は 自然に (2) の関係も満たすことがわかる。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-12-11