7 回転変換の軸回転行列による表現

本節では、回転軸ベクトル $\mbox{\boldmath$n$}$ の回りの $\psi$ 回転の回転変換を、 軸回転行列で表現すること、およびその角の計算について考察する。

回転変換を直交行列で表現すること、およびその逆の直交行列から回転変換の 軸と角を求める方法は 5 節で考察し、 直交行列を軸回転行列で表現することは 6 節で考察したが、 回転変換を 6 節のような 3 つの軸回転行列の 合成で表現することは実はそれほど容易ではない。 もちろん、5 節、6 節の話をつなげて、 途中に直交行列を介在することで、回転変換を直交行列で表してそれを 軸回転行列で表すことは原理的には不可能ではないが、 あまり綺麗にはならない。

例えば、6 節の最後に述べた方法で、 回転変換の表現行列 (41) から 軸回転の角 $\theta'$ を求めようとすると、

$\displaystyle \sin\theta' = c_3 = \cos\psi+n_3^2(1-\cos\psi),\hspace{1zw}
\cos\theta' = \sqrt{1-(\cos\psi+n_3^2(1-\cos\psi))^2}
$

のようになってしまって、簡単な式にはならない。 すなわち、回転変換の表現行列 (41) を 角 $\phi$, $\theta$, $\psi$ を用いて表すことは可能で、 そしてそれを軸回転角の $\phi'$, $\theta'$, $\psi'$ で 表すことは可能だ (解はある) が、その解を表す式は易しくなく、 それらの角同士の関係は綺麗な形にはならない。

例えば、逆に (44) から回転変換の 回転軸ベクトル $\mbox{\boldmath$n$}$ を計算することも一応はできるが、 これもあまり綺麗な式にはならない。それを少し紹介する。 (44) の回転軸ベクトルを $\mbox{\boldmath$n$}$ とすると、

  $\displaystyle
A\mbox{\boldmath$n$}=A_z(\phi)A_y\left(\frac{\pi}{2}\,-\theta\right)A_z(\psi)\mbox{\boldmath$n$}
= \mbox{\boldmath$n$}$ (46)
より、

$\displaystyle A_y\left(\frac{\pi}{2}\,-\theta\right)A_z(\psi)\mbox{\boldmath$n$} = A_z(-\phi)\mbox{\boldmath$n$}
$

となるが、 $A_z(\psi)\mbox{\boldmath$n$}=\mbox{\boldmath$m$}$ と書くと、 補題 6 より $A_z(-\phi) = A_z(-\phi-\psi)A_z(\psi)$ と なるので、
  $\displaystyle
A_y\left(\frac{\pi}{2}\,-\theta\right)\mbox{\boldmath$m$} = A_z(-\phi-\psi)\mbox{\boldmath$m$}$ (47)
となる。

$\displaystyle A_y\left(\frac{\pi}{2}\,-\theta\right) - A_z(-\phi-\psi)
=\left[\...
...{1-\cos(\phi+\psi)}&{0}\\
{-\cos\theta}&{0}&{\sin\theta-1}\end{array}\right]
$

なので、(47) となる $\mbox{\boldmath$m$}$ は、 $\sin\theta\neq 1$ かつ $\cos(\phi+\psi)\neq 1$ であれば
  $\displaystyle
\mbox{\boldmath$m$}=k\,{}^T\!{
\left(1,\frac{-\sin(\phi+\psi)}{1-\cos(\phi+\psi)},
\frac{-\cos\theta}{1-\sin\theta}\right)}$ (48)
と書ける ($k$ はスカラー)。このとき $\mbox{\boldmath$n$}$ は、
$\displaystyle \mbox{\boldmath$n$}$ $\textstyle =$ $\displaystyle A_z(-\psi)\mbox{\boldmath$m$}
\ =\
k\left[\begin{array}{ccc}{\co...
...i+\psi)}}\\  {\displaystyle \frac{-\cos\theta}{1-\sin\theta}}\end{array}\right]$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle k\left[\begin{array}{c}{\cos\psi-\sin\psi\sin(\phi+\psi)/(1-\cos(...
...phi+\psi)/(1-\cos(\phi+\psi)}\\  {-\cos\theta/(1-\sin\theta)}\end{array}\right]$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle k\left[\begin{array}{c}{(\cos\psi-\cos\psi\cos(\phi+\psi)-\sin\ps...
...+\psi))/
(1-\cos(\phi+\psi))}\\  {-\cos\theta/(1-\sin\theta)}\end{array}\right]$  
  $\textstyle =$ $\displaystyle k\left[\begin{array}{c}{(\cos\psi-\cos\phi)/(1-\cos(\phi+\psi))}\...
...sin\phi)/(1-\cos(\phi+\psi))}\\  {-\cos\theta/(1-\sin\theta)}\end{array}\right]$ (49)

となる。$k$ は、

\begin{eqnarray*}\lefteqn{\left(\frac{\cos\psi-\cos\phi}{1-\cos(\phi+\psi)}\righ...
...1-\sin\theta}\right)^2
\ =\
\frac{1+\sin\theta}{1-\sin\theta}}\end{eqnarray*}

より、
  $\displaystyle
k=\frac{\pm 1}{\sqrt{\displaystyle \frac{2}{1-\cos(\phi+\psi)}
+\frac{1+\sin\theta}{1-\sin\theta}}}$ (50)
となる。

$\sin\theta=1$ の場合は、$\theta=\pi/2$ より $A_y(\pi/2-\theta)=A_y(0)=E$ と なり、

$\displaystyle A = A_z(\phi)A_z(\psi)=A_z(\phi+\psi)
$

となるので、 $\phi+\psi\neq 0$ であれば回転軸ベクトルは $\mbox{\boldmath$n$}=\mbox{\boldmath$k$}$ と取れるが、 $\phi+\psi=0$ なら $A=E$ となり回転を表さない。

$\sin\theta\neq 1$ $\cos(\phi+\psi)=1$ であれば、 $\phi+\psi=0$ なので、(47) は

$\displaystyle A_y\left(\frac{\pi}{2}\,-\theta\right)\mbox{\boldmath$m$} = \mbox{\boldmath$m$}
$

となり、よって $\mbox{\boldmath$m$}=\mbox{\boldmath$j$}$ と取れるから、

$\displaystyle \mbox{\boldmath$n$}=A_z(-\psi)\mbox{\boldmath$j$} = \left[\begin{array}{c}{\sin\psi}\\ {\cos\psi}\\ {0}\end{array}\right]
$

となる。

(49), (50) により回転軸 ベクトル $\mbox{\boldmath$n$}$ を (46) の 軸回転角 $\psi,\phi,\theta$ で表すことができ、 まだ多少の変形は可能ではあるが、 あまり綺麗な形にはならないことがわかるだろう。 つまり、(44) の形と回転変換は あまり相性がよくない。

しかし、「3 つの軸回転行列の合成での表現」という制約を取り除けば 回転変換を軸回転行列で表現することは比較的容易である。

回転軸ベクトル $\mbox{\boldmath$n$}$ $\mbox{\boldmath$p$}(\phi ,\theta )$ の形で表せば、 図 3 $\mbox{\boldmath$n$}$ の回りの $\psi$ 回転は、

  1. $\mbox{\boldmath$n$}$ $\mbox{\boldmath$k$}$ に移動するような回転、 すなわち $z$ 軸に関して $-\phi$ 回転して $\mbox{\boldmath$n$}$$xz$ 平面に移動し、 次に $y$ 軸に関して ($z$ 軸から $x$ 軸方向へ) $-(\pi/2-\theta)$ 回転 をして、
  2. そののちに $z$ 軸に関して $\psi$ 回転して、
  3. 1. の逆、すなわち、$y$ 軸に関して $(\pi/2-\theta)$ 回転してから $z$ 軸に関して $\phi$ 回転
とすることで実現できることがわかる。すなわち、
  $\displaystyle
A = A_z(\phi)A_y\left(\frac{\pi}{2}\,-\theta\right)A_z(\psi)
A_y\left(\theta-\,\frac{\pi}{2}\right)A_z(-\phi)$ (51)
のように 5 個の軸回転行列の積で表現できることになる。

計算はかなり煩雑なので省略するが、 これを展開すると、実際 (51) が (41)、すなわち (40) に 一致することを確認することもできる。

竹野茂治@新潟工科大学
2021-09-01