7 割り算による方法

本節では、前節よりシンプルな割り算による方法で、$A^n$ の計算を考えてみる。

前節と同じ、$N=3$ の場合で考える。 まず、 $f_A(x)=(x-\alpha)(x-\beta)(x-\gamma)$ の、 重解がない場合を考える。

$n\geq 3$ に対して $x^n$$f_A(x)$ で割れば、余りは 2 次式になり、 よってその商を $Q_n(x)$, 余りを $R_n(x)$ とすれば

  $\displaystyle
x^n
= Q_n(x)f_A(x)+R_n(x)
= Q_n(x)(x-\alpha)(x-\beta)(x-\gamma)+R_n(x)$ (29)
となる。 ここに、$A$ を代入すれば、$f_A(A)=O$ より $A^n=R_n(A)$ となるから、 結局 $R_n(x)$ を求めればよいことがわかる。

(29) で $x=\alpha,\beta,\gamma$ とすれば、

  $\displaystyle
\alpha^n = R_n(\alpha),\hspace{1zw}\beta^n = R_n(\beta),\hspace{1zw}\gamma^n = R_n(\gamma)$ (30)
となるので、後は (30) を満たす 2 次関数 $R_n(x)$ を 求めればよいが、それは、最終的には、(24) の $N=3$ の場合の式
$\displaystyle R_n(x)
=\frac{(x-\beta)(x-\gamma)}{(\alpha-\beta)(\alpha-\gamma)...
...ha)}\beta^n
+\frac{(x-\alpha)(x-\beta)}{(\gamma-\alpha)(\gamma-\beta)}\gamma^n
$
となる。

重解を持つ場合も同様で、 $f_A(x)=(x-\alpha)^2(x-\beta)$ ( $\alpha\neq\beta$) の場合、

  $\displaystyle
x^n
= Q_n(x)f_A(x)+R_n(x)
= Q_n(x)(x-\alpha)^2(x-\beta)+R_n(x)$ (31)
とすると、$R_n(x)$
  $\displaystyle
\alpha^n=R_n(\alpha),
\hspace{1zw}\beta^n=R_n(\beta),
\hspace{1zw}n\alpha^{n-1}=R_n'(\alpha)$ (32)
を満たすことがわかる。 最後の式は、(31) の両辺を微分して $x=\alpha$ と したものである。 よって、$R_n(x)$$\alpha$ でテイラー展開した形で考え
$\displaystyle R_n(x) = a+b(x-\alpha)+c(x-\alpha)^2
$
とすれば、 $a=R_n(\alpha)=\alpha^n$, $b=R_n'(\alpha)=n\alpha^{n-1}$ となり、
$\displaystyle R_n(\beta)
= \alpha^n+n\alpha^{n-1}(\beta-\alpha)+c(\beta-\alpha)^2
= \beta^n
$
より、$c$
$\displaystyle c = \frac{\beta^n-\alpha^n}{(\beta-\alpha)^2}
-\frac{n\alpha^{n-1}}{\beta-\alpha}
$
となり、結局、
$\displaystyle R_n(x)
=\alpha^n
+n\alpha^{n-1}(x-\alpha)
+ \left(\frac{\beta^n-...
...ha^n}{(\beta-\alpha)^2}
-\frac{n\alpha^{n-1}}{\beta-\alpha}\right)(x-\alpha)^2
$
となり、ここから (27) が得られることになる。

$f_A(x)=(x-\alpha)^3$ の場合は、

  $\displaystyle
x^n
= Q_n(x)f_A(x)+R_n(x)
= Q_n(x)(x-\alpha)^3+R_n(x)$ (33)
とすると、$R_n(x)$
  $\displaystyle
\alpha^n=R_n(\alpha),
\hspace{1zw}n\alpha^{n-1}=R_n'(\alpha)
\hspace{1zw}n(n-1)\alpha^{n-2}=R_n''(\alpha)$ (34)
となるので、$R_n(x)$ は、
\begin{eqnarray*}R_n(x)
&=&
R_n(\alpha)+R_n'(\alpha)(x-\alpha)+\frac{R_n''(\a...
...+n\alpha^{n-1}(x-\alpha)+\frac{n(n-1)}{2}\alpha^{n-2}(x-\alpha)^2\end{eqnarray*}
となって (28) が得られる。

なお、この場合の $R_n(x)$ は、二項定理を使って、

\begin{eqnarray*}x^n
&=&
(x-\alpha+\alpha)^n
=
\sum_{k=1}^n\left(\!\!\begin...
...}
+\left(\!\!\begin{array}{c}n\\ 0\end{array}\!\!\right)\alpha^n\end{eqnarray*}
から得ることもできる。

なお、この節の割り算による方法なら、 固有方程式の解を求めなくても、 具体的な $n$ に対して実際に $x^n$$f_A(x)$ で割り算を行って 余り $R_n(x)$ を求めることで $A^n$ を計算できる、 というメリットもある。

竹野茂治@新潟工科大学
2023-11-27