5 行列値関数と導関数
本節の内容は、行列が正方行列である必要はない。
定義 5.1
- 成分が実数変数 の関数 (関数値は実数でも
複素数でも構わない) である行列
を行列値関数と呼ぶ。
- 行列値関数 に対し、
極限
を、
で定義する。
これは、すべての成分に対し
となることと同値である。
- 行列値関数 が で連続であるとは、
が の近傍で定義され、
かつ
を満たすこととする。
これは、すべての成分が で連続であることと同値である。
これは通常の 1 変数関数と同様の定義であるが、区間での連続性や、
半連続性なども通常の 1 変数関数と同様に定義する。
- 行列値関数 が で微分可能であるとは、
が の近傍で定義され、
かつ極限 (微分係数)
が存在することを意味する。
これは、すべての成分が で微分可能であることと同値であり、
となる。
高階導関数や 性 ( 階連続微分可能性) なども
通常の 1 変数関数と同様に定義する。
定理 5.2
行列の導関数について次が成り立つ。, 等は微分可能な行列値関数、
, はそれぞれ定数値、定数行列とし、行列の和や積などは
それらが計算できる場合に成立するものとする。
-
-
,
,
-
-
-
- 区間 内のすべての に対して と が可換であれば、
に対して と は可換。
- 区間 内のすべての で が正則で、
に対して と が可換であれば、
に対して と はそれぞれ可換。
証明
1., 2., 3., 4., は易しいので (成分を考えれば明らか) 省略。
5. 以降を示す。
5.
の両辺を で微分すれば、3. により
となるので、両辺左から 倍すれば得られる。
6.
であれば、両辺を で微分して とすれば
となり、 と は可換になる。
よって、容易に
が得られる。
7.
6. により
が成り立つので、
この両辺に左からと右から をかければ、
となり、 と は可換になるので、
容易に
が得られる。
なお、一般には と は可換ではない。例えば、
の場合、
となるので可換ではない。
定理 5.3
- が定数行列の場合、
- が区間 内で微分可能で、すべての に対して と が可換であれば、
証明
2. のみを示せばよい。 に対して
とすると、
より
となるが、仮定より と は可換なので
定理 4.2 より
となるので、
とすれば、
(11)
となる。今、
とすると、
と書ける。ここで、 の微分可能性により、
ある , が取れて、
である
任意の に対して
とできる。よって、
となるので、
となる。よって、この最後の右辺を とすれば、
となるので、これは
のときに 0 に収束する。
また、
となるので、
よって
となることがわかる。
結局、(11) より、
となる。
竹野茂治@新潟工科大学
2022-05-02